眼球

真白世界

第1話 痒み

一郎は目の痒みに襲われた。

擦りたい衝動を抑えながらテレビを眺めて気を晒そうとする。だが一度、意識してしまった痒みは耐え難いものでテレビを見ていても痒みのことばかり気になってしまう。


こういう時の正しい対処法はどうすべきなんだ?

スマホを開いて検索してみるが余りの痒さに文字を追うことすら出来ない。

一郎は耐え難い痒みに抗うことが出来ず、右手でゴシゴシと目を擦った。

和らぐ痒みと目に多少の痛みを感じながら一郎はストレスから解放されていく。


ホッと息を吐くと眼の中にゴロゴロとした違和感を感じて目を開けると左目と右目に映る景色が異なることに気がついた。


左目にはいつもの様に整理整頓が行き届いた自分の部屋があった。しかし右目に映る光景は自分の部屋と同じ家具と間取りなのだが電気は消えていて誰かに荒らされたかのように荒れ果てた状態で物が散らかり、ガラス窓は砕かれて部屋の中に散らばっていた。


一郎は恐る恐る左目に映るタバコの箱へと手を伸ばす。そこには確かにタバコの箱の感触があった。しかし右目に映る机の上にはタバコの箱はなく、机の上には得体の知れない緑のドロっとしていた液体が乾いて固まったかのような物が机の上にへばりついていた。


一郎は恐る恐る右目で机を見ながら右手を伸ばす。

そこには左目に写っていたはずのタバコの箱なく、背筋に悪寒が走ると全身から嫌悪感を抱くような手触りを感じた。

反射的に右手を机から遠ざけて床に手をつく。すると右手に激しい痛みに襲われた。

一郎は右目で痛みを感じた手を見るとガラスの破片が突き刺さり、真っ赤な液体が黒く不衛生にくすんだカーペットを真っ赤に染めていた。

一郎は慌てて左目で救急箱を捉えて掴むとそこには傷ひとつない自分の右手があった。


どういうことだ?

一郎は困惑しながらもまた恐る恐る右目で自分の右手を見るとガラスが皮膚を突き破り、真っ赤な液体を滴り落としていた。

右目と左目で見ている世界が違うのか?

そんなことが起こり得るわけないと考えながらも現実で起こっていることがそれ以外に理由の付けようがないと更に混乱する。


一郎は右手から感じる痛みから一度、思考をすることを止めて応急処置をしようと救急箱を開けるが包帯は黒ずんでいてとても衛生面的に応急処置に適していない気がした。

病院に行こうにも左目の世界では右手は怪我をしていない訳だから処置できるはずもない。一郎は考えた末、右目に映る世界の病院に行ってみることにした。

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