Smile of Sweet ~愛を菓子
サダめいと
巡り会ったが三年目
春休みで毎日眠りすぎていたから、始業式の間は眠くて眠くてちょっと寝てた。
見慣れて新鮮でもなんでもない校舎に戻ってきた。でも、この教室に入ったのは初めてだ。階も違うからちょっとだけ新しい世界って感じがする。
今日から中学三年生だ。
クラス替えで楽しみなのは新しい友達ができるからって人もいるんだろうけど、僕はそんな期待はしない。入学してから二年たって友達の関係はほぼ固まっちゃってるんだから、新しい友達ができるなんて期待しちゃいない。
しっかり覚えていると自信を持てるほどではないけれど、顔と名前がなんとなく一致するくらいなら九十パーセントは埋まっている。二年間過ごしてきて、僕と友達になることはなかった人達だ。だから三年になってクラスメイトになったところで友達になることはないと思う。
残り十パーセントの人に期待してみようか――でも、僕にはもう友達の作り方がわからない。一年間、変に目立たないよう過ごすだけ。いじめられないよう、なるべく気が付かれないようにするだけ。
二年間の経験でわかったんだ。僕はもう友達は作れないって。作らないほうがいいんだって。
新しいクラスになって最初の席決めが発表されるのを聞きながらそんな事を思っている。
僕の席が発表されたけど、何の気持ちも湧かないで移動し、その席に座った。隣に誰がいるかは気にしない。すぐに机に顔を押し付けた。
席決めが終わるまで寝ていよう、と思った直後に左の脇腹をつねられたような痛みがあって、顔を起こして反射的に左を向いた。
ひと目でいたずらっ子だとわかる意地悪そうな顔の女の子が、本当に脇腹をつねっていた。
席決めした直後にイジメられる不幸を呪いたくなる。穏やかに過ごせるかもしれなかった中学校最後の一年間はいきなり不穏になってきた。せっかく残り十パーセントに当たったのに、いきなりハズレだと答え合わせをされたみたいだ。
でもちょっとの間にさっきの意地悪そうな顔はもうニッコリとした顔に変わっていて、僕の気持ちもあっさり変わってしまった。
――カワイイ。この席でよかったかも。
さっきまで隣は誰でもいいなんて思ってた自分の考えを簡単にひっくり返していた。僕の意思なんてそんなもんだ。
それでもちょっと納得いかない。初対面の人をいきなりつねってくるとか、ほらあれだ、デリカシーってのが無さ過ぎるんじゃないか。いくらかわいい女の子からのいたずらだからって、ちょっとうれしいような気持ちもなくはなかったりしたって、理由がなさすぎるのは気分が悪くなる。
イジメなら気分が悪くなるのは当然だよな。僕の中学三年目はこの女の子にイジメられて始まって、そのまま終わっていくことになるんだな。
僕の顔が暗くなったのが面白いのか、女の子はすごくうれしそうな顔をしている。くやしい気持ちはあるけど、くやしいくらいにカワイイから余計にくやしい。
「やっぱり
いきなり名前で呼び捨てとか、やっぱりその、デリカシーとかなさすぎる!
――――あれ?
「やっぱり?」
「小学校以来だよねー。また佳志に会えて嬉しいよ。一年間よろしくね♪」
「えっ……えっ?」
小学生の時にこんな女の子いたっけ!?
ぜんぜんわからん!!
「そんなに顔をガン見されたら恥ずかしいよ……って、もしかして私のことわからない?」
ぜんぜんわからん!!
「あーそれ、ぜんぜんわからんって顔だね。そっか、私のこと――じゃなくてボクのことわかんないかー」
自分のことをボクと言い直した?
予想もしない展開が続いて、どんどん混乱してしまう。
そのくせ女の子の方は、ますます楽しそうにしている。こちらが混乱しているのをカワイイ笑顔で追撃する精神攻撃を受けているみたいだ。自分ばかりこっちのことを知ってるみたいでずるい。
「こうしたらわかる?」
女の子はさらさらの長い髪を両手で耳のあたりでつまんだ。
短い髪みたいに見える。
――あ
「もしかして
「だいせーかい♪」
歯を見せる笑顔になった女の子が、思い出にぴったり合った。
武藤和生。小学生のころ、いちばん一緒に遊んでた子だった。
◇〃 □〃 ◇〃
始業式の日だから、昼には放課後だった。
なのにすごく時間が長かった気がする。
なるべく和生の方は見ないようにしていた。
でも、頭の中はずっと和生のことばかり考えてた。
考えたら納得できると思ったけど全然だった。
おかしい。おかしいよ。あの和生がこんな女っぽい女の子になってるなんておかしいよ。
小学生の頃はわざわざ女の子だなんて意識しなかったから、さっきの和生の笑顔を思い出しただけで心臓がドキンドキンと暴れる。
静まれ、僕の心臓。
「佳志ーぃ。一緒に帰ろうよ」
そう言われて今日一番に暴れる僕の心臓。
頭の中が和生の笑顔でいっぱいだったところに、いきなり和生の声が掛けられたんだからそりゃびっくりするよ。
「ねー、聞いてるー? ゆーあんだすたーん?」
まだ着席したまま黒板の方を向いている僕の視線に合わせるように、僕の机にアゴを乗せてこちらを見てくる和生。
さらさらの髪が僕の机に広がっている。いい香りがする。
「帰りましょう!」
自分でもよくわからなくなって敬語になっていた。
「ありがと」
そう言った和生の笑顔はふわっとしていて優しそうに見えた。
小学校以来の再会。それは間違いない。
忘れていたわけじゃない。別人のようだったからわからなかっただけ。
毎日毎日、学校の日も休日もいつだって一緒だった、すぐ近くにいた和生が、こんなカワイイ女の子になってるだなんて思いもしなかったから。
ずるいよ。反則だよ。
先を歩いていく和生の後ろ姿がすっかり女の子らしいのがいまだに信じられない気持ちなんだけど、少しずつ小学校時代の和生の姿が思い出せてきた。
おこづかいをもらうたびに武藤菓子舗に行っていたあの頃の記憶――
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