第16話 会議前の数時間 パート1

俺達が城に着くと中では衛兵や文官が慌ただしく走っている。戦後処理や経費の問題だろう。

城の外ではこの領内の人達が列を作っていた。俺の目から見るとその人達は活力に溢れている。きっと、この出来事を対策出来なかった領主のせいにしてる訳てはないのだと思う。


「はー。久々だな〜」

ちなみにアディルとも途中で合流していた。


にしても、他の連中は忙しそうだな。

「これ、俺達が居ていいのか?」

「大丈夫なはずですよ。私とベルキューアさんは専用の個室があるのでそちらに行きますね」

俺の問いかけにエリスが答えた。・・・序列上位の特権だろうな。羨ましい。


「レクトさんとアディルさんには二人部屋をお願いしできますね。そちらの方が何かと都合が良さそうですし」

「お! 譲ちゃんサンキューな」

俺はどこでも良かったがどうやらアディルの方が俺に用事があるらしい。


「あ! 爺!」

ベルはベルで豪華なローブを着た爺さんの所へと向かった。・・・オーラが別格である。

「あれは序列三位のゼルヴィン卿だ。敵に回すとやべーぞ?」

「分かってるよ」

素人目でも分かる程のオーラだ。あの化け物爺さんに敵対出来るわけないだろ。ただでさえ街を吹き飛ばした張本人なんだから。


「レクトさーん! おっけーです!」

エリスが近くの衛兵への頼み込みが終わり、すぐに案内をまわしてくれた。

「さ、とっとと行こうぜ」

アディルがノリノリで俺を引っ張っていく。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



俺達は四階の二人部屋まで案内された。

「こちらになります。セクトルス様のご友人という事ですので、しばらくこの部屋で泊まって頂いて構いません。何かございましたら室内に〈念話〉メッセージの機械がございますので、そちらをお使い下さい」

ガチャリ、と扉が閉まる、ちなみに鍵は俺が持っている。アディルに渡すと多分無くすだろうという友人の直感だ。


「おお。広っ」

中は二人部屋とは思えないくらいに広い。ホテルの四人部屋でもここまでの大きさは無い。そして壁に刺繍された金の模様、絨毯の柔らかさや見ただけで分かるようなソファーの高級感。俺が入ってはいけないような空間だ。


「俺は風呂に入って来るわ。レクトはどうするんだ?」

今回、俺達がここに居られるのはエリスの要望だ。会議に参加して積極的に活動する事を引き換えに、ここでの寝泊まりを許可されたのだ。

その中には俺達も入っている為、ゆっくり満喫させて貰う事となったのだ。


今この部屋を開けると誰かから電話メッセージが来るかもしれないな。

「俺は後でいいよ。・・・あ、着替えは貰っておいてくれ」

「おう!」

アディルはワイルドな笑みを浮かべて部屋を出て行った。


・・・・・・。


「ふぅ・・・・・・」

俺は近くのテーブルの上にベレッタとマクミランを置いてから、2つのベッドのうちのひとつに寝転がる。


「・・・はぁぁぁ」

流石に疲れたな。・・・時計を見ればもう午後4時、店を出てから約2時間だが体感時間は3日くらいだ。


俺はさっき殺した人の事を思い出した。エリスが言うに、三柱の一角であるベリアルらしい。

アムネルの手下だから悪人なのだろう。そしてベリアルは俺と同じ地球出身の可能性が高い。


・・・・・・。


俺は人殺しか。・・・この世界じゃ普通なのかな。エリスを見てるとそうなんだろう。悪人は死罪、殺して当たり前。

実際、あの獣人の対応を見るとそう思えてしまう。


銃を使うのだから殺すのはしょうが無い。と、思ってはいけない。・・・アメリカでアディルが言ってたな。

それに人殺しは元日本人として容認出来ない部分がある。・・・難しいな。


人殺しが普通の世界か。

「ここ最近、忙しすぎるんだよなぁ」

飛行機が突っ込んできて、押しつぶされ、そしたら何故か異世界に飛んで。色んな知識詰め込んでからすぐに悪魔と戦って街が焦土になったり。


「しんどすぎるぞ」

ドラクエの主人公もこんな感じなんだろうな。毎日モンスターと戦って、魔法を覚えて。冒険したりして・・・。


「あ!」

冒険だよ! 冒険してみたい! ・・・やっぱり旅行はワクワクするし、新しい目的とか見つけたいし。

「とはいえ今は今の目的があるけどな」


悪魔アムネルの討伐。一応マリアさんと約束してる事だし、出来ることは強力したい。・・・けどなぁ。

「エリスが強すぎて俺の手を出す所が無い!」


いや、マジで。あのちょろっと見た爺さんもだよ。気まぐれで俺なんか秒で殺されるぞ。あれはもう人じゃない。・・・じゃあなんでエリスに引き金を引いたかって?


「雰囲気が何となくエリスっぽく無かった・・・」

それはホントにただの直感。少し心をざわつかせた部分があたからだ。あるかは分からないが洗脳魔法とか、人格が変わったとか。・・・本当に唐突だった。


「不思議だな」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あーもー! リオ! どうしてあんな事言ったのですか!?」


『あ? 面白いだろ?』


はぁ。・・・個室で防音ですからいくら叫んでも外には聞こえませんが、叫び過ぎてもいけませんよね。

ここは二人部屋分の大きさを1人で使えるVIP部屋です。冷蔵庫、精霊伝達網(通称STN)がありますので完璧です。にしても・・・。


「リオ! 私の人生を面白半分で弄らないで下さいよ!」

私はベッドでゴロゴロと悶えてます。なんか昨日もこんな事してた様な・・・。


『あ〜。なんと言うか・・・』


どうしました? リオにしては珍しく渋りますね。


『俺はお前の本心をそのまま口にしただけだぞ?』


・・・・・・。


え!? 嘘ですよね!? ・・・確かに結婚願望は無いですけど、なんというか弟っぽいイメージがありますので夫は少し違う気がしますけど!?


『そうか? 俺はそう思ったからそう言っただけだ。だが、初めては強いやつだろ?』


それはもちろんですよ。 強くないとダメです。・・・あ、そうでした。


「母さんに連絡するのでリオは少し下がって下さい」


『オーケー』


リオが意識の表に出てると〈念話〉メッセージで声が乗ってしまいます。こういう時は注意です。

〈念話〉メッセージ


『もしもし。どうした?』

「あ、母さん。しばらく帰ることが出来ないのでエルフィムで泊まります」

『ん?・・・』

おや? 母さんが珍しく言葉が詰まってますね。


『・・・もしかしてレクトが何か誘ったか?』

・・・なるほどそういう事ですか。ですがそんな事はありませんよ。

「違います。エルフィムで問題が発生しましたのでしばらくアリスティア城に泊まります」


私は母さんに事情を話しました。

『はぁぁ。あまり暴れ過ぎるなよ』

「分かってます。父さんからリオを継いでますけど手加減して貰ってます」


『早く帰って来てこい』

「分かってます。母さんもお大事に」

ここで〈念話〉メッセージを終わらせて、ベッドをゴロゴロします。


「ううぅ」

どうしてもレクトさんの顔が出てきます。レオのせいです。・・・惚れる要因が無いのに不思議ですね。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「くぁぁ! やっぱ風呂上がりの酒はうめぇ!」

そうこうしている内にアディルが帰って来てビール瓶を開けている。俺も風呂に行こ・・・。


「待て。ちょっとPCと銃全部貸せよ」

「友人にカツアゲか?」

アディルは少し笑う。俺のジョークが気に入ったらしい。


「ちげーよ。ちょっと工房に持って行こうかと」

「工房? あの爺さんの攻撃で吹き飛んだだろ?」

爺さんは城以外を全部吹き飛ばしたから残ってるはずが無い。


アディルは驚いた後、納得の表情をした。

「ああ。レクトは知らんのか。この世界の家は殆ど地下室がある。こんな事が起こるかもしれないから予め地下室で生活出来るようになってんだ」


えぇ・・・。水蒸気爆発が起こる事を前提ですか。前の世界で言うと核ミサイルが落ちる前提みたいなものだぞ。

「じ、じゃあ城の下にいた人達は?」

「あれは食料の配布だぜ? 保存食とかあるけどやっぱ作りたてで美味いもん食いたいだろ? だからランダムで配ってんだよ」


・・・貴族ってもっと自分勝手なイメージあったけど違うんだな。

「こういう領民の事を思いやる点がアリスティア伯爵の評価が高い所だぜ? ・・・飲むか?」

「俺はいいや。でも風呂上がりに少し飲むから取り寄せとけよ。俺のPCと銃は全部持ってっていいからな」


「了解了解」

アディルがニヤニヤしている。こういう時のアディルはサプライズを企んでるか、イタズラを企んでるかのどちらかなんだよな。


まあいい。さて、着替え持って風呂に行くか。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「で? 今回の作戦は失敗か」

「はっ! 不甲斐ない結果で終わり申し訳ございません!」

とある執務室で冷や汗を浮かべたカマエルが頭を深々と下げる。

その相手は白髪で平均的な身長の男。だがそのオーラは圧倒的だ。


その男が肘を机に付き、作戦報告書に目を落とす。

「謝罪はいい、・・・第一目的は失敗。第二目的は成功と考えていいのだな?」

「はっ、はい! 閣下のご命令通り動けず、申し訳ござい・・・」


はあ。と閣下、アムネルがため息をつく。その瞬間にカマエルが凍り付く。

「謝罪は要らんと言ったはずだ。・・・だが穴埋めは難しいぞ? 特にバディンとベリアルは変えがいない。元々私の腹心の二人だからな」


カマエルの顔が更に青くなる。

「・・・とはいえご苦労だった。次の作戦まで待機だ」

「お待ち下さ・・・」

「待機だ」

アムネルが命令は絶対遵守だと言わんばかりに言葉を遮る。


「・・・失礼しました」

ガチャリ、とカマエルが扉を開けて外へ出た。

「・・・私はまたやり方を間違えたのか」

アムネルが1人呟く。


「私の手で成し遂げたかったがな・・・」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




カッポーン


って音が聞こえそうだな。

俺はアリスティア城の地下2階、男性用大浴場に来ている。一言で言うと、めちゃくちゃでかい。見えてるだけでも野球が出来るレベルだ。それに綺麗だ、シャワーから石作りの温泉まで丁寧に作られている。


そんな所で俺は置いてあったシャンプーで頭を洗い、金持ちの気分を味わっていた。シャンプーもおそらく高級品だろう。


「にしても人が多いよな。こんなに人いたっけ?」

この温泉には城の中では居ないような人がいる。工事現場のおじさんみたいな人や小さな子供まで。


「あれ? シャワーシャワー・・・どこだ?」

あるあるだよね。これ。

「ホッホッ。ほれ」

誰かがシャワーのお湯を出しながら取ってくれる。

「あ、すみません。ありがとうございます」


俺はお湯でシャンプーを落とし、取ってくれた人を見る。

毅然とした雰囲気の白髪の老人。この人は・・・

「礼などいらんぞ。ワシもよくあるからの」


「ゼルヴィン卿!? どうしてこちらに!?」

「そう驚くでない。ワシも風呂に入りに来ただけじゃよ」

わあお。俺の隣に超級の化け物が。

「それに畏まる必要はないぞ。ワシの事はバジステラと気軽に読んでくれて構わん。ちなみにこの大浴場に人が多いのは一般開放しておるからじゃ」


「は、はい・・・」

・・・やばいやばい。

「・・・中距離戦闘型じゃな? 見た感じ魔力の扱いに慣れておらんが筋肉の付き方は殴るタイプじゃないから、武器を使用して戦うのかの?」


「へ、変態ですか?」

・・・あ、やべ。これ俺死ぬんじゃ? ・・・仕方ないだろ! 一目見ただけでどんな戦い方か看破されたぞ? どんな目してんだよ!


「ホッホッ。すまんのぉ。戦闘で生きる身としてつい」

こええよ! しかも魔力が扱いが慣れてない事までバレてたし。

俺は体を洗い、この人と会話しながらこの人の事について考える。・・・一応短気ではない方だな。しかも接しやすい様に会話をしてくれる。


意外と優しい方なのでは?

ふとさっきベルが話しかけに行った時の事を思い出した。

「バジステラさんはベルと知り合いなんですか?」


そう尋ねるとバジステラさんは驚いた。

「カストルス卿とお知り合いなのかの? ワシとカストルス卿は元々主人と弟子じゃ。カストルス卿が6の時、ワシが道端で拾ったのじゃよ。カストルス卿は元々剣の才能があったのじゃから少し教えてあげたんじゃ」


ベルもベルで大変だったんだな。

そしてお互いに体を洗い終えた。

「少し付き合って貰おうかの。・・・えっと」

「レクトです」


俺達は話しながら湯に浸かる。

暖かい。というか入っただけで活力が溢れてくる様な感じだ。

「いい湯じゃな。・・・朱雀蝶の鱗粉が混ざっておるの。品があり、なおかつ体に染み込み魔力の流れを良くしてくれるとは役得じゃな」


一瞬で看破しやがった! この爺さんすげえ。

「・・・分かるんですね」

そういうとバジステラさんが照れる。爺さんの照れ顔って誰得だよ。

「400年も生きておればこのくらい楽勝じゃな」


400年!? やっぱり人じゃねえ!

「ワシはエルフじゃ。それでもワシ程生きた者はおらん。・・・それにワシもあと何年かで死ぬじゃろう」

エルフか。イメージとしては長生きで魔法が得意って感じだがどうなんだろう。


「そう言えばお主はレクトじゃったな。未知を探求する者。という意味じゃな」

・・・そう言われると恥ずかしいがエリスが言ってたから素直に頷く。

「いい名じゃな。姓はなんと言うのかの?」


「姓・・・。あ、そう言えばまだ無いですね」

バジステラさんが不思議そうな顔をした。

「姓が無い? どういう事じゃ?」

別に隠す事では無いので今までの事を素直に話した。

「ほう。 異世界から来たのじゃな?」


この爺さんはあっさり信じてくれたようだ。

「信じてくれるんですか?」

「信じるぞ。それが裸の付き合いというものじゃ」

なんか緩いな〜。


「ユレガリア・・・」

ん?

「レクト・ユレガリア、なんてどうじゃ? ユレガリアは旧アイクレルト語で『解き明かす』という意味じゃ。『未知を探求し』、『解き明かす』者。・・・年寄りにしてはセンスあるかの?」


ユレガリア・・・。

「魔法師序列三位様に頂いた名前ですよ。有難く頂戴致します」

「ホッホッ。気に入ってくれたのならワシも満足じゃ」

名前とか苗字を付けられるのはなんかむず痒いな。


「ところで・・・」

バジステラさんが〈転移門〉ゲートを使い、手ぬぐいを取り出して頭に乗せた。

「ふぅ。・・・お主が三柱の一角、ベリアルを倒したのは事実かの?」

・・・あまり触れて欲しくないな。

「・・・この話題はいやかの?」


俺の表情で頭の中が読めるのか? というかそれを言われると逆に断りずらいな。

「大丈夫ですよ。 ・・・そうです。俺が殺しました」

「そうじゃったか・・・」

急にバジステラさんがしょんぼりとした。


「どうかしましたか?」

「いや大した事はないのじゃが、少し話を聞いて欲しいのじゃ 」

男同士の裸の付き合いだ。最後まで付き合おう。


「元々ベリアルはワシの弟子での。数十年前にワシの元々に来て一年ほど修行させたのじゃ。召喚系の魔法に特化してたあ奴はたった一年で本当に強くなりおった」

爺さんがしんみりと目に涙が溜まっている。よっぽどいい時間だったのだろう。


「じゃからワシは一年で卒業させたのじゃ。一人で頑張れと言っての。そしたら次の日にあ奴は一つの街を滅ぼしたんじゃ」

・・・・・・。


「だから師匠のワシが殺すべきじゃった。最初の弟子が大罪を犯したのじゃ。師匠が止めるべきじゃよ」

「バジステラさん・・・」

「じゃがお主が倒したのじゃ。ワシが止めるべきじゃった弟子を止めてくれたのじゃ。・・・ありがとう」


・・・人を殺して礼を言われる。

「なあ爺・・・、バジステラさんは最初に人殺しをした時に何か思う事はありましたか?」

「爺さんでよいぞ。・・・すごく昔の記憶じゃな。それに難しい質問じゃな」

そうだったな。この人は400年生きてるからな。


「ワシの考えじゃが、人殺しは悪であり正義じゃ。ベリアル・・・。いやオスカルを殺すのはワシから見れば正しい事だと思う。じゃがカマエルからすれば殺したお主は悪と認識されるのじゃよ。じゃからワシは自分の正義を貫く思いでおる。じゃからお主も自分の意志を貫く事が重要じゃ」


自分の正義か。そんな事考えもしなかったな。

「質問の答えになっとらんかの?」

「いえ。十分です」

やはりご老人はいい答えをくれる。


「そろそろ上がろうかの。お主はどうする?」

「では俺も上がります」

爺さんは〈転移門〉ゲートに手ぬぐいを投げ込み、ジャバジャバと音を立てて温泉から出て、俺もその後を追う。


扉を開けて体を拭き、部屋の着替え、温泉にある様な浴衣を取り出す。

「そうじゃ。後で会議があるのじゃがお主も出るじゃろ?」

脱衣場で着替えているとそんな事を尋ねてくる。

「俺はエリスと行きますよ」

「ホッホッ。いいですな。やはり若い内に女性と結ばれるべきじゃぞ? ・・・まだ23じゃな?」


「・・・正解ですよ。流石です」

どこまで見透かせば気が済むんだこの爺さん。

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