私の知らないあなた
八月 美咲
私の知らないあなた(1)
名前に優しいという漢字をもつ優斗は、野花の一本も手折れないようなやさしさと、いつも周りにいる人すべてを惹きつける輝く星のような人だった。
優斗と出会ったのは私の大学の登山サークルと優斗の大学の山岳部が合同で登山をした時のことだった。
木漏れ日が眩しい初夏だった。
お嬢さま短大のその年できたばかりの登山サークルと優斗の大学の山岳部では登山スキルに雲泥の差があって、
優斗たちにとってはピクニックのような登山だったに違いない。
その日予定より早くきてしまった生理のせいで、私はみんなの足手まとい的存在になってしまった。
そんななか優斗が私のお守役をかって出てくれたのだ。
最初は私の荷物も背負ってくれる優斗と休み休みゆっくりと登ったが、結局私たちは登頂をあきらめ下山することになった。
そしてだんだんひどくなる生理痛に私はついにその場にうずくまってしまった。
「合宿のときは君よりも重い荷物を背負って登るんだよ」
そう笑う優斗の背中で私はただただ申し訳なくて恥ずかしくて全身が火照った。
父親以外の男性の体にこんなに近く触れたのは初めてだった。
私は二つ年上の優斗に恋をした。
そして優斗は私の初めての恋人になった。
優斗の通う大学は誰もが知る有名大学で、見あげる高さにある端正な顔立ちと登山で鍛えられたたくましい体をもつ優斗を私の女友だちの誰もが羨ましがった。
今まで知らなかった音楽、飲んだことのないカクテル、行ったことのないレストラン、そしてときどき二人で山に登った。
そこで見た初めて見る満天の星空。
今まで自分がいた世界がちっぽけに感じた。
私にとって優斗はまるで初めて見る海だった。
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