神格召喚と水槽の脳
「ぼ、僕なら普段はヨコハマエリア全区域のい、一般兵士は10分もあれば鎮圧出来るんだけど、ぼ、僕専用のトラップが多すぎて、最近面倒で」
そりゃあアレだけ警戒されればそうなるだろうなぁ。どう見ても変態だし?
「君、まだ速度に同期出来ていないのかい? 言葉がブレているよ」
「ぼ、僕からしてみれば、こ、この世界が遅すぎるんだ。時間が、ず、ズレているみたいな」
《 神召喚でアムニヘイテを呼びなさい。助けてくれるから。君達には天速玉姫命と呼ばれているわ 》
「待って、今アムトリスから念話が入った。それ、何とかなるかも」
天速玉姫命。俺の名前の由来になった日立市の泉神社に祀られている神様だ。湧き水を神格化した神様だって聴いたけど、どう関係するんだ?そもそもどうやって――――あっ
いつもの能力発動時と違い、身体中が熱を持つ。身体の中に異質なエネルギーを感じる。そうして輝く手を向けた先に、神格召喚の文字が浮かぶ。
《名前を唱えなさい、名前はどっちでもいい》
アムトリスに言われ、神様の名前を唱える。
「召喚! 天速玉姫命!」
神格召喚の文字が合わさり合い、渦を巻く。その中から現れたのは…………ん?
「どうも皆様。お手伝い、よろこんで引き受けましょう…………あら? これはちょっと苦しいかも…………」
体全体が水で出来ているかのような、透明で美しい神様が現れたんだが…………なんかすごく小さい。例えるなら、小指サイズだ。やはりこの、可能性の小さい世界では、神様達は力を出し切れないらしい。
「随分と可愛いお方ですね」
「ほぅ、その方はどなたです? 」
「あ、新しい……これは新しい……良い……」
「私、アムニヘイテと申します。お見知り置きを」
「うううん、小さい人形もありですなぁ」
なんかほざいているやつも含め、全員に俺の地元の神様だということを説明する。神様の説明って難しいんだよな。俺もそんなに詳しくないし。
「そこの変わった服装の方が、時間のズレでお悩みしているのですね。そういうことでしたら。えいっ! 」
天速玉姫命は背伸びをしながら、ヴェルトメテオールの全身に水の様な力場を発生させる。それはまるで水に包まれているような幻想的な風景ではあるのだが、如何せん中身はスク水の変態だ。最悪な絵面だと言えよう。ほらみろ。カシマがまた曇ってる。
「これは一体? ん? 違和感がないぞ? お! おお! 周りがブレてない! これは凄いぞ! 」
ヴェルトメテオールの声のブレが消える。今まではまるでマイクを降って動かしながら話しいているようだったが、本当に効果があったらしい。
「私は流れを司っていますので。ではこれにて失礼しますね。少々ここに留まるのはそろそろ辛いので」
「助かりました!ありがとうございます! 」
「心から感謝を! ありがとう!ありがとう!」
「よしなに〜」
そうして天速玉姫命は光に分解するかのように消えていった。さて、問題も解決した事だし、本番と行きますか!
「では予定通り、ステルスモードとヴェルトさんの力を使って一般職員と上級職員を片っ端から古に放り込み、ネイトと会おう」
明野町の能力を使えば、簡易的なワープになる。移動には非常に便利ではあるが…………、うん、相変わらず何も無い。
そこから出口を開くという、手間のかかるどこで〇ドアのような仕様。
更に出口から出てくるのは、青いイカしたジャケットと、緑の可愛いニンジャっぽいアンドロイドのお二人さん、そして紫髪と黒髪のライダースーツの女性2人とコートを纏った怪しい男極めつけはスク水穿いた変態だ。
――――――――わぁ、とんでもない事になっちゃったね、うん。
まぁそんなわけで、コントローラーズの拠点の一つ、日ノ出町ら辺の大きな建造物。
俺の世界ではハーモニカ横丁だった場所だ。
あのなんとも言えない不思議な雰囲気は残念ながらそこには無く、ただ無機質な灰色のビルがそびえ立っている。
「相変わらずつまらない場所だ。デートには不向きですなぁ、マドモアゼル」
ペイグマリオンはカシマに向かいウィンクをするが、彼女はドン引きしているようだ。
「ヨコハマエリア西方支部です。地下には本部直通のループチューブがあります。中には事務員と一般職員がいますね。作戦通り、ループチューブでヨコスカエリアに侵入します」
「なぁ、シャリエさんと音辻さんが一旦戻って手引きするってのは? 」
「ウォッシュメントのオムニフラグメントを破壊したとは言え、いつまた洗脳されるか分かりませんから…………」
なるほどなぁ。そういえば、コントローラーズは何故戦闘時に洗脳機能を使わなかったんだろうか。使えば強いと思うんだけどなぁ。
「ヒタチ君、いや、ここはヒタチきゅんと呼ぼう」
「え、嫌です」
残念だったなスク水。俺はノーと言える日本人なんだ。
「ハハッ! 同じ作品を嗜む同志じゃないか。遠慮はしなくて良い。さてと、ここは僕が片付けてくるかな。殺さなくて良いなら気は楽だ」
ノーと言っても無駄だった…………。
「報告、多数のオムニ反応を検知」
「オムニ反応?」
「オムニフラグメントを解析した結果、固有の粒子反応を確認しました」
流石ダイゴだ。しっかり解析していたんだなぁ。
「これは、多数の罠がありますね、あっ……」
「如何なさいました? マドモアゼルシャリエ」
「いえ、前よりもボヤけて見えるので…………まだ慣れていないみたい」
「なるほど、使い勝手というのは練習あるのみですなぁ、私も時々アクセスゲートがズレでしまいましてなぁ」
「そうですね、慣れるしかない。確かにその通りですね」
シャリエさんとペイグマリオン。戦っていた割には普通に接している。そもそも本来、コントローラーズとリベレーターは争いすらしていなかったらしいしなぁ。
「罠と言えば、ああ、あの子ですか」
「シレネ先輩ですね〜」
「シレネ? さっき言ってた罠のスペシャリストだっけか? 」
そう、コタツ会議でコントローラーズの能力者については大体把握している。Cクラス職員、シレネ。彼女は警備の為、コントローラーズの支部に数々の罠を仕掛けているらしい。
「そうです、まぁヴェルトメテオールならば今までも掻い潜っているので、問題はないでしょう。多分」
「さて、そろそろ行きますか?」
シャリエさんと音辻さん、聞いた話じゃあの高速変態相手に散々手こずってそうだったもんなぁ。多分ねぇ…………。
「警備が二名、ステルスフィールドに近付いてきます。セキュリティキーを奪いましょう。あれ? でもこの感じ…………」
「任せて」
そう言った瞬間、緑の閃光が迸ると、俺達の目の前には、ロープでぐるぐる巻きにされた一般戦闘職員が二人座っていた。速い。全く見えなかったぞ…………。
「驚いたね。、これマシン兵器だよ。おかしいな、今まで人間だと思っていたけど」
マシン兵器?
「ネイトに潜り込まれてますからなぁ」
捕まえた一般戦闘職員を近くで見ると、頭全体を覆うヘルメットに黒くて硬そうな装甲を付けた戦闘スーツを着込んでいる。機械だとすれば、どうして生命反応を感知したんだ?
「敵性種族、指名手配者を確認。警告します。拘束を解き、投降しなさい。繰り返す。拘束を解き、投降しなさい。しないのであれば、対象を破壊します」
「シャリエキュン! 危ない!」
縛っていた戦闘職員、マシン兵器の一人がヘルメットから何かを放つが、ヴェルトさんが瞬時にシャリエさんを移動させる。一体何を撃った!?
「レーザー!? このぉ!」
「待ちたまえ! 音辻くん! 私が! 」
音辻さんがマシン兵器に向かい、腰だめの姿勢から音響剣を胸に突き刺し、切り返しでレーザー発射口を破壊、更にもう一人の頭を切断し、首を跳ねる。切断した断面からは青い液体が流れ出し、辺り一面を染めていく。
「待てと言ったろう! 多分、この人形は…………」
ペイグマリオンがそう言うと同時に、首を切断した方のマシン兵器のさばってる割れたヘルメットから何かがこぼれ落ちる。
白い、まるで白子の様な……。
「分析完了。生命反応の理由が分かりました。この兵器は人間の『脳』を使用しています」
「「「!?」」」
レーザー発射口を破壊したもう一人のマシン兵器のヘルメットが割れ、中からは人間の顔が見えてくる。
――――これは、女の子……?
「そ、そんな…………こ、この子、この子は…………」
「この人形は、私の能力に近いようだ。これは人間だ。人間の頭部のみを使用したマシン兵器だ」
「こ、この子は、私が初めて上書き教育をした子です。事故で両親を失った…………でも、でもこの子は、水槽の脳にいるはず、こ、ここにいるはずないっ!」
アムトリスのビジョンでみた、あの事故の場面。あの時の被害者の女の子。その子が今、目の前で亡くなっていた。
「私が言うのも何だが、ネイトも中々悪どいものだ。水槽の脳など、本当にあるのかね? 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます