私が知りたいあなたのこと
アン
第1話 それだけ
派遣会社から送られてくる何百通ものお仕事紹介メール
『とりあえず沢山エントリーしておいてください!』
派遣の営業担当の言葉が胸に刺さる。
仕事ってなんだろう。人生ってなんだろう。
考えてみると色んな仕事をしてきたなあ。
高校時代、ヒップホップダンスを習っていた。
卒業したらインストラクターになりたくて、大学受験はしなかった。
大学に行ってもやりたいことが無かったから。
インストラクターになるためにダンススクールに就職した。
月給は8万円。普通なんて知らないから、安いとも思わずに一生懸命働いた。
蓋を開けてみると大好きなダンスは全然やらせてもらえなくて、事務・雑用・掃除…
10ヶ月で辞めた。
そこから2年間は楽しかった。
色んな舞台、ミュージカル、映画のオーディションを受けながらアルバイトをして過ごしていた。
でも、その時付き合っていた彼氏の言葉で私の人生が変わった。
『俺は大学生。お前は高卒フリーター。この差は、一生埋まらないから。
だからお前は自分のレベルをわきまえろ。お前の周りの友達も、みんな俺と同じこと思ってるからな。』
自分が凄く恥ずかしくなって、消えたくなった。
仲良くしてくれた友達のことも信じられなくなってしまった。
大学生が羨ましい。今からでも学歴が欲しい。
今思えばあいつはただのクレイジーだったけど、当時の私は周りが全然見えていなかった。
そこからは漠然と存在した夢を一切諦めて、猛勉強した。
大学に行きたい理由がやっと見つかったから。
『私だけ大学に行っていなくてレベルが低いから。これは悔しいし、恥ずかしいことだから。』
親に土下座をして学費を貸してもらった。
22歳で短大に入学。単位も一つも落とさず2年経ち卒業が決まった頃、
クレイジーなあいつは大学で遊びすぎたようだ。
留年に留年を重ねてまだ卒業できないでいた。4年制大学に6年通学。
『なんだそれ』
大昔の日本で、共産主義を掲げた大学生がテロリストのようなことをした。
誰でも知っている世紀の大事件。
たいそうな学校名をぶら下げて、仲間を次々に殺していった。
『なんだそれ』
それでも社会に出たらまずは学歴で見られることのほうがどうしても多い。
私はあなたの学歴には全く興味がない。
そんなことよりもあなたがどんな人たちと生きてきたのかに興味がある。
そこがわからないと、あなたの本質もわからないから。
私はあなたがどんなことに目を輝かせて、胸踊るのかが知りたい。
そこがわかると、私の知らない世界もあるんだと知ることができるから。
人がどんなことに感動して、どんな想いで日々を過ごしているのか。
やっぱり、どんなことよりもまずはそれだけ知りたいのに。
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