プリンセスになれない私

葉村コト

第0話 プロローグ~私という人間の価値~

 私は友達を作るのが苦手だ。別に人見知りがあるとかおしゃべりが苦手というわけではないのだが、どうも友達という関係を築くのが苦手らしい。何をすればいいか分からない。遊ぶ約束をしているクラスメイトを見たりするが、具体的には何をしているのだろう。前にSNSで見たのだと、オシャレなカフェに行って、ショッピングして、遊園地に行ったりとかしているらしいが、正直それの何が楽しいのか分からない。特にオシャレなカフェだ。あんなちょっと苦いだけの飲み物がどうして五百円もするのだ。確かに可愛くデコレーションされているものもあるが、それをわざわざ友達と行く意味が分からない。それだけじゃない。友達と授業中におしゃべりをするというのも、私には理解できない。授業中は静かに先生の話を聞く時間だろう。ノートを書く時間だろう。それなのに、それを放棄して友達との会話に興ずる理由、もといたった五十分間さえ友達との会話に費やしたいという気持ちが分からない。

 真面目だね。

 それが、クラスメイトが私に下す評価だった。真面目でいい子。それは褒めているつもりなのだろうが、私にとっては気に食わない評価だった。真面目ということは頭が固いということだし、いい子ということは先生の言うことをちゃんと聞き、ふざけないということだ。つまり――つまらない人間だということだ。

 つまらない人間に興味を持つ人なんていない。だから私には誰も寄ってこない。寄っても離れていく。周りの人間は何とも思っていないだろう。だって彼らは悪いことなんてしていないのだから。誰も悪くない。自然の摂理だ。

 だから、高校に入ったら何か面白いことをやろうと思った。自分のアイデンティティになるような何かを、付け加えようと決めた。

それが学級委員長という役職だった。一学期の最初のロングホームルームで私はそれに立候補した。それはとてもやりがいのあるものだった。先生から頼られ、みんなをまとめ、クラスの代表者として先頭に立つ。とはいえど、具体的な仕事はほとんどない。先生に学級委員長としての仕事を頼まれることは月に一度あるかないかくらいだし、みんなをまとめる機会はさらに少ない。授業の始めと終わりの号令は毎日あるが、大変というほどではない。それでも、学級委員長という役職はいいアイデンティティだと思った。

 高校生活が始まってから九か月、学級委員長としての役割を果たしてきたが、何も変わらなかった。クラスの代表者が必ずしもクラスメイトから注目されるとは限らない。クラスメイトから選ばれるが、クラスメイトが選ぶわけではない。完全に立候補制で、候補者が一人しかいなかったら自然に決まる。だから、学級委員長なんていうのはただの役職名で、目立つものではない。学級委員長になったクラスメイトというだけである。

誰も見てくれない。

そんな私にも名前はある。誰も見てくれないのなら、名前なんてあってないようなものだけれど、一応名前がついている。

桐生きりゅう陽菜ひな

『陽』というより『陰』という感じだが。

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