現役JKのエロ動画 一

 場所は変わらず局の職員が用意してくれたビジネスホテルの一室。


 狸寝入りしていた星崎さんから、詰問が行われている。


「佐々木、今すぐに答えなさい。課長が局員の自宅に監視カメラを設置しているというのは、本当のことなの? それは貴方だけが特別であったという訳ではなく、他の局員も対象にしているものなの?」


「本人は分け隔てなく仕掛けていると言っていましたが……」


「っ……」


 こちらの回答を受けて、星崎さんの表情が変化を見せた。


 目を見開いて絶句である。


 おかげで申し訳ない気分だ。


 この反応から察するに、星崎さんはまず間違いなく、今まで気付いていなかったのだろう。以前に聞いた話だと、彼女は普通に実家で生活をしており、局や学校にも自宅から通っているとのこと。


 当然、そこでは着替えをしたり、勉強をしたり、友達と遊んだり、場合によっては彼氏を招いて性的な充足を図ったりと、一般的な女子高生が行う活動を、ごく自然に行っていたものと思われる。


 その全てが課長の手の内だ。


 もしも自身と同様の扱いを受けているとすれば、複数台からなるカメラで多角的に撮影されている。音声を録音する機器も繋がっていた。更に彼女は入局から間もない社畜とは異なり、それなりの期間を局員として過ごしている。


 一体どれほどの大長編となっていることだろうか。


 完全にシリーズ物である。


「星崎さん、課長は決して疚しい気持ちで仕掛けている訳ではないかと」


「ターゲットの回収は確認したわ。すぐにでも局に戻りましょう」


「あの、できれば局や知り合いに、お土産を購入したいのですが……」


「お土産?」


「……承知しました」


 ジロリと睨むように見つめられた。


 航空機墜落の対応で忙しくしているだろう課長だけれど、これは更に大変なことになりそうである。自身にできることは、距離をおいて遠巻きに眺めるくらいだ。ちょっとワクワクしている事実は、絶対に彼女に知られてはいけない。


 ごめんよ、ピーちゃん。入間のお土産は持ち帰れそうにない。


 サイボクというお肉が美味しいと聞いて、楽しみにしていたのだけれど。




◇ ◆ ◇




 メガネ少年を回収した我々は、その日のうちに局に戻ることとなった。


 二人静氏とは現地で解散だ。まさか連れて行く訳にはいかない。


 代わりに連絡先を交換しておいた。


 往路は局の車を利用したが、復路はタクシーだ。


 経費は後で請求できると星崎さんが言っていた。おかげで長距離でも遠慮なく乗り込むことができた。所定のルートを外れると、外回りの電車代ですら精算を拒否されていた以前の勤め先とは雲泥の差である。内閣府超常現象対策局様々だ。


 ただし、車内は終始とても気まずい雰囲気だった。


 それでも幸いであった点があるとすれば、魔法中年云々の問答を彼女が聞いていなかったということ。本人に確認したところ、目覚めて直後に上司の盗撮疑惑が耳に飛び込んできたのだという。


 そういった意味では、狸寝入りの被害が課長に限定されたことは喜ばしい。


 ちなみに各々の配置は、後部座席に気を失ったメガネ少年と自身が座り、助手席に星崎さん、といった塩梅である。少年は最後まで眠ったままだったので、動き回るに際しては自分が背負う羽目となった。


 そうして首都高速を移動することしばらく。我々は都内に設けられた局の拠点まで戻ってきた。先んじて車を降りた星崎パイセンは、地面に降り立つと共に駆け足だ。鬼気迫る表情で、担当部署が収まるフロアに向かっていった。


 メガネ少年については、一人で運ぶ自信がなかったので、そのままタクシーの運転手に待機をお願いした。というのも、ホテルの居室からタクシーまで動かすのにも、思いっきり腰をやっていた。回復魔法がなかったら完全にアウトだった。


 こちらの対応は局のフロアに戻り次第、異能力者の受け入れを担当している部署に声を掛けて完了である。我々が採用活動に動いていることは先方も承知しており、これといって問題もなく連携することができた。


 そんなこんなで慌ただしくすることしばらく。


 出張の後始末を終えて自身のデスクに戻り、人心地ついたのもつかの間のこと。鬼のような形相の星崎さんに呼び出しを受けた。彼女に連れられるがまま、フロアに設けられた会議室で課長と向かい合う羽目になった。


 既に日も暮れており、定時はとうに過ぎた頃合い。それでも当然のように、彼はデスクで仕事していた。こういうところ、とても国家公務員っぽいなぁと思う。今日くらい帰宅してくれていたらよかったのに。


「いきなり話とはなんだね? 星崎君」


「課長に確認したいことがあるわ」


「それは構わない。私からも確認したいことがある」


 星崎さんが鼻息も荒く息巻いている一方、課長も課長で我々に用事があるそうだ。こちらについては何となく想像がつく。きっと二人静氏の身柄を巡るあれこれだろう。近いうちに打ち合わせの場を設けると約束していたから。


「ところで、佐々木君も一緒で構わないのかね?」


「佐々木から聞いたわ」


 苛立ちを隠そうともせずに星崎さんは伝えてみせる。


 担当内の諍いに後輩を巻き込まないで欲しいのだけれど。


「局員の自宅に監視カメラをバラ撒いているそうね」


「それがどうしたのだね?」


「っ……」


 星崎さんからの追求に対して、課長はまるで動じた様子もなく答えてみせた。さも当然だと言わんばかり。個人的には、こういう反応をするだろうなぁ、と考えていたので、やっぱり、といった思いが強い。


 しかし、隣に座ったJKはそうでもなかったようだ。


「ま、まさか、そんなことが許されると思っているの!?」


「ああ、許されるとも。その権限が私にはある」


「なっ……」


 普段と変わらない淡々とした物言いだった。


 その事実は星崎さんがどれだけ声を上げたところで、きっと変わらないだろう。二人静氏も似たようなことは、そこかしこで行われていると言っていた。扱っているモノを思えば仕方がない気がしないでもない。


 自身はピーちゃんのおかげで被害を免れたので、完全に他人事だ。


「安心したまえ、他所に流すような真似はしない」


「そういう問題じゃないわ!」


「では、どういった問題なのだね?」


「課長はその手の趣味の持ち主なのかしらっ!?」


「あぁ、そういうことかい」


「決まっているでしょう!」


 バンと机を叩いて、星崎さんは椅子から腰を浮かせた。


 異能力を繰り出しそうな雰囲気すら感じる。


 一方で動じないのが課長だ。繰り返し追求を受けても眉一つ動かさない。こうした質疑は事前に想定しているのだろう。もしくは過去にも、同じような問答を交わした経験があるのかも知れない。


 相手が異能力者、それも攻撃性の能力を備えた星崎さんともなれば、状況的には眉間に拳銃を突きつけられているようなものだ。それなのに表情には僅かな崩れも見られない。


 だからこそ本日、二人静氏を話題に上げたときの反応は、電話越しとはいえ、今思い出しても痛快である。面接に際してはどのような振る舞いを見せてくれるのだろうか。叶うことなら自身も、オブザーバーとして立ち会ってみたいものだ。


「こんなのセクハラだわ!」


 荒ぶる星崎さん。


 これに対して課長は極めて事務的に応じてみせた。


「それなら安心するといい。私は同性愛者だ、女に興味はない」


「え……」


 課長、よりによってこのタイミングでカミングアウトですか。


 星崎さんも鳩が豆鉄砲を食ったような表情となる。


「女子学生よりも、スーツを着用した同世代の男性に興奮する」


「…………」


 今まで浮かんでいた憤怒が、一瞬にして彼女の顔から消え失せていた。同時にチラリと、こちらに視線が向けられる。疑念の入り混じった眼差しは、そこに要らぬ誤解が生じているようにも思えた。


 っていうか、誤解じゃなかったらどうしよう。


 対岸の火事が水面を渡ってやってきた感、あるよ。

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