塵も積もれば鈍器となる
南高梅
自我
はっと目覚めた。
ここはどこだ。私は誰だ。
Who am I?
こんにちは、hello、ボンジュール、ニーハオ、アンニョンハセヨ
しっくりくるのは「こんにちは」だ。つまり私の言語圏は日本語という事になる。
たらり、何かが垂れてきた。
赤黒い液体、降ってきたほうを見ると、格子状の中に何か回転するものがあった。
私はこれを知っている気がする。
はっと周囲の様子に気付く。私は座っている。誰かも座っている。
あるいは太い紐で垂らされた輪を掴む人もいる。
あるいはぎゅうぎゅう詰めで立つ誰かも。
ガタンゴトン、音はずっと続いている。
そしてその空間は、長方形の箱のような形をしている。
思い出した、これは「電車」だ。更に言うなら満員電車だ。
そして私に液体を垂らしたもの、これはエアコンだ。
運搬される我々の代わりの血の涙、とでも形容しておこうか。
意識がはっきりしてくる。確かに数十分前、私はこの電車に乗った。
運よく座れた私は、ついうっかり安堵から意識を手放してしまったのだ。
途端に恥ずかしくなってきた。
先ほどの言語確認はそれなりの声量で行ってしまったからだ。
膝に置いた鞄でなるべく顔を隠すように、結局私はいつもの通勤をするのだった。
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