第37話 覚醒
俺は今日は少し遅めに起きてしまった。昨日のトレーニングのせいだろう。まあ、俺の為だったからいいのだが。
だが遅めと言っても朝9時だ。遅すぎるという事は無い。
俺が部屋を出て1階へ行くとロビーにはエリスと有彩がいた。
そして不思議な事にロビーには他に人はいないようだ。
「おはようございますレクトさん」
「おはようエリス」
今日の昼までに有彩がとある感情を見つけなければいけないのだ。
「有彩ちゃんはもう見つけられましたか?」
有彩は首を横に振る。まだ見つけられていないようだ。
「エリスさんも、龍王の一匹、
あ、それは俺も気になるな。
エリスは嫌がることも無くすっと口にしてくれる。
「以前は、アムネルへの復讐心です。会ったら絶対に殺してやるという気持ち。そして今は、レクトさんを絶対に守るという気持ちです」
「・・・それだけ?」
有彩がポケーっとしている。聞いてみれば単純な気持ちだ。
「それだけ、と聞こえるみたいですがその気持ち、願いを叶えるためなら命をかけられるくらいです。龍王は気持ちの強さを求めます。有彩ちゃんに足りないのは気持ちの強さですよ」
・・・なんか、俺の為に命をかけてくれるって言われた感じがして少し嬉しいな。
「では、有彩ちゃんは龍王とコンタクトを取ってください」
「い、今?」
もう時間が無いのだが? ・・・いや、エリスには考えがあるのだろう。
「わ、分かった」
有彩はロビーのソファーで横になり楽な姿勢で眠りにつく。
「さて、私達も準備をしましょうか」
「なんの?」
「
「なっ・・・!」
まさか、有彩にコンタクトを取らせたのは・・・。
「龍王を目覚めさせるため、なのか? どうしてだ? まだ時間はあるだろ」
「ここまで来ると時間に焦った有彩ちゃんは冷静に見つける事は出来ません。でしたら龍王の中から見つけて貰いましょう」
こ、この女っ!
「エリス! お前は正気か! まだ見つけれてないのに戦闘中になんて! 絶対に・・・」
「ええ。正気ですよ。・・・レクトさんがここまで怒るのは初めて見ましたね」
エリスは何処までも冷静だ。どんな時でも、多分片腕飛ばされても冷静に対処するだろうな。
それに比べて俺はガチギレ状態だ。だが、どんな思惑があろうと流石にキレる。
「なんでこん・・・」
「有彩ちゃんのためです。レクトさんが聞きたいのは何故戦闘中に見つけさせるか、ですかね? そっちの方が見つけやすいんですよ」
・・・分からないな。
「俺には分からないな」
「レクトさんはまだ戦闘経験が浅いから分からないのでしょう。仕方が無いです」
・・・小さな頃から戦いの中で生きてきたエリスには説得力がある。確かに納得はいかないが、エリスの手が最も効率がいいのかもしれない。
「分かった。今から準備する」
「内心分かって無さそうですけど、まあいいでしょう。お願いしますね」
俺はこの状況でもニコニコしているエリスと別れて再び部屋へと戻る。
「そんな重要な役が俺でいいのかな?」
いや、今回はメンバーがメンバーだ。問題無いと思いたい。・・・逆にこのメンバーが怖くなりそうだな。
部屋に戻った俺はまず、各ベレッタの点検、ウエストポーチの中の確認、そして装備品を確認する。
「とりあえず、アディルの所に行くか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺はアディルが入り浸っている店へと行き、少し物資を調達する事にした。
アディルの店は支店ながらも大きい。クロウズナイト家の店は名があるらしく、上位の冒険者もよく行くのだとか。
「アディル、いるか〜?」
店に入り、アディルを呼ぶ。すると煤で汚れたアディルが店の後ろから出てくる。
「おう、レクト。今ちぃと忙しいんだわ。・・・と、言いたいところだがなぁ。ナイスタイミングだぜ?」
「逆に俺に用があったのか?」
アディルは俺に手招きして店の後ろへと戻っていくのでそれを追う。
工房の作りはエルフィムと変わらない。ただ、少し機材が少ないな。
そこで、中央テーブルに黄土色に輝く一丁の
「これって・・・。マクミランM87Rか?」
「そそっ。前にベリアルが持ってたものをレクトが回収したもんだ。で、その弾丸を作ってやったってわけ」
って事は・・・。
「弾をくれるのか!?」
「もちろんだぜ。元々お前のハンティングトロフィーだろ? それを使いこなして見せろよ」
それは少し意味が違う気がするんだが?
「だが、元々エリスの魔法で時計塔を吹き飛ばしてその追撃をしただけだから実質エリスのだぞ?」
「エリスの嬢ちゃんは銃使えねぇだろ。お前が持っとけよ」
・・・エリスならすぐに使えそうだけどな。
まあ、せっかくなので貰っておこう。俺は有難く受け取った。
「っと、そうだ。
「そうだな・・・。量産して売るのも考えたが、それをするとレクトの兵器の強みの初見殺しが無くなるからなぁ・・・、よし! 売らないで全部レクトに渡すか!」
商人として生まれ変わったこいつは何でもかんでも売ろうとするな。だが珍しい物だから当然だろう。
「いいのかそれで? 金儲けになるかもしれないのに」
「ああ。親友のためだ」
アディルはニヤリとカッコつけて言う。まあここはカッコつける場面だな。
「ありがとな」
アディルは奥から俺の要求した物を持ってくる・・・。持って・・・。来た・・・。 ざっと数百弾・・・。
・・・。
数百弾も!? なんで!?
「そんなにあるのか!?」
「もちろんだぜ。言ったろ、量産して売りさばくってな! だが俺があげたウエストポーチに容量は関係ねえ。全部突っ込んどけ」
確かに売るなら数万個は必要だしこれくらいは必要なのかもしれない。
「・・・ありがとう」
これはやばいな。・・・でも全部入れておこう。
こうしてすっと手榴弾を全部入れた。
「マクミランはどうする? ケースはあるか?」
流石にマクミランをウエストポーチに入れるのは避けたい。入れてる途中に破れると困るからな。
「あるぜ。おーいへスティアちゃん! あのケース持ってきてくれ!」
ん!? へスティア!?
「はーい」
この部屋の奥からへスティアの声が聞こえてくる。
「はいこれ」
奥から出てきたのは髪の毛がボサボサで眠たげな凍棘の魔女へスティアだった。
「・・・なんでここに?」
「アディルさんのお手伝いだよ。昨日は記憶を貰ったから魔法の効果が切れる残りの三時間はお手伝いする事にしたんだ」
へスティアは無表情で金属のケースを運んで来てくれた。
そんなへスティアの事をアディルはぽんぽんと頭を叩く。へスティアは高身長だがアディルも高身長のため成り立っている。すげえ構図だな。
まあ、銃を貰ったんだし・・・。
「試し撃ち・・・、できる場所あるか?」
「・・・」
ゴスっ!
アディルが俺に無言のチョップをくり出す。地味に痛いんだけど?
「
・・・的が吹き飛ぶ程度で済むのなら、と思ってしまうのは俺だけだろうか?
「的が吹き飛ぶくらいならいいんじゃない?」
あーあ。やっぱりへスティアも同じ事思ってたか。
「へスティアちゃんは感性がおかしいからな? ・・・いや、エステザンでやってる事を考えればしょぼいな」
へスティアを調べてる時に出てきたな。一瞬で敵兵を凍結させてるって。・・・何度も思うが次元が違うな。
「やろうと思えばこの星まるごと凍らせれるけどね」
「止めろよ。いやマジで止めてくれ」
「冗談だよ」
へスティアが無表情な分、状態に聞こえない。
「でも、エリスさんと戦う時はそれくらいしないとね」
それじゃエリスが死ぬんじゃ?
「エリスの嬢ちゃんは大丈夫なのかよ?」
アディルも同じ事を考えていたようだ。
「ん? エリスさんも似たような事出来るから大丈夫だよ。確か・・・直線上の物質を崩壊させるんだっけ?」
・・・いやー怖いなー。二人共怖いなー。
「あ、そうだ。エリスさんから聞いてると思うけど今日戦うんでしょ?」
「だから今準備してんだろ!」
既にへスティアとアディルは聞いていたらしい。
「あの時意外とベルが反対してたんだよね〜。あの子があそこまで反対するのって珍しかったな〜」
へスティアが予想外な事を言ってくる。
「ベルが反対してた?」
「うん。昨日も一緒に遊びに行ってたから仲良いんだと思う。でもこの作戦が一番いいから仕方無いよね。決まった時は相当ショックな顔だったよ。有彩もいなかったし」
・・・やっぱり分からないな。エリスの考えてる事が。
「でも、エリスさんの作戦だから何かあるんだよ。私はそこまで頭良くないし」
うん。今の見た目ニートだもん。
「どうして髪がボサボサなんだ?」
「ん〜? 普通に昼寝してただけだよ〜。あんまり寝てないし。あと私寝相悪いから」
へスティアは寝癖をピンピンと引っ張りながら答えた。つまりは寝不足で今はゴロゴロしてただけか。
「ん? エリスさんからだ。・・・はーい」
へスティアにエリスからの
「なんだって?」
「あと二時間くらいだって。・・・どうしよっか。模擬戦する?ここに
「嫌に決まってんだろ! 死にたくないわ! ・・・ん? それがあるなら街の中で戦闘する必要無いんじゃ?」
お! 俺にしてはいい案だ!
「残念ながらそう上手く行かないんだよね〜。これの中に入れるのは最大二人まで。つまり有彩とほか一人だよ?
「そうかぁー」
俺の案、秒で撃沈。
「ん〜。じゃあ配置に付いておこうかな。もうこの街に人は殆どいないし使い放題だよ。レクトさんはこの街にある城の最上階だってさ」
いない? ・・・なるほど。エリスの計画だから最初から避難させてるって訳か。
「分かった。へスティアの役割はわかんないけどとにかく頑張れよ」
「私は最初はそこまで重要じゃないし、そこまで気張る必要無いけど頑張るよ」
アディルはギリギリまで工房にこもっているようだし、俺とへスティアはそれぞれ配置に付くことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ねえ死神さん・・・。私はどうすればいいのかな?
『僕にそれを聞くのかい? 君の好きな様にするのさ。ただそれだけさ』
分かんないよ。私には分かんない。
『そうか・・・。それが君の答えでいいのかな?』
まだ・・・。時間前だよね?
『そうだね。そうだからこそ・・・』
『僕に半分任せなよ』
こうして、私の意識が混ざった状態で・・・。でも体が言うこと聞かないまま・・・。暴走を始めちゃった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
グラァァァァァァァァ!!!
圧倒的な力の渦を纏い、街の中央で悍ましい龍王が目を覚ます。城は8km離れているが、その存在感や迫力は十分に伝わってくる。
「・・・黒いオーラ?」
「そのオーラが
隣にいるエリスが解説してくれる。・・・近付けないどころの話じゃないな。
「更に、
感染力が凄まじい感染菌ね。だから俺は8km離れた城からの狙撃なのか。
「エリスは何をするんだ?」
「私、ですか?」
エリスはこの上なく嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「関わってくる邪魔者の排除ですよ」
・・・この笑みは真っ黒い企みの笑みだな。
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