クズ人間更生黙示録

大天使 翔

第1話 捨ててもいい人生

 今日の講義が全て終わり、クラスが盛り上がる中、俺は速攻で教室を出た。そして大学の玄関まで行くと、目の前の光景に一瞬足がたじろいだ。


 キャンパスの中央にそびえ立つ、高さ3メートル噴水。その周りの広場では、パリピ感丸出しの男女が、大声で笑いあっていた。隣にある芝のグラウンドからは、サッカーサークルのかけ声が聞こえる。青春を謳歌し者達が、充実した顔で大学生活を送っている。


 俺には、無縁の世界。お前ら全員死ね。


 玄関の前にある階段を駆け足で降りると、顔を俯かせ、早歩きで広場を抜けていった。木々が立ち並ぶ校門までの道も、すれ違う人をジロジロ見ながら颯爽と歩いていく。視界をできるだけ狭め、世界と自分を遮断をするように歩き続けた。


 このFラン私立大学は、Fランク大学としての全ての条件を満たしている。無駄な学費の搾取、無駄な設備投資、無駄なゴミども、無駄な講師・・・etc.


 このキャンパスの広さは無駄な設備投資によるものだ。校門まで早歩きで3分かかるのは、本当にきつい。


 ようやく校門に着き、自動車が行き交う道路沿いに出た。


 まだ帰る人が少ないようだ。人通りが少ない。


 全身が汗でびしょぬれになりながらほっと一息つくと、左に曲がり、ゆっくりと歩き出した。


 あの講師のババアマジで死ね。俺が楽しく3Pする夢見とっら、いきなり当ててきやがった。大学生にもなって、朗読して何になるんだよ。しかも、俺が焦って噛んだときのあのパリピどもの顔。俺を見下しやがって。どうせあと二年もしたら、お前らブラック企業に入って家畜みたいに働かされるんだよ。


「お、そうだ」


 俺はそう言うと、スマホを右のポケットから取り出した。しかし、スマホを電源をつけた瞬間、あることに気がつく。


「チッ」


 舌打ちを打つと、電源を勢いよく切った。データオーバーで、さっきの講義の時間、Twitterを出来ずに寝ていたことを思い出したのだ。


 まあ確かに、1コマの講義で30ツイートもしていたら、そりゃあデータオーバーするかもしれない。


 俺はそのままスマホをポケットに突っ込んだ。Twitterで発散するつもりだった鬱憤が溜まっていく。それが、照りつけるうざったい日差しと相まって、さらに苛立ちが増してきた。今すぐにでも吐き出したい。


「例えば・・・」


 俺は顔を上げた。すると、前の方から、身長が俺より少し低いくらいで、黒髪のロングヘアの制服を着た、高校生らしき女の子が歩いてきた。スマホに夢中で、おそらくこちらにも気づいていない。


 スカートの下から歩く度に少し覗く白くい太もも。そこから靴までスラッと健康的な肉の付き方をしたふくらはぎ。少し汗のしみた、今にも透けて見えてしまいそうな白いシャツ。俺の下半身の熱気が高まっていった。


 もう俺には捨ててしまっていい人生しか残っていない。どうせこのまま何もせずに死んでいくなら・・・。


 女子高生との距離が縮まっていく。それと比例して、俺の足が止まっていった。


 今やれば・・・せめて胸くらいは触れるだろうか。もう捨てていいんだ。もしかしたら、今の息苦しい生活よりも楽になるかもしれない。


 俺は一歩を踏み出した。徐々に、2歩3歩と歩き始める。もう距離が、頑張れば手の届く位置まで近づいた。膝が、体全体が震えだす。心臓が、張り裂けそうなくらい高鳴った。


 もう、やってしまおうか


 手をのばしかけたその瞬間、女子高生がチラッとこちらに目を向けた。おそらくただ前を確認しただけだが、その瞬間俺の動きは止まった。


 俺は、そのまま車が行き交う音を呆然と聞きながら、心に重い何かがのしかかったのを感じた。女子高生の足が遠のいて行く。

 

 踏み出せなかった。あと一歩が。

 

 俺には何もできない。


「クソッタレ!」


 俺は小さめにその声を発すると、足早にその場を立ち去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る