第40話 突撃! 破れかぶれ!!
このままじゃ、悦田も捕まって更に面倒な事になる。
俺は志戸に小声で作戦を伝えた。
「志戸。お前はこのまま悦田を見ていてくれ。俺はここからちょっと離れる」
「ええええッ!?」
「そんな恨めしそうな顔するなって。それと時間稼ぎを頼む」
「ええええええええッッ!?!?」
「そんな困った顔するなって。ミミに頼むから、お前は俺に実況中継してくれればいい。ミミ、頼まれてくれ」
『しょうちしました』
俺は、ミミにこれからの作戦を手早く伝えた。志戸の顔が引きつっているように見えたが、気のせいだろう。
「ミミ、これならどうだ」
目に付いたプラスチック製のスツールを差し出す。ミミが小さな手を触れた。
『しょうちしました。これはイメージができます』
「いつもの通りだ。頼んだぞ」
ミミが触れたプラスチックのスツールに虹色の光が走った。一旦、光の粒子が一つの塊に集約されたかと思うと……その粒子がシャワーのように床に降り注ぎ始めた。
床にスッと広がり、キラキラと徐々に積みあがっていく光は少しずつ盛り上がっていき――
脚が一本無くなったスツールがコテンと転がった。
宇宙の彼方へ相転移させるための解析と送信は、トイレのタンクに沈めなければいけない。
しかし一度解析したものなら、素材さえあれば目の前で再構成はできるだろう……と踏んだのだ。目の前に相転移させるわけだ。実際、モニタやスピーカーなどはその場で再構成しているからな。できるだろうと思った。
宇宙の彼方に送るわけではなくて、目の前で再構成するなら12時間もかからないだろうと思ったら、見る間に出来上がったのも予想通りだ。
「いいぞ! ミミ!!」
無表情のミミが若干ドヤ顔のようにも見えたが、たぶん気のせいだろう。
「よし、いつもの通りだ、飛ばせ!!」
『じゅうりょくがあるので、とびません』
……お前、思ったより常識人だな……。
「宇宙空間じゃ、ミサイルから噴射煙を出して飛ばしていただろうが!」
『ミサイルは、けむりをだして、とぶものです。だから、だしました』
シンプルな答えで、グゥの音も出ない。
そうだ。この宇宙人たちはイメージを元に再構成するのだ。
自分たちがイメージできないものは、どうやら全くと言っていいほど再現できないようだが、イメージしたものは何をどうやるのか再現するらしい。
『けむりは、そざいのいちぶを、つかいました』
ってことは、あれ、プラスチックを利用した噴射煙の演出ってことかよ。素材に拘っているがなんでもいいんじゃないのか!?
だいたい相転移させた貴重な素材だろうが。もったいない使い方するなよ……。
こうなれば……とにかくその気にさせればいいんだな?。
「ミミ、お前、いつも見ているだろう? 空! 飛行機! 空飛んでいるだろ? 空中、飛ぶ物だろ!?」
ジッと俺を見つめるミミ。
『そうでした。ひこうきは、とぶものです。しょうちしました』
「……どんな飛ばせ方だよ」
そうか……宇宙人たちは飛行機が離陸するシーンを見たことがないのか。
「志戸、本当にいざという時になったら、この飛行機を使え。動かし方はミミに任せればいい」
志戸が生真面目な表情……というより、引きつったような顔で、コクコクと頷いた。
悦田の方を見ると、ジリジリと壁際に追い詰められている。早くしないと間に合わない!
俺は、足1本が無くなって転がっていたプラスチックスツールを片手に、コソコソとエントランスに向かった。
何をしでかすかわからない悦田に集中しているのだろう、黒SSたちはこちらに気が付いていない。
俺は柱から柱へ、柱から観葉植物の陰へと移動し、エントランスへたどり着いた。
悦田から数歩の所まで輪を縮めた黒SS。いつの間にか二重の輪になり、追い詰めている。見事な連携だ。あれじゃ、さすがの悦田も逃げ出せないだろう。
柱の陰に隠れている志戸に目を移す。悦田と俺を不安そうに交互に見ている。その隣ではミミの作り出した
やるか。
悦田、頼むぞ。
俺は深呼吸を1つすると、エントランス出口から、志戸の居る通路とは離れた観葉植物めがけて、手に持ったスツールを目いっぱいの力で投げつけた。
あれだけの大きさだ、俺のような運動音痴でもさすがに当たるだろう。あの位置で音がすれば、志戸にも俺にも目は行かず、悦田への注意も削がれるはずだ!
あ。
投げたスツールは見当違いの所へすっ飛んでいった。
すなわち、すっぽ抜けたプラスチックの塊は目の前のテーブルに載っていたマグカップやら、金属製の何かをなぎ倒し、ホールの端に転がっていったのだ。
ど派手な音を立てて、ひっくり返り、あちこち転がる雑貨群。
黒SSたちが、一斉にこちらを振り向く!
ああーーーー!!!!
力入り過ぎたーっ!!
思わず頭を抱えたくなったが、そんな暇はない!
きびすを返す瞬間、目の端で悦田が身体を深く沈み込ませる姿を捉えた――が、そのまま見ている訳にいかない! 俺はとにかくエントランスから飛び出した。
飛び出した先は、見覚えのある広大な空間だった。いや、正直に言うとだだっ広いというだけで、侵入してきた場所かどうかまではわからない。
エントランスの表示板通りなら、侵入してきた集積場なのだろう、という程度だ。
飛び出した瞬間、いきなり横手からクラクションを叩きつけられた。
「なにやってんだ、てめぇッ!!」
空港で見かける、蛇のようにコンテナを連結させているカートが目の前で急停止していた。
浅黒くてヒゲ面の、作業着姿のオッサンがハンドルから乗り出して怒鳴り上げてきた。
「ゴメンナサイ!!!!」
叫びながら車体の前を回りこんで走り出す、俺。
「アッぶねぇだろうがッ! アー!? そんな急いでドコ行こうってんだ、クソ坊主ッ!」
あ。
「すいません! 偲辺東トンネルゲート、どっちですか?」
「アー!? あそこの壁沿いにアッチ行った所だよ。おめぇ新入りか?」
「そうです!」
「危なっかしいな、近くまで行くからついでに乗ってけ」
「助かりますッ!」
俺はすぐさま助手席に乗り込もうとする。と同時にアクセルを踏む運転手のオッサン。
転げ落ちそうになった俺は、とっさに丸くなって車体にしがみついた。ムチャクチャだが、その荒っぽさが逆に助かった。
振り向くとエントランスから数名の黒SSが飛び出してきたのが見えたのだ。
奴らの目の前に、ちょうど連結していた長々としたコンテナ列が邪魔をする。急停止して周囲を見回しているのが見えた
俺は、座席に転がっていた作業ヘルメットを見つけ、これ幸いにと目深に被った。
「そのメット、落としもんだから届けておいてくれや!」
荒っぽい運転であっという間にゲートの手前に着くやいなや、オッサンに怒鳴られ、放り出された。
「それくらい、役に立てや、クソ坊主!」
クソクソうるさいが、今は感謝だ。
「今度から、気ィつけろよ、クソ坊主!」
「スンマセン!」
思わずのノリで叫んだ。
あれがゲートだな。
たしか、この辺りに…………あったッ!
コンテナの陰に隠しておいた、セロー250とレッツG、そして俺の自転車。よかった、無事だった!
俺は大急ぎでセローにキーを差し込むと、エンジンを始動させた。
「ファーファ! 俺のヘルメットにマイクとスピーカー!」 頭を傾けてファーファが触れやすくしてやる。
ぴょこんと顔を出す、ファーファ。
『しょうちしました』
「志戸! そっちはどうだ!?」
作業用ヘルメットから志戸の泣きそうな声が流れてくる。
『アヤトくん!? アッちんが! アッちんが捕まっちゃった!』
クソ!
『アッちん、床に押し付けられて踏まれてるのっっ!!』
俺は間髪入れずに叫んだ。
「志戸! 仕方ない、アレを飛ばして邪魔させろ!」
『わかったよ! ミミ! いつも通り、お願いっ!!』
セローのアクセルを開ける。
「ンなああーーーーッッ!!!!」 前タイヤが跳ね上がってコンテナに激突しそうになりつつ、猛スピードでコンテナの陰から飛び出した。
『アヤトくん!?』
「……死ぬかと思った……」
免許は取ったものの全く乗り慣れていない。緊張でギアの上げ方を思い出せない! まぁ、いいか! 走ってるし!!
危なっかしい運転で凄まじいエンジン音を撒き散らして突っ走る。
「今からそっちへ行くから実況中継してくれ!」
大声で叫ぶと、
『えと、えと、えっとーーっ!!』
……志戸に実況中継を頼んだのはミスだったかもしれない……。
『えっと……戦闘機がクルクル回って、警備員さんたちが大騒ぎして、ラジコンか?って叫んで、あ……アッちんが立ち上がって、あーー! 頭でガチンってやって――』
志戸、スマンが訳分からん。
エントランスが見えてきた。
そばには、さっき乗せてもらったとおぼしき連結コンテナのカートが止まっている。黒SSが二人と、作業着姿の男が立っている。
ってことは、中には8人か!
『アヤトくん! アッちんが! アッちん、囲まれちゃって、床に叩きつけら……アっちん! アッチンー!!』
「志戸! お前まで飛び出るなよ! 絶対に出て行くなッ!!」
クラクションを、めったやたらに鳴らしまくりながら、エントランスへと突っ込む。
思わぬ突撃に、横っ飛びに逃げる黒SSたちと作業着のおっさん。
ホールの中はテーブルやら、スツールやらいろいろな物が散乱していた。これ、悦田が暴れた跡か!
悦田が組み伏せられ、土足で踏みつけられていた。
「クソがっ!」
周囲を取り囲んでいる黒SSたちに向かって、エンジンを唸らせ突っ込んでいく。
「どけどけっ! どかないと
ヘタクソな運転で、ありえないような凄まじく甲高いエンジン音をさせながら突っ込んでいく。
突然の暴走者に、完全に虚を突かれた黒SSがクモの子を散らすように離れた。
「大丈夫かっ!?」
悦田の横で急ブレーキをかけ、転倒する俺。
覆面の中の碧い瞳が大きく見開かれる。
「え? あ、あんた!?」
イダダダ……。
「あ、あんたの方こそ大丈夫なの?」
悦田は詰まったような声を出した。
「大丈夫だ! 逃げるぞ! あそこに志戸が居る、一緒にバイクで逃げろ!」
「あんたはっ!?」
「ちゃんと追いかけるから、いけーーっ!」
「わかったわ!!」
こういう時のとっさの判断は悦田の得意なところなのだろう。
すぐさまバイクを起こし、ふらふらと起きあがってきた黒SSを俺よりも確実にひき殺しそうな勢いで離れさせると、志戸を後ろに乗せて、再びエントランスホールの中で暴走を始めた。
「早くしなさいなっ!」
俺も痛む足を引きずってエントランスから出ると、さきほどのカートがエンジンをかけたまま止まっていた。
横に居るのは、さっき乗せてくれたヒゲ面のおっさん!
「お!? クソ坊主か?」
「おっちゃん、ごめんなさい! 車貸してください!」
カートの運転席に飛び乗る、俺。
「ワハハッッ! クソ坊主、とんでもないもの見せてくれるな!」
豪胆に笑うおっさんは、
「かまわねぇ! あのクソ連中の慌てる姿、スッとしたぜ! メットはちゃんと返しといてくれや!」
と、大笑いしながら言い、
「腰の所の赤いレバーを引け!」と叫んだ。
後ろのコンテナ列のジョイントが外れる。
「荷物は壊されると、俺の仕事がパぁになるからな。車は知らん、ここの借りもんだ」
俺が見よう見まねでカートを発進させると、悦田と志戸のセローが飛び出てきた。
「どこ行くのよ!」
「こっちだ!」
俺は廊下で見てあらかじめ見当をつけていた方向へと、地下通路を突っ走り始めた。
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