第8話
ヴィオが放った魔法が消えたのを確認した4人は、アリの巣へと近寄る。
すると、そこには、炭のように真っ黒に燃え尽きているアリたちの死骸があった。
「うわぁ~、ホンットにヴィオの魔法って、凶悪だよね。いくらモンスターといえ、同情しちゃうわ」
「そんなことよりも、これで巣は潰れたと思うか?」
「多分、まだ中に残っていると思います」
「そうなると、俺たちでは手のだしようがないな。ヴィオ、任せてもいいか?」
「ええ、わかりました」
再びヴィオは、杖を構えると詠唱を始め、今度はアリの巣へ杖を向けると、またもや「ファイヤボール」と口にする。
杖から放たれた炎の玉は、巣穴へと落ちていき、中で爆発し火柱をあげる。
しかも、ヴィオは火柱が収まると、詠唱をしてはファイヤボールを巣穴に放つ。
それを5発ほど繰り返す。
最後の6発目の時には、火柱が少し見える程度になっていて、側から見ても過剰とも言えるほどだった。
「ふうぅ。多分これで大丈夫だと思います」
ヴィオの声を聞いて我に返った剣士は、顔を引きつらせていた。
いや、剣士だけではなく、残る二人もドン引きしていた。
「お、おう。そ、そうか」
「……これ、やりすぎじゃない?」
「俺もそう思う」
ヴィオは、仲間の態度に呆れる。
「全く、何を言っているんですか。ここに来るまでに遭遇したアリたちの数からして、かなり大きな巣だったはずです。ですから念を入れたんですよ。これだけやれば、生き残れるはずがないですからね」
「な、なるほど。そう言われると納得できるな。あとは、他に巣がないか、だが……」
「多分、ないとは思いますが、ここまで大きくなっていると自信はありませんね」
「そうか。仕方ない。数日は巣を探しながらアリの様子を見て、それから判断しよう」
「ええ、それがいいでしょう」
そう決まると、4人はそこの巣穴から移動を始める。
冒険者たちが巣穴から立ち去ってから、数時間が経ち夕刻へと迫ろうとした頃、トカゲがここに戻ってきた。
理由は単純で、あの後どうなったのか気になったためだ。
もちろん、ここに来るのに、いつも以上に警戒し危険がないと判断したため、やって来ることができた。
ここにたどり着いて、トカゲの視界に入ったのは、真っ黒になった地面と、原形を留めていないガーディアンたちだった。
それを見た時、一体何があればこうなるのか、理解ができずに呆然とした。
しばらくして我に返ったトカゲは、巣穴がどうなったのか、気になり近寄る。
すると、巣穴は広がっており、トカゲでも悠々と入れるほどになっていた。
トカゲは、中に入るか迷った挙句、決心して中へ入ることにした。
巣穴の中は、外よりも暑くなっていたが、体がどうにかなるほどではない。
なので、トカゲは気にせずに巣穴の中を降りていき、途中で横穴があったが穴が小さく入れそうにもなかったので、とりあえず降れる所まで降っていく。
どれほど潜っただろうか。
少なくとも、10m以上は降った。
そして、一番下まで降りるが、そこは何もなかったので、仕方なく登ることにした。
トカゲは巣穴を登ると、降った時に入らなかった小さな横穴にたどり着くと、その穴を掘り返し始める。
しばらく穴を掘ると、中が広がっていて、そこはトカゲも十分に入れるとわかった。
穴の中に入ると、そこには、アリだと思われる真っ黒に焦げたものがいくつもあった。
トカゲは、近寄って鼻先で軽く触れると、それはボロボロと崩れていった。
それを見たトカゲは、気にはなったが、穴はまだ続いているので、それらを無視して奥へと入っていく。
しかし、少し進むと、そこは行き止まりとなっていたので、引き返し穴から出て、他の横穴に入る。
次の横穴もしばらく掘り進めると、先ほどと同様に広がった場所に出たので中に入る。
中に入ると、アリと思われるものと、楕円形をした黒く焦げた何かがいくつもあった。
トカゲは知らなかったが、それはアリの繭だったが、見ての通り、真っ黒に焦げていることから、生き絶えていることは間違いない。
トカゲは、焦げた繭を爪先で触れてみると、これもボロボロと崩れていく。
今度は、スルーせず、舌を伸ばし舐めてみる。
伸ばした舌に僅かに触れると、苦味を感じ、すぐに引っ込め、食べれそうにないことがわかった。
奥の方を見るが、そこは行き止まりとなっていたので、またも引き返す。
横穴から出たトカゲは、他の横穴もおんなじだろうと思い、穴から出ようと登っていく。
穴を登り3つ目の横穴を目にすると、この横穴は前2つに比べ若干大きい気がした。
一瞬悩んだが、他にすることもないので、中を見ることにした。
穴を掘って奥へと進むと、またも広い空間に出る。
中に入ると、前の横穴2つよりもはるかに広いことがわかった。
そのことに不思議に思いながらも進むと、奥に真っ黒に焦げたアリたちの塊があった。
まるで何かを守るように。
アリたちが何を守ろうとしたのか、気になったトカゲは、アリを退かしていく。
すると、奥の方で何かが蠢いたものがあることに気づく。
なんだと思い、更にアリたちを退かしていくと、そこいたのはトカゲよりも大きなアリだった。
大きさは、トカゲよりも一回りほど大きく1.5m近くはあった。
そのアリは、ビッグアントクイーンと呼ばれる女王アリだが、トカゲを目の前にしても襲いかかってくる様子はない。
それどころか、動きが鈍く、このまま放っておけば死んでしまうのではないかと思うほど弱っていた。
どうやら、ヴィオが放った魔法をアリたちは防ぎきれず、女王アリは生き絶える寸前のようだった。
トカゲは、こんな絶好のチャンスを逃すはずはなく、弱っている女王アリに襲い掛った。
女王アリは、逃げようと体を動かすが、力が入っておらず、簡単にトカゲに噛み付かれる。
噛み付かれた女王アリは「ギィー」と鳴くが、その声は弱々しいものだった。
それが最後の力だったのか、鳴き止んだ女王アリは、バタリと倒れてしまう。
噛み付いていたトカゲも、倒れた女王アリから力がなくなったことを感じ取り、死んだことがわかった。
そのことがわかったトカゲは、ゆっくりと女王アリを食べ始める。
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