第31話

 それから月日は流れ3ヶ月近く経とうとしている。

 リリィたちは、10日に一度魔の森の調査をし、それ以外の日は従魔たちの強化に勤しんでいた。

 コボルトのアイギスとイージスは、報酬のお金で装備を整え、ジェフやアンリが稽古をつけるなどをして。

 最初の頃は、まともな稽古にすらならなかったが、魔石を与え力をつけていき、いまではなんとか様にはなるようにはなった。


 カラミティも強くなるために魔物を狩っていたが、力がついたと感じるほどの魔物となると、そう簡単には見つからない。

 ギリギリBランクならば、カラミティも力がついたと感じるが、それ以下のランクとなると、微々たる程度にしか感じられなくなった。

 そのため、積極的にカラミティはAランクを狙っていた。

 魔の森に住んでいるAランクの魔物は、グリフォンの他には、一つ目巨人のサイクロプス、空飛ぶトカゲのワイバーン、いくつもの首を持つ大蛇のヒュドラ、動く巨木のエルダートレントあたりだ。

 しかし、いくら魔の森といえど、Aランクの魔物の数は多くない。

 ほとんどが単独でいる。

 たまに群れているのもいるが、そういうのは大概つがいとなっていて、流石にカラミティもAランクの魔物を一度に複数も相手にする気はなく、別れて行動した時を狙って襲っていた。

 たまに、途中で気づかれてしまう時があるが、そういう時はさっさと退いてしまう。

 そうすると、相手は深追いをしてくることはなく、塒に引き返してしまうからだ。

 多分、下手に深追いをすれば、少なくない被害を追うことを理解しているためだろう。

 仮に、カラミティを殺そうと深追いをすれば、カラミティは死に物狂いの反撃を行うことは間違いない。

 そうなれば両者とも大怪我を負うことになるだろうし、下手をすれば、狙い目だと判断して他の魔物に襲われるかもしれない。

 だから、Aランクの魔物たちは互いの縄張りを侵すことはせず、争わずにいた。

 それを考えると、カラミティの行動は異常と言える。

 普通ならば、他のAランクの魔物ように、争わない領域である縄張りを決めるのに、カラミティは、そんなもの関係ないとばかりに、侵入し襲っている。

 それは、ここにはさらなる強者がいるため、対抗するための力を得るためなのだが、そもそもそれがおかしいのである。

 他の魔物であれば、自分より強者がいる場合は、従順な態度を示すか、こっそりと住み着くものなのだが、カラミティは端から楯突く事しか頭にないようにしか見えない。

 だが、運良くカラミティは、その強者から狙われる事なく着実に力をつけていた。

 Aランクの下位程度なら、2匹同時に相手にしても勝てるほどの力を。

 それほどの力をつけたカラミティだが、まだ満足できず新たな獲物を探して森の中を歩いていた。

 カラミティは、魔の森のほとんどの地形を把握しており、それ故にどこに魔物が住んでいるのかもだいたい把握できるようになっていた。


 今日はどいつを獲物にしようかと考え、今日はサイクロプスにしようと決めて、そいつがいる場所めがけて歩き始める。

 だが、カラミティの歩みは、まっすぐではない。

 上空から見ていればわかるが、弧を描くようにして歩いていた。

 それは、危険な場所を避けているように見えた。

 事実、カラミティは意識してそういう風に歩いていた。

 カラミティが避けているのは、魔の森の中心部分であった。

 そこに強者がいる事を本能的に悟っていたためであった。


 しばらく進み、もう少しでサイクロプスの住処にたどり着きそうになった時、カラミティは世界が歪んだと感じた。

 だが、実際には世界は歪んではおらず、いつも通りであった。

 ではなぜ、そのように感じたのかというと、今までに感じたことのないプレッシャーを感じ取り、その影響で意識が揺らぎ、世界が歪んだように見えたのだ。

 そのプレッシャーは魔の森の中に止まらず、周辺にまで影響を及ぼした。

 その影響は凄まじく、意識を保てたのはAランクの魔物だけであり、Bランクの魔物は気をうしない、Cランク以下の魔物は命を落とす事となった。


 ギルドマスターのディアナの命で、魔の森の封鎖、監視をしていたものたちがいたが、そのものたちは魔の森からかなり離れていたため運良く助かったものの、強烈なプレッシャーに耐えきれず気絶するものが続出した。

 なんとか意識を保っていたものは、気を失ったものを運び出す者とギルドに報告するものに別れて行動した。



 数時間後ディアナは、その報告を聞くと深いため息をついた。


「動いて、しまったのねぇ」


「マスター、どうなさるつもりですか?」


「そうねぇ。まずはぁ、町長と領主様に使いを出してちょうだい」


「はい。わかりました」


「あとはぁ、緊急依頼を出してちょうだいねぇ」


「わかりました。では、失礼します」


 報告をしにきた職員は、慌てて部屋を出て行く。

 それを見送ると、ディアナは再びため息をついた。


「もしかしたら、とは思っていたけどぉ、本当に主が動くなんてねぇ。緊急依頼を出したけど、無駄よねぇ。軍を動かしたとしても意味はないしぃ、こうなったら、カラミティがどうにしかしてくれるのを祈るしかないわぁ」


 そういうと、ディアナは考え込む。


「ん〜、一応、あの子には伝えた方がいいのかしらぁ。名前はなんといったからしらぁ?確かぁ、リリィ、だったかしら?そうなると、灼熱の剣にも伝える必要も出てくるわねぇ。まあ、大して変わらないわねぇ」

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