私の知らないあなた(2)

「雫がもっと登れるようになったら、いつか二人で雪山に行こうか」


 優斗の語る白い世界に私は胸を膨らませた。


 私の夢は好きな人と結婚してその人の子どもを産むことだった。


 古くさいと思われそうで普段はそのことは黙っていた。


 訊かれるとその時その時思いつく職業を口にして、それになるのが夢だと嘘をついていた。


 頭のいい優斗はそんな私の嘘をすぐに見抜いた。


「専業主婦も立派だよ。雫が一番なりたいものになればいいんだよ」




 優斗は私の全てになった。


 いつしか私の夢は優斗と結婚することになっていた。


 こんな私は重いだろうか?


 知られたら優斗は逃げてしまうだろうか?


 不安になった。




 ある日優斗は言った。


 二人でクリスマスツリーの飾りつけをしている時だった。


「大学を卒業したあと少しぐらいは社会に出て働いてみた方がいいと思うよ。それから結婚して子どもを産んでもぜんぜん遅くないよ」

 

 まるで他人事のように話す優斗に思わず訊き返す。

 

「結婚と子どもっていったい誰の?」

 

 優斗は目を丸くした。

 

「僕と雫に決まってるじゃないか」

 

 幸せすぎるほど幸せだった。


「じゃあ、将来は子どもたちと一緒にツリーの飾りつけができるのね」

 

「海外では本物のもみの木に飾るんだってさ、子どもとかそういうの喜びそうだよな」

 

 前に見たアメリカ映画のワンシーンを思い出す。


 一家の大黒柱である父親が大きなもみの木を肩に背負い、その周りを子ども達が嬉しそうに歩きクリスマスソングを歌っている。


 優斗をその父親に重ね、まだ見ぬ私たちの子どものことを思った。

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