第7話 牡丹
「お、はえーな祐介」
「いや、待ち合わせ時間もう過ぎてるけどな・・・」
「まあ確かに。女二人が遅刻かよ」
「電車が遅延してたのよ」
後ろから朱里の声が聞こえた。振り向くと朱里の隣には遥が恥ずかしそうにしていた。そういえば遥の私服は小学校くらいから見ていなかったから、少し新鮮に見えた。
毎日制服姿は見ているが、私服姿で見ると別人にも見える。こういう状況だから意識してしまっているのもあるが、いつもよりもかわいく見え、少し見とれてしまう。
「ごめんね二人とも。もう少し余裕をもって家を出てくればよかった」
「電車の遅延って、人身事故とか?」
「なんか痴漢が出たらしいわよ。それで捕まったおっさんは冤罪だって喚いてたけど、被害者の女の子泣いてたし、うちらも遅刻するし、サイテーだわ」
「本当にあのおじさんは痴漢してたのかな?」
「まあどっちでもいいけどさ。遥と祐介は一緒に来るのかと思ってた」
「ゆーちゃんがデートに誘ってくれるなんて初めてだし、すごくうれしかったから、デートっぽく待ち合わせ場所でちゃんと待ち合わせたいって私が言ったの」
俺が誘ったわけでもないが、まあそれを言うのは野暮か。
「その割りに遅刻してるけどな」
「なんだそりゃ祐介。照れてんのか?」
「うるせーな。それより今からどうすんだよ大祐」
「え?お前決めてきてないの?」
「まじかよ・・・」
「頼りにならないわね~」
ここぞとばかりに朱里が食いつく。
「じゃあまあ、とりあえず映画でも見るか」
「お、前に俺が決めた計画通りだな」
大祐は笑いながら俺の肩を叩き、そう言った。なんとか言ってやりたかったが、なんだか今まで見た事ないくらいに楽しそうにしている大祐を見ていたらそんな気が失せてしまった。
「そうだな」
俺はため息混じりにそう言って笑った。
「映画館で映画って初めて見たけど、なかなかいいもんだな」
映画館を出るなり、大祐が満足そうに言う。
「そうか?別に家でDVDで見てるほうが気楽だなって思っちゃうんだけど・・・」
「祐介は空気読めないな~。みんなで見に来てるからいいんでしょ」
朱里が不満そうに俺を睨む。
「悪かったよ。とりあえずあそこで飯でも食いながら話そうぜ」
俺は近くのファストフード店を指差して言う。
「お、それも俺が決めた計画通りだ」
「俺が今決めたんだよ」
「はは。怒るなよ。ごめんって」
ファストフード店に向かっていく俺に大祐は笑いながら着いて来てそう言う。
「待ってよゆーちゃん」
朱里と遥もあわてて俺たちに着いてくる。
ファストフード店につき、それぞれが注文を終え、席につくと、ポテトをつまみながら大祐は言う。
「祐介、さっきの映画百点満点中何点だった?」
「ええ、いきなりだな。まあ五十点くらいかな」
「もう一回見に行きたいと思うか?」
「それはないな」
「だよな。そんなもんだよな」
ポテトをくわえながら大祐は頷く。
「お前はどうなんだよ」
「俺も同じくらい。要するに百人見にきたら五十人くらいが面白いって言うような映画かな」
「んー?それは俺たちの主観もあるからそうは言い切れないんじゃないか」
「まあ実際そうだけど、大体そんな感じだとしたらって話な」
ちらりと横を見ると遥はこちらを黙って見つめていて、朱里は興味もなさそうにハンバーガーを食べている。
「それでさ」
そんな俺達を気にもせずに大祐は続ける。
「映画って大きく分けると三種類に分けられると思うんだよ。百人見にきたら八十人が面白いって言う映画と、百人見にきたら四十人が面白いって言って、何回も見に来る映画、そして最後はどちらでもない映画」
「うーん。まあそうか?」
釈然としないまま俺は頷く。
「俺は個人的には二番目が好きなんだよ。万人受けはしないけど、深く長く愛される作品ってそういうもんだと思う。でも一番目が一番正解に近いと思うんだよな。やっぱ民主主義的にも多数に好かれるって事は、それだけ今の社会に適した内容だって事だ」
「じゃあ三番目は駄作って事?」
「いや、案外そうじゃないんだ。今日この四人で見に行くとしたら三番目が一番正解なんだよ」
「それはなんで?」
「一番目と二番目ってのは映画自体が記憶に残りすぎるからな。俺たち四人のこういうやり取りよりも映画の事が濃く残ってしまうんだよ。だから今日見るなら三番目が正解だったって事」
「いい映画は一人で見ろって事?」
「一概にそうは言い切れないし、そう言う事を言いたいわけじゃないんだけどな・・・」
「映画自体はイマイチだったけど、この四人で見に来れたならあの映画は最高だったって言いたいんでしょ」
とっくに食べ終わって退屈そうにしていた朱里が突然話す。
「うん。そう。そう言う感じ。さすが、よく俺の事わかってるねぇ」
「あんたはいちいちまどろっこしいのよ」
「そうかな?あたしは二人の話聞いてて結構楽しかったよ。それにゆーちゃんがDVDで見てる方が気楽なんて言うから大祐君がフォローしてくれたんでしょ」
遥がにこにこしながら話す。
「え、そう言う事?なんかごめん・・・」
「まあ本当はあんな事言ってたけど、ゆーちゃんったら怖いシーンになったら私の手、ずっと握ってたのよ。私はうれしかったけど」
「え、うそ。マジで?」
全く自覚がない。が、確かに気づいたら遥の手に触れていて、恥ずかしくてとっさに離した事は何回かあった。俺から握っていたのか?
「すげえ。祐介案外積極的じゃん」
大祐がうれしそうに俺を見てニヤつく。
「なんだ~そういうのしちゃってもいいならうちらももっとイチャイチャすればよかった~」
ふてくされる朱里。
「あ、そうだ。忘れてた。今日花火大会あるらしいぜ」
話題を変えようと突然大祐が切り出す。
「え、知らなかったの?」
「なんだよ朱里知ってたのかよ」
「そうよ。だからこの日にしたんじゃない。最終的に花火でも見ればいいかなって思って」
「じゃあ最初からそう言えよ」
「あれだけ町中に張り紙があって、あんた達三人とも気づいてなかったの?」
「私は気づいてたけど、今日ダブルデートの後にゆーちゃんと二人ででも見ようかと・・・」
「え、そうなの?」
俺は驚いて思わずそう言う。
女は思ったよりちゃんと色々計画してきてるんだな。
「遥はやらしーわね~。あたし達お邪魔だったかしら?」
「え、全然!そう言う事じゃないよ!こういう機会でもなきゃゆーちゃんとこういう風に遊びにも来れないし。みんな花火の話しないから花火の前に解散なのかなって思って」
「そう言う事ね。あたしもまさかこの男二人が何も考えてないとは思わなくて花火の事に触れる必要があるとも思わなかったわ」
なんだか男がえらい責められる流れだ。
「ま、これからはちゃんとデートくらいつれてってやれよな祐介」
大祐が俺を生贄にしてあちら側につこうとしている。
「そうよ。遥の事大事にしなさいよ。あんたには一生かかっても遥以上の女なんて見つからないから」
「そーだそーだ!」
遥も便乗しだした。
「わかったわかった。でも花火まで時間結構あるだろ?それまでどうすんだよ」
「適当にその辺ぶらぶらしようぜ」
「あ、じゃああたしランニングシューズ買いたかったからちょっと付き合ってよ」
「え、俺ら行ってもつまんねーじゃん。俺らは横のゲーセンでも行ってるよ」
「あんた彼氏なんだから彼女の買い物くらい付き合いなさいよ!」
そう言って朱里は大祐を無理矢理スポーツ用品店に連れて行った。
「じゃあ二人が帰ってくるまで私達はゲーセンで時間つぶしてよっか」
遥がうれしそうに俺の腕を引っ張った。
「そうだな」
ぶっきらぼうに答える俺。
私服なのもあってか、普段よりかわいく見える遥と、このデートで二人きりって状況のせいで、俺は完全に緊張していた。
「なんだかドキドキするね。いつも二人でいるのに」
遥は頬を赤めてニコニコ俺に笑いかける。
「別にそんな事ねえよ」
と言いながらも顔が熱い俺は、遥と同じように頬を赤めているんだろう。恥ずかしいが、なんだか今まで感じた事のないような幸せな気持ちに満たされていた。
ゲーセンに二人で来たものの、ゲーセンで遊んだ経験がない俺達は何をすればいいかわからなかった。
「ゆーちゃん!!これだよ!」
「え、なに?」
遥が指差す方向にはプリクラと呼ばれる写真を撮る機械があった。随分派手で、俺達のようなカップルや女子中高生であふれている。
「これゆーちゃんと撮るの夢だったんだ~」
「そんなのが夢でいいのか」
「いいんだよ!!撮ろう!ゆーちゃん!」
正直この狭い空間に二人で入るのは恥ずかしかったが、異常に興奮している遥を前に断る事はできなかった。
「うわー!すごい!こんな風になってるんだ」
中に入っても遥ははしゃぎまくっている。
「ゆーちゃん!これで落書きしたりできるんだよ!すごい!」
「そ、そうか」
自分達の写真に落書きするのがなんでうれしいんだろう。
お金を入れると機械は動き出し、アナウンスに沿って写真のパターンや種類、光の強さなどを選べた。と言うかいつになったら撮るんだ。よく知らない俺はいつ撮られるかわからず、ずっとカメラと思わしきものを睨んでいた。
「ゆーちゃんなんでずっとカメラ睨んでるの。うけるんだけど」
そう言いながら遥は笑った。なんかこの場の雰囲気のせいか、その辺の女子高生みたいなしゃべり方だ。
そうこうしているうちに写真を撮るアナウンスが流れた。なんだ教えてくれるのか。
「ゆーちゃん!ポーズとって!」
「えぇ!?」
とっさに言われどうすればいいかわからない俺は、とりあえずピースをした。
写真は何回かに分けて撮られているようだが、俺はよくわからないままピースをしてそのまま突っ立っていた。最後の撮影だとアナウンスが聞こえ、やっと終わると思った俺の頬に遥はキスをした。
「なんだよ」
とっさの事に俺は驚く。
「プリクラってみんなこうするらしいよ」
「ほんとかよ」
「ほんとは口にしたかったけどね」
「馬鹿言うな」
平生を装う俺と裏腹に心臓は痛いくらいに鳴っていた。
出来上がった写真に遥はうれしそうにコメントをつけたりしている。
終わると機械の外から写真が出てきた。
「はい。ゆーちゃんの分!」
「ええ、俺はいいよ」
「いいから!」
もらった写真を見ると、緊張でガチガチになっている恥ずかしい俺と幸せそうにはしゃぐ遥が写っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます