第23話

 昼食をすませると、リリィの感じ取ったものを手掛かりに、カラミティの捜索を始める事にした。

 とはいっても、リリィが感じ取ったものは、近くと遠くという矛盾したもので曖昧すぎる。

 ひとまず近くと感じたものの方へ向かう事にした。


「で、近くと感じたものの場所はわかるのか?」


「ええっと、多分ですが、あっちだと思います」


 リリィが指差したのは、向かっていた深部からやや外れた方向だった。

 これには予想外だったのか、ジェフは思わずヴィオの方を見る。


「とにかく行ってみましょう。判断はそれからでも遅くはないかと」


「それしかないか。嬢ちゃん、道案内を頼む」


「わかりました」


 リリィは、ジェフの指示に従い、リルと共に先頭に立ち歩き始める。

 すると、ジェフたちはリリィを左右後方に移動し囲むような形となって歩く。

 時折立ち止まっては感覚を探ってということをしながら移動を続けて2時間ほど経つと、リリィは唐突に歩みを止める。


「多分、この周辺、だと思います」


 リリィが立ち止まった場所は、変哲もない普通の森の中。

 こんなところにカラミティに関係した何かがあると言われても、漠然しすぎて何を探し出せばいいのわからない。

 そのことがわかったのか、ジェフたちは苦いものを食べたような顔つきになる。


「あー、嬢ちゃん。ここにカラミティと関係したものがどんなものか、わかるか?」


「いえ、流石にそこまでは」


 リリィは、申し訳なさそうな顔をして左右に振ると、うつむいてしまう。

 それをみたジェフはこれ以上尋ねても無駄だと判断し、指示を出す事にした。


「仕方ねぇ。この周辺を探してみるぞ。何でもいいからそれっぽいものを見つけたら、嬢ちゃんに見せてみるぞ」


 ジェフの言葉を合図に、捜索が開始される。

 草の中や、地面に積もった落ち葉の中、石の下、木の幹などなど。

 とにかく手当たり次第探し回る。

 カラミティが巨大なトカゲということから、それらしい皮膚や爪・牙がないか、と。

 しかし、それらしいものを見つけても、リリィの反応は芳しくない。

 捜索を始めて1時間近く経ち、一旦休憩でもとるか、とジェフが考えた時、アンリが何かを発見した。


「ねぇ。もしかして、これ?」


 アンリは発見したものを手のひらに乗せて、皆に見せてくる。

 それは、1cmほどの白っぽく尖った何かであった。


「見た感じ、爪か牙の欠片、といったところでしょう。リリィさん、何か感じますか?」


「……触れてみてもいいでしょうか?」


「もちろんよ」


 アンリはリリィに向けて手を差し出す。

 するとリリィは、恐る恐るといった感じで手を伸ばし、指先でそれに触れる。

 途端、それから懐かしい気配を感じ取れた。


「……これ、です。間違いありません!」


 そう断言するリリィの顔には、一筋の涙が溢れる。

 その事に気づいたリリィは慌てて、「あれ、なんで?」と言って涙を拭う。

 しかし、涙は止まるどころか、溢れ続ける。


 それをみたアンリは思わず、リリィを抱きしめる。


「良かったわね。長年探していた相手の、一部とはいえ見つかって」


 アリンはそう言って、リリィの頭を撫でる。

 慰められた事で、リリィは我慢しきれなくなったのか、大声を上げて泣き出してしまった。


 十数分後、泣き止んだリリィは、顔を真っ赤にし手で覆っていた。


「何よ、もう。そんなに恥ずかしがること、ないでしょ」


「だって、人前で大声あげて泣いちゃったんですよ。恥ずかしいに決まってるじゃないですか」


 リリィは顔を覆ったまま小さな声で答えるが、その様子を見ていたジェフたちは微笑ましげにしていた。


「いやー、若いですね。昔のアンリにも……」


 そこまで言っていたヴィオは、言葉に詰まる。

 昔のアンリにこんなことがあったか?と。

 その事に気づいたアンリは、作りめいた笑顔になってヴィオに迫る。


「ヴィ〜オ〜。どうしたのかな?何で急に口ごもるのかな?」


「い、いえ。何でもありませんよ、なんでも。昔のアンリもこんなだったなぁ、と」


「あら、それは、いまの私は若くないって意味かしら?」


「いいい、いいえ、そんなことはありませんよっ!いまのアンリも十分若いです!」


 ヴィオは手を振りつつ慌てて答えるが、アンリは納得してないのか、笑顔のまま見つめる。


「そこまでにしろ。リリィ、それがカラミティの一部だということはわかったが、他に何かわかったことはないか?」


「えっ!?あ、はい。アンリさん、もう一度触らせてください」


「ええ、良いわよ」


 リリィは、カラミティの一部に今一度触れると、今度は懐かしい気配だけでなく、繋がりが強くなった事に気づく。

 その結果、距離はわからないが、どこの方角にいるのかわかるようになった。


「あっちです。あっちの方に、ラミィはいます!」


 リリィが指差したのは、森の深部の方向だった。


「そうか。距離はわかるか?」


「いえ、そこまでは」


「わかった。行くぞ」


 ジェフの言葉に皆頷き、森の深部へ向かって歩き出した。


 運がいいというべきか、魔物に遭遇することなく、森の深部にたどり着いたのは、想定どおりの、翌日の夕刻近くになった頃だった。


「ついに深部、か。しかし、ここにもカラミティはいないということは、もっと先にいる、ということか」


「ええ、そうなりますね」


「クソ!これ以上は無理だ。一旦引き返すぞ。嬢ちゃんもいいな」


 ジェフにそう言われ、リリィが頷こうとした時、ドーンという音ともに大きく地面が揺れる。

 急な揺れでバランスを崩すが、すぐさま体勢を整える。


「何が起きた!?」


「わかりません。ですが、尋常じゃない何かが起きたことは間違いありません!」


 ジェフの問いに、ヴィオがそう答えつつ、周囲を警戒する。

 すると、木々がメキメキと音を立てて倒れていき、巨大な何かが現れた。


巨人ジャイアント、だと!?」


 急に現れたものを目にしたジェフは、そう口にする。

 ジャイアントとは、文字通り8m〜10m近くはある巨大な人型の魔物で、個体の強さはBランクである。

 だが、ジャイアントの厄介さは、群れで行動する、ということだ。

 群の数によってランクが変わり、5体前後ならばAランクに、10体以上いた場合はSランクになる。


 目の前に現れたジャイアントは1体だけで、これならば、ジェフたちにも倒すことは可能である。

 しかし、目の前にいるジャイアントの様子は普通ではなかった。

 ジャイアントはジェフたちに背中を見せ、手に持った巨大な棍棒を構えながら後ろに下がっていた。

 まるで、何かを警戒しながら後退しているかのように。


「なんだ?何を警戒している?」


 ジェフは、ジャイアントが何に警戒しているのか、目を皿にして奥を見つめる。

 すると、そこにはジャイアントと同じくらいの高さを持った何かがいる事に気づいた。


「ヤバイ!逃げろ!!」


 そう口にすると、逃げようと身を翻すが、リリィが立ち止まったままな事に気づく。


「おい、何してる!逃げるぞ!!」


 リリィの肩を掴むが、動こうとしない。

 それどころか、何かをつぶやいて正気ではないことに気づいた。


「おい、リリィ!しっかりしろ!!」


 ジェフは、リリィの肩を揺さぶり正気に戻そうとするが、その手を振り払われる。


「……た。……けた。やっと、見つけた!」


「……何を、言ってる?」


「ラミィです!あれがラミィなんです!!」


 リリィが指差す方向にいるのは、ジェフが危険を感じ取ったものだった。


「なん、だと……。あれが、カラミティ!?」

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