第30話 手探りの明日へ。
「かわいくて、にぎやかな妹さんね!」 と、クスクス笑いながら悦田。
そらのおかげで、重苦しかった部屋の雰囲気が柔らかくなった。あいつにしては、上出来だ。
深呼吸をすると気分もリセットできた。おまじないのようだが、実際俺には効果がある。
「よし。とにかく分かる範囲の事から先輩の行方を捜すぞ」
「きっと家族の方、心配されてますもんね!」
「でも、先輩のこと、ちゃんと知らないからなあ。本名もクラスも知らないし」
思えば、とっかかりが全くない。
「先輩の姿を知っているのって、悦田だけだからなあ。悦田はうちの生徒じゃないから、尋ねて回るのも怪しまれるだろうし」
「あんたのところ、学園祭の真っ最中でしょ? わかってるのは2年生ってことだけよね。あの騒ぎの中では厳しいんじゃない?」
「先生に尋ねてみるのはどうかなぁなんて……」
おずおずと志戸が提案する。
確かに帰宅しないことを心配して、家族が学校に連絡を入れているのは考えられる。先生達に尋ねれば……。
「そうだな。職員の間では先輩が帰ってきていない事は周知されているかもしれない。けど、なんて尋ねる?」
「先生のクラスの生徒で、帰宅していない人がいませんか? ……って、おかしいよね……」
「やめておいた方がいいわね。この学校、なんか胡散臭いし」
悦田の言う通りだ。学校の職員の中に先輩を拉致することに協力するような奴がいるはずだ。
「そうなると、堂々と先輩の事を尋ねるのは危険だな」
いつの間にかミミとファーファが机の上に移動して、お菓子の袋を興味深そうに見つめている。
「ミミ、ファーファ。見つかったらまずいから、ちゃんと布団被ってろ」
『『しょうちしました』』
最近、宇宙人たちの動きがずうずうしくなってきているような気がする。
「あんた、なんかいいアイディアないの?」
悦田がしかつめらしい顔のまま、脚を組み替える。
「学校に知られないように情報を集めないといけない。どこに拉致した関係者がいるかわからんからな。こちらでこっそり調べられそうなものは……まず救急車だな」
「救急車のナンバープレートは覚えているから、私、探せるわよ」
「よし。それじゃ、悦田は救急車の特定と消えた理由を調べてみてくれ」
「ま、いいわ。あんたの指示に従うっていうんじゃないからね、勘違いしないで。先輩を捜すためだから仕方ないわ」
「不服っぽいな?」
「別に。まだ、あんたを認めたわけじゃないから。全部信用しているわけじゃないからよ」
めんどくさい事を言い出した。
「私がいいアイディアだなって思ったから、やるの」
むぅ。めんどくせえ。
「さっきみたいに、一人で先走るなよ」
バイクテクニックはとんでもなかったが、相手がどんなものかわからない手前、下手すれば拉致されかねなかった状況だ。
「くれぐれも単独行動は控えてくれ」
「引っ掻き回されるのはイヤだものね」
「お前まで拉致られるとかなわんからな」
「……」
「お前はどうもムチャをするタイプだ。第一に志戸が悲しむから気をつけろ。それに、俺もお前を捜す手間が増えるし、ケガなんてされたら気分が悪い」
「……独りでも」
そっぽを向く悦田。
「一人でもちゃんとできるから大丈夫よ」
「それにしても先輩にご執心じゃないか。今日、初めて会っただけだろ?」
「そんなのどうでもいいじゃない」
悦田の機嫌が悪くなってきた。
「アヤトくん。たぶん、アッちんは先輩のこと、自分の事のように思ってるんだと――」
「すず! そういうんじゃないから! 余計なこと言わないの!!」
「ご、ごめん」
※※※
バイクのテールランプが去っていく。
先ほど玄関先で、
「あんた、責任持って送っていきなさいよ」
悦田が腰に手を当ててジト目で言い放ち、
「私が送っていければいいんだけど、自転車とバイクだから。もしすずに何かあったら、タダじゃすませないわよ!」
――と、顔をグイと近づけて、俺を脅して去っていったのだ。
「ええと……大丈夫ですよ? 迎えに来てもらいますし! その……近くのコンビニまで連れて行ってもらえれば……」
志戸が困ったような表情で、両手をブンブンと降る。
「そうもいかんだろ?」
「いえ、その……あ。その、緊急状況になるかも、ですし!」
さらに勢いよくブンブンと降る。
そうか。もうそんな時間か。
「こんな遅い時間になるとはなあ。……それじゃ、明日はよろしくな」
明日は学園祭最終日。そして、その翌日は振替休日だ。学園祭を終えたらすぐに先輩を捜せるだろう。
「自由に動ける足を準備してな」
「はいッ!」
うん。良い返事だ。
コンビニまで無事送り届けた後、俺はファーファの報せる緊急状況に備えるため、再び家路を急いだ。
とにかく今日は色々あり過ぎた。先輩のことを思うと心が騒ぐ。どうすればいいのか、正直分からないが……。
とにかく明日だ。早く先輩を見つけなければ。
俺は、大きく深呼吸をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます