第3章 ざんしんな戦いを。

第9話 へっぽこ宇宙人と、ぽんこつ娘と、頑張ってる俺。


 ミミとファーファに戦い方を教えているわけだが、ヤツらの学び方に偏りがあることがわかった。

 戦うということは分かっているようだ。学習スピードはとてつもなく早い。

 ただ、興味と観測が、戦う方法というより純粋に文化や技術の方に向いている。根っこが戦い向きではないのだろうか、受け取り方がズレている。


 戦闘機の斬新な使い方を見せてくれたファーファに頭を抱え、秘密基地のドアを散々叩かれ、無理やりヨーグルトを食わされ、病院へ行くように心配される家族をフニャフニャと言い訳して、とどめにもうすぐテストだという俺の機嫌はすこぶるよろしくない。



 ムスっとした顔でバスに乗っていると、例によってファーファがイヤホンを通して割り込んできた。

『いまのアヤトはいつもとちがいます』

「そうだな、怒っているな」

『ソラ、とおなじようなかおをしています』

 確かにあいつは、大抵怒ってるな。

『おこる、とは……』

 しばし考えた風なファーファ。

『アヤトのおもったとおりにならなくて、そのふまんをあいてにつたえるほうほうとして、そのようなひょうじょうをしているのですか?』

「そうかもな! 志戸はしなかったのか!?」

『スズミは、そういうときには、かなしいと、いいました』

「……」


 はぁ、ここまで冷静に、探究心をもって返されると、怒る気が失せる。

『アヤトは、おこっていますか?』

「もう、いかりもおさまったわ」

『アヤト、おこると、いかるはおなじですか?』

「ぐぐれ」

 あーもー、うっさいなぁ。



※※※


 3時限目。数学。俺はテストに向けて、書かれている数式を丸暗記するという数学とは言えないテスト対策に励んでいた。


 つまらん。さすがにつまらん。つまらなさ過ぎて、ついつい集中が解けてしまう……。



「あっ!」


 ふと思い出したことに、つい声が出てしまった。一斉にクラスの全員がこちらを見る。

「どうした?」 怪訝そうな先生に、

「あ……いや、今ちょっとわからない部分があったので、手を上げようとしたんですけど……じゅ、授業終わりでいいです」

 セーフ。


 最近こういうのが多いな……あまり奇声を発すると、変わり者に思われてしまう。落ち着け、俺。


 それより、大事なことに気がついた。

 ジェット戦闘機をぶつけた後、武器を一つも相転移させていない。

 今朝はバタバタしていたのでそんな暇がなかった。休み時間は相転移させるためにトイレにいかないと。

 

 なにか、武器になりそうなものは……。教室をくるくると見渡す。

 近代兵器はファーファにはまだ過ぎる代物だ。ジェット戦闘機を超高速でぶつけるという単純で物理的な使い方をするからなぁ……まずはもっと原始的で説明しやすいもの……志戸に相談するか。


 休み時間となり、チラチラ志戸に視線を送ると、すぐに気づいたようだ。こちらを見る。ああ見えて、目ざといんだよな。


 小さく目で合図を送る。教室から出るぞ。

 小首をかしげる志戸。

 小さくジェスチャーを送る。

 小首をかしげる志戸。

 ドアを指差す。手のひらを払ってみる。

 見よう見まねに指を立ててふるふるさせる志戸。

 お前はバカか。


「なにしとん?」

「!!」

 俺の前の席に座る野郎――須鷹すだか明貴斗あきとが、バットとグラブを小脇に抱えて見下ろしていた。人付き合いに積極的でない俺にでもちょこちょこ話しかけてくる気さくなヤツだ。


「あ、え、あー。手首……手首が凝ったなあって」

「お前、言うほど勉強せんやろが。運動不足やて。お前くらいデカかったら運動部入れ言うてるやろ。もったいないで」

「デカイだけだからな」

 苦笑いをしながら答える。


「まあ、今からでも野球部来るなら歓迎するでー」

 ニヤニヤしながら指をワキワキさせる須鷹。

「まあ、風呂入って湿布しとったら治るわ。寝る前に手首酷使したらアカンぞ」

「下ネタかよ」

 大笑いしながら教室を出て行く須鷹。

 俺みたいな無愛想な奴にでも声かけてくるんだからまあ、イイ奴なんだろう。

 細マッチョなイケメンだし、短めでラフに揃えた髪も爽やかだ。

 まあ無敵だな、名前もかっこいいし。大阪から来た独特のノリが若干イケメンの軸をぶらせている気もするが。



 志戸へのジェスチャーは諦めた。

 だいぶと分かってきたが、あいつ、目ざといくせにアドリブ対応とかに相当弱いヤツだ。

 これ見よがしに志戸の前を通り、何食わぬ顔をして教室を出た俺は、後ろからちょこちょこ付いてきている志戸の姿を確認すると美術準備室までやってきた。


 さも授業の準備をしている風にしていると、志戸が近づいてきた。背伸びをしつつ耳打ちしようとする。

「アヤトくん、なんでしょう?」

「いや、小声でしゃべんなくていいから」

 そういえば、前もこんなことしたな。

 しゃがんだ俺は、志戸に武器の相談を始めた。



「実は……」

 志戸が神妙な顔をした。

「武器を持たなきゃって、大剣と盾を送ったことがあるんです。相転移してあるので、向こうにストックしてあるんですけど」

「お。こぐまのぬいぐるみに装備させようとしたのか?」

 あれ? そういえば、ずっと素手だったような。


「はい。ミーファにはこれくらいなら使えるかな、なんとか伝わったかなーって思ったんですけど」

 嫌な予感がする。

「野球のバットのように振って大剣のお腹の部分で打ち上げていました」

「……盾は?」

「ホームベースにしていました」

「……」

「ミーファ、その時野球に夢中だったんですよ」

「武器を平和利用する発想に事欠かないな」

「結局、振っても避けられちゃうようになって、使うの止めちゃいました」

 なるほど……って、ふと気になった。

「大剣と盾って……志戸んちそんなものあるの?」

「ありましたよ?」

「……」


 まあいい。武器が行っているなら、扱うユニットを送ればいいだけだ。

 今から送ると夜中の11時頃。夜遅くに来襲するときはいつも11時前後だから……まずいぞ、ユニットが無いままだとまた嬲り殺しだ。


 ギリギリ間に合うかどうかだが……次の休み時間だと、到着は夜中の0時過ぎになるからこの休み時間中には送り出さないといけない。

 早く何か見つけないと――。


 ふと、準備室の窓越しに、誰かのいたずらでパラパラダンスをさせられている人体デッサン人形が目に入った。

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