第32話
ディアナに呼び出されたリリィたちは、今何が起きているのか聞かされる。
「そんな!それじゃラミィに危険が!」
「そうなるわねぇ」
ディアナの言葉を聞き、リリィは身を翻し部屋を出て行こうとする。
が、ジェフがリリィの腕のをつかみ止める。
「ジェフさん、離してください!」
「ダメだ。おまえが行ったところでなんの役にも立たない。死ぬだけだ」
ジェフはハッキリと口にした。
リリィもその事を理解していたのだろう。
ジェフを振りほどこうとしていた腕から力が抜ける。
「でも、それでもそばにいたいんです……」
それを聞いたジェフは、なんと答えるべきか、と考えていると、先にディアナが口を開く。
「今から向かったところで間に合わないわぁ。行くだけ無駄よぉ」
間に合わない、という言葉を聞いたリリィは絶望感から全身の力が抜け、その場に座り込んでしまった。
それを見ていたジェフたちは、なんとも言えない顔をする。
リリィを慰めるべきだ、という考えと、このまま大人しくさせていた方がいい、という考えが頭に浮かび、どちらがいいのか判断がつかなかったのだ。
そんな中、真っ先に口を開いたのはヴィオだった。
「一つ聞きたいのですが、魔の森の主とはどんな魔物なんですか?」
「それはぁ、私もわからないのぉ」
「わからない?そんなわけ、ないでしょう」
「本当よぉ。主がいるという事とそれが起こしたことの伝承が残っているだけでぇ、どんな姿形をしているかまでは不明なのぉ。ただ、伝承から判断すると、主の強さはSランクなのは間違いないわぁ」
それを聞いてヴィオは、黙り込んでしまう。
いや、ヴィオだけではない。他の者たちもだ。
脅威度最高であるSランク。
そんな魔物が動けば地形が変わると言われる、まさしく天災のような存在。
だが、そんな危険生物ではあるが、表舞台に出てくることは滅多にない。
もし、表舞台に出てくれば世界は破滅していただろう。
現に一度、世界は滅びかかったことがある。
それは、カラミティと呼ばれることになったドラゴンの出現だ。
そのドラゴンのせいでいくつもの国は滅び、山は消し飛び、大地に大きな亀裂を作るなどして、地形は大きく様変わりした。
カラミティの最後がどうなったのかわかっていないが、それと同クラスの存在が魔の森にいるという。
その意味がわからないわけがない。
「今ギルドはぁ、緊急依頼を出しているわぁ。でも、参加しなくても咎めるつもりはないわぁ」
「それはどういう意味で?」
「Sランク相手ではぁ、いくら集まったところで意味なんかないわぁ。皆殺しにされて終わり、よぉ」
ディアナの言葉は事実である。
もし、どうにかしようとするならば、同じ強さをもったSランクの魔物をぶつけるくらいしかないだろう。
だが、そんなものを連れてこれるはずがない。
つまり、なす
町長や領主に使いをやったり、緊急依頼を出しているのはギルドマスターとしての責務からだった。
ギルドマスターでなければ、すでにディアナは逃げ出していたかもしれない。
「伝えるべきことはぁ、伝えたわぁ。あとはどうするかぁ、あなたたちで決めればいいわぁ」
そういうと、ディアナは煙管を取り出しタバコを吸い始めた。
その様子を見ていたジェフたちであったが、しばらくして部屋を後にする。
ジェフたちはそのまま宿に戻り、自分たちが取っている部屋に入る。
「さて、どうする?」
「どうするもありません。逃げるべきです」
「それしかないわね。Sランクを相手にするなんて、馬鹿のすることよ」
「同感だ」
「そうだな。嬢ちゃんはどうするんだ?」
「私、ですか?」
「ああ、そうだ。俺たちと一緒に逃げるか?」
ジェフにそう問われると、リリィは考え込む。
ジェフたちと一緒に逃げる。それが最善の手であることは間違いない。
頭ではそうわかってはいるのだが、カラミティのことを考えると、逃げたくないと思ってしまう。
かといって、カラミティのところに行ったところで、何もできないことも理解している。
理解しているからと行って納得はできない。
故に感情と理性がぶつかり、どうすればいいのか判断がつかなかった。
側から見ていたジェフには、リリィの葛藤がわかったのかため息を吐く。
「考えるのは自由だが、早く決めろよ。俺たちは明日の朝にはこの街を出る」
それを聞いたリリィは驚いてジェフを見つめる。
「何を驚いているんだ。ここは危険だとわかっているんだ。さっさとずらかるのは当然だろ。本当なら今すぐにでも、と言いたいところだが、最低限のものを買いそろえる必要があるからな。そうなると完全に日は落ちるだろう。だから明日の朝だ。それまでに決めとけ」
ジェフはそういうと、仲間を連れて部屋を出る。
それを見たリリィは手を伸ばすが、それだけだった。
強烈なプレッシャーを浴びせられ動けなくなっていたカラミティは、このプレッシャーが森の中心部から発せられていることに気づいた。
それと同時に、とうとうこの時がきたのだと理解する。
なんとか顔を動かし、中心部へ向けると、そちらから何かが動いたのがわかった。
しかも、それが自分に向かって動いていることにも。
それが近づくにつれ、プレッシャーが増し、その重圧に心がへし折られそうになる。
どれほどの時間が経っただろうか。
何時間も経ったかのように感じた頃、ようやくそれは姿を見せた。
それは、茶色い肌に緑色をした長い髪を生やした女性の形をした人型の何かだった。
身長はせいぜい160cmあるかどうかといったところだが、カラミティからしてみれば、そんなことはどうでもよかった。
圧倒的な力を持っているそれに、どうすればいいのか考えることに必死であった。
『あなたね。今、森を騒がしているのは』
と、凛とした響きを持つ綺麗な声が、カラミティの頭の中に聞こえた。
『どうしたの?私が聞いているのだから、答えなさい』
再び頭の中に声が聞こえたが、カラミティは何も答えない。
『私の言っている言葉がわからないのかしら?違うわね。話す術を持っていないのかしら?』
そいつは首をかしげるが、すぐに元どおりになる。
『まあ、いいわ。それなら、あなたの頭の中を覗くだけ』
そう言われた途端、カラミティは頭の中をかき回されたような感覚に陥る。
『あははは。あなた、カラミティなんて名前なの!?よりにもよって
そういうと、そいつは笑い続ける。
しばらくすると、笑い声がやむ。
『でも、納得したわ。あなたは天災になるために力を求めていたわけね。そうなると、私も倒して喰らうのかしら?』
そいつはそう言った途端、プレッシャーが更に増す。
あまりの重圧すぎて、地に伏せてしまいそうになるほどに。
『へえ、これにも耐えられるの。さすがはカラミティと、いったところかしら。でも、その状態じゃ、私の攻撃は躱せないでしょ?』
そういうと、そいつは右手を突き出す。
その手の平には、光が集まりだし球体になる。
光の球が30cmをこえたところで、そいつは口を開く。
『短い時間だったけど、楽しませてもらったわ。じゃあね』
そういうと、そいつは光の球をカラミティめがけ発射した。
光の球は目にも留まらぬような速度で飛び出し、カラミティにぶつかり爆煙を上げる。
それを見た、そいつは身を翻し来た道を歩みだした。
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