君がゾンビになったんだから仕方ないよね

綾坂キョウ

豚骨ラーメン

 仕方ないよね。だって、君が悪いんだもの。


 待ち合わせたのは、君のリクエストで豚骨専門チェーン店のラーメン屋さんだった。正直、なんでクリスマスイブにラーメンなのと思ったけど、まぁ人間誰しも「今日は胃がラーメンの日」ということはあるものだもんね。たぶん、そういうことだったんでしょ?


 電車の遅延で、私が待ち合わせに遅れたのはほんと、ごめんなさいなんだけど、まさかその間に君が浮気してるなんて、思いもしなかった。


 君は必死に弁明してたよね? あれは、ただ店員さんに注文しようとしただけだって。信じられると思う?


 だって、ラーメンだよ?


 確かに遅れた私も悪いのかも。でも、ちゃんと遅れることも、もうすぐ着くってことも連絡は入れていたし、なによりそこはラーメン屋だよ? 注文するタイミングがずれれば、君のラーメンと私のラーメンの間に、タイムラグがでるよね。


 君、私のラーメンが届くまで食べるの待てる?


 湯気が立った、白く濁ったスープ。鼻先にはさ、豚骨の濃い香りがして。脂がのった厚めの叉焼に、差し色が綺麗な紅生姜が散らされて、麺は細めのちょっと固め。


 待てるわけないよね。だって、麺がのびちゃうもの。ちょっと固めに頼んだのに、食べる頃にはやわやわだもの。スープだって冷めちゃうもの。

 そんなの、ラーメンには致命的なダメージでしょ? 台無しだよ台無し。


 だからきっと、本当は先に注文するなんてしなかったはず。デートなんだから、別々に食べるなんておかしすぎるもんね?


 それにね、知ってるんだから。あの店員さん、君の好みのタイプだって。


 つまりね、なにが言いたいかって言うと。私は今、すごく怒ってるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る