第15話 破壊の開墾

・・・・・・。

いや、俺がここで感傷に浸っている場合では無い。いち早くエリスやアディルと合流すべきだろう。

でもその前に、あまりマナーは良くないと思うが少し死体あさりをしてみるか。


被っているフードを脱がせる。見た感じ、おっさんだ。

体には防弾着に50口径の銃弾が相当付いている。

・・・・・・50口径の弾丸?


「おいおい、なんて物騒なものを・・・。ん?」

やはり、というべきか近くには狙撃銃が転がっていた。目立たない黄土色。形的には・・・・・・。

「マクミランM87R。となると敵は俺と同じ転移者かな?」


まあ、それは後で考えよう。

「新しい銃だー! しかも対物ライフル! 軍人時代ですら触れなかった物が異世界で触れるなんて!」

いやー。銃が好きで軍人になったんだから新しい銃を手に入れるとテンション上がるなー!


それじゃ、こいつが持っている銃弾を全部拝借して1発撃ってみるか。

マクミランM87Rはボルトアクションだから、


ガシャ


・・・・・・。

うおおおおぉ! やっべー。この音! この感触!

「ベレッタはオートだからこの作業は要らないけど、感触はロマンがあるよな」

見てて気持ち悪いって? 分かる人には分かるんだよ。


そのままスコープを覗いて引き金を引く。


プシュ、


おや?

「消音があるから銃声が抑えられてるのか」

そしてもう一度スコープを覗いて撃った場所を見る。

やはり威力は絶大。壁には巨大な穴が空いている。


とはいえこのスコープ的に流石に時計塔から狙えるとは思えない。

「こっから8kmってほぼ運じゃ?」

どうやって狙っていたのかを考えていると・・・。


「そのレンズ、多分魔晶石ですよ。魔力を流すと通常より細かく見えるようになります」

エリスが地上を滑空してやってくる。この世界でのノリで飛行魔法だと推測して完結させる。

「魔晶石か。よくわからないけどこの世界生だよな? だとすると・・・」


前の世界とこの世界の技術の融合。

「いい所は取り入れる精神はどの世界でも共通か」

「それはそうですよ。・・・・・・そう言えば先程冒険者組合から連絡がありました。アリスティア城から極力離れる、もしくは地下室に避難して欲しいだそうです。」

急だな。


「エール・ゼルヴィン卿が広範囲殲滅魔法を使うそうです。城からここは10kmほどありますが、エール・ゼルヴィン卿の攻撃ですと、まだ危険範囲です。どうしますか?」

10kmで危険範囲かよ。おかしいだろ。


「規模が馬鹿げてる」

そんな言葉にエリスも苦笑い

「いやぁ。序列十位以上は化け物ですよ。攻撃範囲はkm範囲です」


俺は今立っている場所を見渡す。

・・・・・・お前が言うな。

俺はそう思ってエリスの方を見る。そんな俺の表情を見て言いたいことが分かったらしい。

「そんな目で見ないで下さいよ〜。これはリオがやった事ですよ! 私に言わないで下さい!」


いや、エリスが指示を出しただろ! 仕組みはよく分からないけど多分! 絶対そうだ!


「ちなみに、召喚魔法で生み出された悪魔が何故まだいるのかというと、召喚した悪魔の主権が移されたそうです。分からなければ株みたいなものだと思ってくれればいいです」

分かった。・・・というか、この世界に株なんてあるんだな。


「そう言えば俺を転移させたのはアイテムか? エリスは転移魔法が使えないとか言っていから」

冒険者組合での会話を思い出す。

「そうです。〈指定転移〉ポインター・テレポーテーションの魔法で予め指定しておいた時計塔にテレポートさせました」


そんな器用なことが出来るんだ。

「・・・・・・そうこうしている内に始まりますよ。私の近くにいてください」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「来て頂けましたか、エール・ゼルヴィン卿」

冒険者組合でゆっくりお茶を飲んでいたバジステラは、エリスの〈星導の王砲〉オルファリオ・ロードカノンを打ち終えた辺りで到着する。


「呼ばれたのじゃから来るじゃろ。・・・それにせっかくの暴れる機会を無駄にするのはいやじゃからな」

「・・・・・・」

アリスティアはなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。助けに来たのを喜んでいいのか、それとも遊び半分で来ているような人に注意すべきか。


「セクトルス卿も多少なりと暴れたのじゃ。わしも少しくらいならいいじゃろう」

「・・・・・・ではエール・ゼルヴィン卿。お願いします」

アリスティアは投げ出した。もうどうにでもなれと。


〈飛行〉フライ

エール・ゼルヴィン卿が魔法で空を飛ぶ。

「さて、どんな魔法にしようかのう」

呑気に考えて数十秒、やがて地上から2km程で停止する。


この街一帯を見渡す事が出来、エリスの攻撃跡や悪魔の残り数が分かる。

「ざっと20万弱じゃな。・・・ならこれじゃ」


パチン!


バジステラは指輪を鳴らし、数十の〈転移門〉ゲートを開く。

これはバジステラの特殊技能スキル、「栄道開門」。 何時でも好きな時、幾らでも〈転移門〉ゲートを使えるというものだ。一見使えなそうだが、この転移魔法は人以外の物も運べるという点がとても優秀なのだ。


〈転移門〉ゲートから出てきたのはドロドロの溶岩。見るからに熱い新鮮物だ。

地上の悪魔達は溶岩に押しつぶされ、瞬時に溶けていく。しかし溶岩の拡大は遅い。しばらくすると逃げ切れそうな悪魔もチラホラ見えてくる。

「やはり吹き飛ばすしかなさそうですな」


パチン!


再び〈転移門〉ゲートを開く。

「おや忘れておりましたぞ。これをしなければ城が消し飛んでしまうんじゃ。〈四重強化〉フィーア〈魔法盾〉マジックガード

バジステラが慌てて自分と城に盾を貼る。


〈転移門〉ゲートから出てきたの大量の水。そして、滝のように流れる水が溶岩と触れた瞬間・・・


ジュッ・・・


一瞬で世界が白くなる。

毎度お馴染みの水蒸気爆発である。ただ、ベルとバディンの戦いの時量が桁違いだ。

やがて視界が晴れた所でバジステラが地上を見渡す。

「ホッホッ。何も無いと景色がいいのう」


見渡す限り土色。道の煉瓦は剥がれ、家々は木っ端微塵となっていた。もちろん残っている悪魔など存在しない。

「しかし、この理論をもたらした先人には感謝するべきじゃな。魔法単体ではここまでの破壊力は生み出せまい」


バジステラの参戦により、エルフィムの戦いは幕を閉じたのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「いやー。凄いですね。やはり雑魚狩りの名人は終わらせるのも一瞬です」

俺はエリスの作った〈魔法盾〉マジックガードの中から一瞬の蹂躙劇を見ていた。ちなみにここも巻き込また。

使用していたのは魔法での水蒸気爆発。確かに多数を蹂躙するならもってこいだな。


「でもこれって1対1でも使えないか? 相当なダメージを与えられると思うんだが?」

俺はエリスに尋ねると少し唸ってから口を開いた。

「無理ですよ。あの城を見れば分かる通り、薄い盾で守れば防げます。あの水蒸気爆発は魔法では無いので魔法で作られた盾を打ち消す事が出来ません」


魔法で起こした現象は魔法でしか打ち消せないのか。

〈魔法盾〉マジックガードは魔力を他の属性エネルギーに変換する必要がないのでその分強力です。それを抜きにしても、『魔法を打ち消すには魔力を帯びた物質で無ければならない』という魔力不干渉の法則がありますのでどれだけ爆発しても無駄に終わります」


「なるほど・・・。エリス、ちょっといいか?」

「はい? どうかしま・・・」


ドバン!


ちょっと練習した即射撃クイックドロウを行い、エリスに撃つ。

別にちょっとした試し撃ちだから太ももを狙ったが、おそらく防がれてるだろう。

「ん? レクトさんどうしました?」


エリスは案の定〈魔法盾〉マジックガードで防いでいる。ほぼゼロ距離で防いでいるな。反射神経が人並みじゃないぞ?

「悪い。ちょっとした冗談だ」

エリスがふふっ、と軽く笑う。


「狙った所が太ももでしたから本気で殺すつもりはないと分かってました。実際に魔力不干渉の法則を試したのですよね?」

「そういうことだ」


エリスの化け物具合だからこれくらい防げるだろうと予測していたが、まさか俺の思惑まで見抜かれていたとは。

「それくらいの度胸がないと雷閃の魔女わたしの夫は務まりませんからね」


・・・・・・え?

「おい。まさかエリス、俺とマリアさんの会話を聞いていたのか?」

「ええ。何やら怪しげに会話をしていたので」

はぁ〜。マジかよ。


「私は別に結婚願望は無いですし、今のレクトさんくらいの度胸があるなら十分だと思いますよ」

おや?

「ただ・・・」

ただ?


「もっと強くなって私を認めさせて下さい。私の初めてが欲しいのでしたら、私より強くなって下さい」


それを言ったエリスは俯いて、そっぽを向いてしまった。

「おーい! にいちゃ〜ん!」

そんな会話をしているとベルが走ってくる。・・・瞬間移動じみた速さで。


ベルの声を聞いた瞬間にエリスの本調子が戻ってくる。

「あ、あ! ベルキューアさん、お疲れ様です。この様子だとバディンは楽勝だった様ですね」

その問いかけにベルは照れくさそうに笑う。


「大変だったぞ? 俺の得意属性が氷だったから水蒸気爆発で押せたけど他だったらって考えると怖いな」


水蒸気爆発? 魔法師の中では流行りなのかな?

「勝てたのならいいですよ。今の攻撃で城以外の街ごと悪魔が消滅しましたのでこれから会議があると思います。アリスティア城に行きましょう」

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