Vin douxの甘口かしましラジオ

昼間あくび

第1話

朱「皆の衆、御機嫌よう」

白「皆の衆!?」

朱「今月から月一配信を予定しておりますVin doux《ヴァンドゥー》の甘口かしましラジオ、パーソナリティーを務めますのはアイドルユニットVin douxの朱色あかいろ担当、真朱まそほひわです。そして」

白「皆の衆に対する謝罪はないんだね」

朱「私の辞書に謝罪の文字はないわ」

白「心配な人生だ。えっと皆様こんばんわ、アイドルユニットVin douxの白色担当、清白すずはららです。今月から、どうぞよろしくお願い致します」

朱「あらあら丁寧な挨拶ね」

白「ひわさんにはユニットリーダーとして、挨拶をやり直して欲しいかな」

朱「先程はどうも失礼致しました」

白「謝罪してるじゃない」

朱「私の辞書にないのは射山しゃざんだったわ」

白「確かに日常会話で殆ど使わない言葉だけど」

朱「上皇って言葉に置き換えると意味は通じるけれど、やっぱり普段使いはしないわよね。ああでも三重県には射山神社いやまじんじゃがあるのだから、案外その道のプロフェッショナルたちにはメジャーな言葉なのかも」

白「漢字は一緒だけど読み方が違うでしょ。音声だけ聞いてる皆様に伝わらなさすぎるよ。射山しゃざんについてこれ以上言及するのはやめにしよう?挨拶はどうしたの」

朱「師走の佳き日に、私たちの雑談ラジオ番組が和気藹々わきあいあいと楽しくスタートを切れることを、心より嬉しく思っております。私、アイドルユニットVin douxのリーダーを務めています、真朱ひわ、十六歳です」

白「また沢山突っ込みたいところはありますが、同じく清白らら、十八歳です」

朱「アイドルユニットですと挨拶をしているけれど、駆け出しも駆け出し、知名度ほぼゼロな私たちのラジオ番組を、お聞きになってくださって本当にありがとうございます」

白「ありがとうございます」

朱「お目が高くいらっしゃる」

白「知名度ゼロってマイナスなことを言った舌の根も乾かない内に、何でそんな上から目線な一言を付け加えたの」

朱「プラマイゼロになるかな、と思って」

白「むしろマイナスに傾いたよ」

朱「ところで、射山神社いやまじんじゃって恋のパワースポットとして有名なのよ。是非一度行ってみたいものだわ」

白「ひわさんってパワースポットに興味あるの?科学的根拠がないものは信用していないクチだと思っていたや」

朱「全ての事案に根拠が必要とは思わないし、屁理屈を言うなら、どんな事象も起こってしまえば後からいくらでもそれらしい理屈をくっつけられる、とも思うわ。けれどそうね、射山神社に行ってみたいというのは本当よ」

白「その心は?」

朱「その近くにある榊原温泉に入りたい」

白「神社関係ないね」

朱「落ちもついたところで本格的にラジオを始めていきましょう」

白「三重県に謝罪したいよ」

朱「射山しゃざんだけに?」

白「Vin douxの甘口かしましラジオ、スタートです」

朱「普通にスルーされてしまったわ」


白「スタートです、と勢いよく初めて見たものの、初回だからやっぱり自己紹介やこの番組の趣旨を説明した方が良いと思うんだけど」

朱「前説で散々したのに?」

白「散々したのは謝罪と射山をかけた言葉遊びに対する追及だよね」

朱「では自己紹介も兼ねて、一通お便りを読んでいこうかしら」

白「え?初回からお便りが届いているの?サクラとかではなく?」

朱「奇跡的に届いたお便りです。ありがとうございます」

白「奇跡的に届いた一通なら、そんな簡単に取り出さないで下さいよ」

朱「えーっと、ラジオネームがなかったので、ここは名無しの権兵衛さんからということで」

白「折角届けていただいたお便りなんだから、もうちょっとおしゃれなラジオネームにならないかな?」

朱「注文が多いわね。そういうの、嫌いではないわ」

白「さすがリーダー。その一言は素直に頼もしい」

朱「ではそうね、うん。私たちのユニット名に合わせてフランス語でJohn Doeで如何かしら」

白「一気にオシャレになったね」

朱「これからラジオネームなしで送られてきたお便りに関してはジョンさんとお呼びすることにしましょう」

白「驚きの速さで略したね」

朱「ジョンさんからのお便りです。『お二人の中で特に思い出に残っているライブなどはありますか?』」

白「ジョンさん、お便りありがとうございます」

朱「ありがとうございます」

白「ライブかー。私が印象に残っているのは、他のアイドルさんも交えた大きなライブに出たときのことかな。事務所の先輩とも共演したり、得るものの大きいライブだったよね」

朱「そうね。またあの位大規模なライブにお呼ばれしたいものだわ」

白「うんうん。やっぱり、応援して頂いてるって直に感じられるのって嬉しいよね」

朱「正直、私たちみたいなのは支持率勝負、みたいなところもあるわけだし」

白「そう聞くと政治家さんみたいだけれど」

朱「まぁ私たち支持率というか、認知率も全く高くないけれどね、うふ」

白「笑いごとじゃあないでしょ。深刻な問題だよ。大問題。というか、ひわさんって時たま前向きなネガティブさを発揮するよね」

朱「ららちゃんは私をどれだけ器用な人間だと思っているのかしら。前向きにネガティブって」

白「開き直っているとも言うのかな?」

朱「今が底辺なのだから、後は上がるしかない、と思っている・・・というのはただの強がりかしらね」

白「それを強がりだと認められるところが、ひわさんが本当に強い所だと相方の私は思うけど」

朱「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」

白「というか、合同ライブの話から大きく脱線しちゃったね。話を戻しましょう」

朱「そうね。合同ライブが気になった方は、某さえずりサイトさんで私たちのさえずりを遡っていただけると幸いです」

白「あからさまなマーケティングだなぁ」

朱「広報も大切でしょう?仕事は待っていても来ないのよ。自分たちで売り込んでいかないと」

白「逞しい。そんな逞しいひわさんは、思い出に残っているライブってある?」

朱「私は、デビュー前の夏祭りがとても思い出に残っているわね。ユニットを組むキッカケになった、ほら、あの時の」

白「そうだね、やっぱり印象深いよね。でもリスナーさんに全く伝わらないからちゃんと説明を入れなくちゃ、だよ」

朱「しっかりしている相方で頼もしい限りよ。ええっとあの時は町内の夏祭りで開催された一芸大会で、歌と踊りを披露したのよね。実質、私たちユニットの初舞台」

白「何かと夏に縁があるね、私たち」

朱「そうね。ではまぁユニットの活動と紹介はこのくらいにして、私たち個人の紹介でもしましょうか」

白「凄くアッサリして紹介だったよ?ちゃんとリスナーさんに、私たちのユニットのことが伝わっているのか不安なんだけれど」

朱「ららちゃんってば、心配性ね」

白「ひわさんの心臓が鋼なだけだと思うよ」

朱「その初舞台については、そのうち番外編で公開されるんじゃあないかしらね」

白「番外編って?」

朱「おおっと口が滑りました。聞き流して頂戴」

白「そんな言われ方をされると、とても気になってくるんだけど」

朱「皆々様改めましてこんにちは。鋼の心臓を持つ女、真朱ひわです」

白「力技で自己紹介に入ったね」

朱「六月十二日生まれのふたご座。好きな花はライラック。趣味はゲームをやり込むことです」

白「確かにひわさん、隙あらばゲームしてる印象があるな。移動中も空き時間も、気付いたら携帯用ゲーム機を持っててビックリするもん」

朱「まぁ家庭用ゲーム機を持ち歩くのは中々難しいから」

白「掘り下げるべきはそこじゃないよ」

朱「小説、漫画、アニメも大好き」

白「そういったカルチャーが大好きなんだね、ひわさん」

朱「日本を支えていると言っても過言ではない、素晴らしい文化に敬意を払っていると言って頂戴」

白「また趣味一つを紹介するのに大きく出たね」

朱「特に好きなのはロールプレイングゲームよ。自分で道を切り開いて物語を進める感覚が、達成感があって爽快だわ」

白「イキイキしてるなぁ。私はスマートフォンとかで簡単に遊べるパズルゲームくらいしかやったことがないんだけど、そんなに楽しいなら一度遊んでみたい気はするね」

朱「ららちゃんってば、私のような人種の前で社交辞令でも遊んでみたいとか言ってはダメよ。迂闊すぎるわ」

白「え、どうして?」

朱「いえね、私のような人種全員がそうだとは言わないけれど、少なくとも私はね、新たな小鹿が沼に落ちるのを待っている、いわば狩人なわけなのよ」

白「狩人って。狩人感より沼地に棲む魔女、みたいな印象を受けるけど」

朱「だからね、そんなに迂闊に遊んでみたいー、なんてことを言うとね?待っていましたとばかりに布教を始めるわけなのよ」

白「布教って、ゲームが一つの宗教みたいな扱いになってる」

朱「改めてそんなところにツッコミが入るなんて、思っていなかったわ」

白「何でそんなショックを受けた顔をしているの、ひわさん」

朱「いえ、これが文化の違いかと。不覚にも結構驚いてしまったわ」

白「さっき鋼の心臓を持つ女って自己紹介したばかりなのに?」

朱「そういえば、最近文化と言いますか、時代の流れによって起こる変化を体験したのだけど」

白「ひわさん。こんなことをリーダーに聞くのは本意ではないんだけれど、私の自己紹介がまだだってこと、考えて喋ってくれているのかな?」

朱「大丈夫大丈夫。なるはやで終わらせるから」

白「なるはやって」

朱「最近ね、私の友人が共通の知り合いに向かって『○○ちゃんのそういうミーハーなところ、可愛いと思う』って言ってたのよ。私はミーハーっていう言葉を、流行り廃りに流され易い人、とか、教養の無い人って意味で使うものだとばかり思っていたから、凄く驚いたわ。しかもどうやら、嫌味で言ったわけではないのよ」

白「これも、リーダーに言うべきことでは絶対にないんだけど、一ついいかな」

朱「どうぞどうぞ、私の心は寛大よ」

白「ひわさんって、友達居たんだね」

朱「グッサリきたわ。ガラスのハートがパリンと割れた音がした」

白「グッサリなのかパリンなのかどっちなの。って、ひわさんが持っていたのは鋼の心臓じゃなかったっけ?」

朱「いやだわ、ららちゃん。仮にも相方で一応ユニットリーダーである私に、そんな暴言を」

白「仮じゃなくてちゃんと相方だし、一応じゃなくて正真正銘リーダーでしょ。何でそこで後ろ向きになるの。いやだって、ひわさんが友達と一緒に仲良くお喋りしてるところってあんまり想像が出来ないから、つい」

朱「こんなに幼気な年下をいじめて、そんなに楽しいのかしら?」

白「これはリスナーさんスタッフさんも含めたみんなの総意だと思うから言わせて貰うけど、ひわさんに幼気な年下要素は皆無だよ」

朱「そうね。自分で言っていて、らしくないなとは思ったのよ」

白「でもさっきの友達がいたんだねっていうのは完全に失言だったよ。ごめんなさい」

朱「いえいえ、まぁ友人がそんなに多くないっていうのは確かではあるんだけれど」

白「自分からそんな告白をしないで下さい。何だか物悲しくなってきちゃうから」

朱「けれどもね?いま、現在進行形で、お友達である貴女と、楽しく仲良く歓談していると思っていたのよ、私は」

白「そうだね、録音機材に囲まれている特殊な環境だからつい忘れそうになっていたけれど、そうでした。重ね重ねごめんなさい」

朱「分かれば良いのよ、分かれば。で、話を戻すのだけど、面食らった私はミーハーって言葉を検索してみたの」

白「そういうところ真面目だよね、ひわさん」

朱「そうしたら、最近では周りに影響されやすい若者のことを総じてミーハーって呼ぶそうで、教養の無い人って意味では使われていないんですって」

白「それでもやっぱり、あんまり良い意味には聞こえないね」

朱「何でも可愛いを語尾につけると、褒め言葉になる風潮とでも言うのかしら」

白「友達が居そうにないひわさんって可愛いね」

朱「大好きなららちゃんから可愛いって言ってもらえたのに、どうしましょう、嫌味にしか聞こえない」

白「そのお友達さんみたいに、絶対に上手くいくってわけでもないんだね」

朱「そんなこんなで、昨今は時の流れが早いと言いますか、流行り廃りのサイクルが目紛しいと言いますか」

白「情報化社会だらね。事実も嘘も全部が一緒くたにされちゃう時代で、自由な選択ができるとは言っても、ありとあらゆる場面で選択を義務付けられているわけだから」

朱「自分が好きなもの、嫌いなもの、アイデンティティーに関わる大切な事案が雑多な情報で埋め尽くされ歪められる時代だからこそ、自分の好き嫌いを明確に提示することは素晴らしいことだと思うわ」

白「何だか真面目な纏めになったね」

朱「これで真面目な話も出来るんだぞっていうところをアピールできたかしらね」

白「そんなことを考えていたの?」

朱「ただの姦しい雑談ラジオではないぞ、と。姦しいとは言っても、ラジオパーソナリティーは二人だから一人足りないけれどね」

白「何で最後に不必要なところに言及したの」

朱「それでは続いてららちちゃん、自己紹介をどうぞ」

白「ひわさんのお目付け役担当の清白ららです。十一月二十二日生まれの射手座です。好きな花はマーガレットで、趣味はダンスです」

朱「お目付け役って。もっと自分を前面に出したキャッチフレーズを考えて頂戴」

白「次回までの宿題でお願いします」

朱「結構。・・・それにしても、実益を兼ねた趣味ね」

白「身体を動かすのが好きだから、スポーツが基本的に好きなんだよ。ダンスは昔から習っていたりしたから、やっぱり別枠かもしれないね」

朱「習い事だったのね」

白「うん。ジャズダンスと、一応バレエもやっていたよ。トウシューズを履けるところまで続けてはいないから、やっていたと言っていいのかわからないけれど」

朱「バレエ経験者だったのね。道理で立ち姿が綺麗なのか」

白「そんな直球で誉められるとビックリしちゃうよ。でもね、実は私、ひわさんもバレエ経験者なのかなって思ってたんだけど、違う?」

朱「私は貴方とユニットを組むまで踊りとは縁遠かったわよ。どうしてそう思ったの?」

白「だってひわさん、仕草がとても上品だから」

朱「仕草が上品」

白「姿勢もね、凄く凛としていたから。重心がしっかりしている、というか」

朱「そうね、ユニットを組む前はモデルを少しだけ嗜んでいたから。立ち姿には一応気を付けているつもりなのよ。だからこそ、ららちゃんの姿勢の美しさにも気付けたというのもあるわ」

白「何だかユニットでお互いを褒め合うのって恥ずかしいね」

朱「そうね、しかも少し私の紹介まで入ってしまったような気がするし」

白「そういえば、元モデルってところ、さっき全然話してなかったよね」

朱「はい、それでは気を取り直して、ららちゃんの紹介を続けましょう」

白「うーん誤魔化すなぁ。ええっと、手作業をしたりするのも好きだから、時間がある日とかはタティングレースを作ったりもしているよ」

朱「アメイジング・グレイスがどうしたって?」

白「何で『すばらしい恩寵』が趣味になるの。私は一体どんな超人なの」

朱「超人というより聖人よね。人に成る方ではなくて、ホーリー的な意味の」

白「ホーリー的って言い替えると、途端に聖なる雰囲気ではなくなるね。というか、射山を知っている人が知らないはずないよね、タティングレース」

朱「いえ、知ってはいるんだけれど。名前はとてもオシャレだし見た目も可憐だけれど、あんなに繊細なもの、作成するのだとしたらとても細かい作業よね。私なんかは作り方を読んだだけで眉間の辺りが凝り固まってくる気がするわ」

白「ひわさん、細かい作業は苦手なんだ」

朱「ずっと同じことを繰り返すのがもう苦痛だわ。だから今、普通にららちゃんを尊敬している」

白「人には向き不向きがあるもんね。タティングレースを使ったくるみボタンとか、作るの楽しいんだよ?」

朱「くるみボタンって響きが、もう可愛らしくて反則的ね。というか、ららちゃんにそんな素敵かつ繊細な趣味があったなんて知らなかったわ」

白「わざわざ外出先や人前で作るものじゃあないしね」

朱「リーダー失格だわ」

白「そこまで思いつめられましても。良かったら今度プレゼントしようか、くるみボタン」

朱「あら、頂いてしまっていいの?」

白「趣味で作っているものだから、お店で売られているようなものに、見栄えは劣るけれど」

朱「そんなこと。ららちゃんからプレゼントされるなら、なんだって嬉しいわ」

白「そんな良い笑顔で言われると、私の方が照れちゃうよ」

朱「リスナー様に見せられなくて残念だわ。私の良い笑顔」

白「自分で言っちゃうんだね」


朱「あら、といったところでそろそろ」

白「本当だ、エンディングの時間だね」


朱「残念なことに真面目な話をしてしまったわ。真面目に自己紹介をしてしまった」

白「今、残念なことにって言った?」

朱「不覚をとったとも言う」

白「真面目な話をすることが、悪いことみたいに言わないで。ドンドンしていこう真面目な話。真面目なラジオ」

朱「正直に言って、堅苦しいラジオなんて需要がないと思うのよ」

白「不真面目なラジオなら受け入れられるってわれでもないでしょ。そんなのパーソナリティーの力量とか人気とかに起因してくるし」

朱「こういう話をすると私たちの知名度を言及しなくてはいけなくなるからやめましょう。何も自分たちで傷を作ることはないわ」

白「そのとおりだね」

朱「では初回はこんなところで」

白「次回からのお便り、随時募集しています」

朱「投稿ホームのご案内は紹介ページを参照ください」

白「また次回もお会いできると嬉しいです。パーソナリティーはVin douxのエンジン担当、清白ららと」

朱「Vin douxのガソリン担当、真朱ひわでした」

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