第13話 剣士と魔法師の戦い
ベルキューアがバディン討伐へ向かった頃。冒険者組合の一室ではアイクレルト冒険者組合エルフィム支部支部長、アイザック・バルクァンとエール・ゼルヴィンの市長にしてアイクレルト王国魔法師序列第三位、『焦土の魔法師』の二つ名を冠するバジステラ・エール・ゼルヴィンが密かに会談を行っていた。いわゆる密会である。
アイザックは青い髪と丸ぶち眼鏡が特徴の好青年、バジステラは白髪と長い白髭、豪勢なローブといったいかにも熟年の魔法師といった格好だ。
「今回は来て頂きありがとうございます。流石に我々ではこの数の悪魔を殲滅するのは不可能ですので」
アイザックは執事の様な綺麗な礼をする。
「いいんじゃよ。ワシは雑魚殲滅の専門家じゃ。餅は餅屋じゃよ。それに先程アリスティア伯爵に呼ばれておったしのぉ」
「アリスティア伯爵が? 伯爵は自軍の勢力のみで対処すると思っておりました」
本来のアリスティアは己の育ててきた領の力を見せつけたがる性格だ。だから他の強者、特にバジステラ等の魔法師序列でもトップクラス連中に除力を乞う事はないとアイザックは思っていた。
「固定概念に囚われるのは良くないことじゃ。特に今回は明らかに助けを待っている様な戦略じゃな」
決して自軍から踏み込まず、相手からの防御に徹しながら一体の悪魔に多数で対処する。そして1人が倒れてもすぐに後ろの兵が前進し穴を埋める。
「組合長になったからといって戦いの頭を空っぽにしちゃいかんぞ」
「仰る通りです。ゼルヴィン卿」
バジステラは少し寂しそうな表情をした。
「その呼び方は少し疎遠過ぎじゃよ。これでもワシと坊主は師弟関係じゃろ?」
それを聞いたアイザックは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「師こそ坊主は辞めて下さい! 一応これでも19歳、既に成人です!」
「ホッホッ、400年生きてきたワシからすればまだまだ子供じゃよ」
バジステラは少し笑うとゴホン、と咳払いする。孫を見るような視線から一転、策士の表情へと変わる。
「それで、今回の悪魔襲撃の意図はなんじゃ?」
アイザックは眼鏡のブリッチを上げる動作をする。
「おそらくですが我が国の経済的なダメージが狙いでしょう。敵勢力のほぼ全てが召喚された悪魔です」
召喚で生み出された悪魔は魔力の消費以外の支出は無い。そういった面では既にエルフィムの負けである。
「じゃがワシが転移でここに来て、
アイザックは目を丸くする。
「三柱!? ・・・それなら何故直接乗り込まないのでしょうか。 この街でカマエルと魔法の撃ち合いが出来る者はいないのですから簡単に攻め落とせるはず・・・・・・」
アイザックが思考を巡らす。しかしすぐにバジステラが衝撃的な事を言う。
「残念ながらこの街にも居るぞ? 丁度今日セクトルス卿が居る。今も撃ち合いをしておるはずじゃ」
「あ? ・・・あぁぁ!?」
アイザックが頭を抱えて悶える。エリスと言えば周りを考えない戦闘狂、全力戦闘を行えば間違いなく辺りは焦土と化す。
「それにこの感じ・・・。やはりセクトルス卿の噂は真実かの?」
「噂・・・ですか?」
「そうじゃ。父、エリアル・セクトルス殿の死後、契約していた
アイザックは唖然とした。
「まあ良かったじゃろ。この街の冒険者が何人いても勝てない存在を受け持ってくれるのじゃから・・・。ちなみに今カストルス卿がバディン討伐に向かったようじゃ」
安心安心と息つくバジステラ。
「師はアリスティア伯爵の元に行かなくても大丈夫なのですか?」
ふぅ、とお茶を飲むバジステラ。
「既に冒険者の協力で弱い悪魔の数は25万程じゃよ。これならもう少しゆっくりしても問題ないはずじゃ」
バジステラは立ち上がり、窓へを見る。それは丁度エリスとカマエルが戦っている場所の方向だ。
「もう少しゆっくり見てみたいからの」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さてバディンはここら辺だな」
俺が兄ちゃん達と離れて数秒、目的地に到着。さーて、どこだっけ・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・あれぇ。
「いねぇ」
ここら辺にバディンがいるのは間違い無・・・
「・・・っ!」
急に背後の気配が膨れ上がる。俺は剣を・・・
「グラァァ!!」
背後の攻撃を防ぐために
「ぐっ!」
俺は叩きつけられる様な攻撃を防げたが、勢いを殺せず二階建ての家の屋根を貫通し、1階まで落とされた。
今の攻撃は単純なパンチ。でもこの威力、間違いなく人の力じゃない。落とされた穴から見える2階は既に半壊している。
「っ
刀身を糸状+最長にする。3m程の長さの剣をムチの様に使い、一瞬で天井を切り刻む。そして跳躍。
「・・・ッ!?」
巨大な影が驚いたかのように空へと逃げる。でも俺の目的はお前じゃないぜ。
「やぁ!」
二階の壁を蹴り、中央で旋回。それから剣を振る。
ムチの様な剣が家ごと切り刻む。
「ふぅ。これで視界が広くなる」
ここにあった家は俺の手によって一瞬で瓦礫・・・というかみじん切りなったからこれで攻撃したヤツの姿を確認出来る。
「グググ・・・・・・。シンデナイ?」
砂煙が晴れると隣の家の屋根から呻き声に似た低い声が聞こえる。
体調は俺の3倍近い4m半程、いや羽を含めるともう少し大きいか。人型であるが顔は人のものではない異形の顔。怒りの顔を浮べた形相と黒目の無い鋭い目。腕は大樹かと思える様な太さ、それに見合う下半身。おそらく全て筋肉だろうな。体からは常に蒸気が発せられていて恐ろしい程の熱を放ってる事が分かるな。
「・・・見つけられたから結果オーライだぜ」
今自分の顔を見たら盛大にニヤついているんだろうな。
さてお手並み拝見だな!
剣を標準に変形させ俺はバディンに向かって跳躍。
俺の跳躍ならこの高さくらい一瞬で詰められる。
狙うは右腕。上段からの高速斬撃っ!
そんな俺の攻撃に構えもしなかったバディンの腕が即座に反応。直接殴ろうとしてやがる。
「ガァ!」
ガギン!
それは明らかに肉と剣がぶつかる音ではない。つまりの肉体は
「おい嘘だろ」
しかも今の攻撃で剣の威力は失われ、俺は滞空中。そんな俺に・・・・・・
「グガァ!」
やっぱり空いた左腕からのパンチが飛んでくる。今度はクイックモーションからのしっかりとしたパンチだ。
まあだから予測出来たと言えるが。
「
俺は生み出した盾を手で押して上方向に擬似的な跳躍をして回避。案の定盾は破壊されるが紙一重で上に回避出来た。
「もういっちょ!
空中に生成した一枚目の盾を蹴り、バディンに肉薄する。そして剣の長さを標準の4分の3、太さを少し細くする。
「でゃあ!!」
足元からの切り上げでバディンの右上に移動、そして剣の形を短剣に変え二枚目の盾を空いた手で押し、姿勢を変えずバディンの前を通過する過程で首を裂き、掴みかかろうとするバディンの腕と体の隙間から抜けていく。
着地して足のブレーキでスライド、10mくらいの空きが出来た。
「グルゥ・・・」
首を裂いたと言ってもまだ浅い。短剣型は質量が一番多くて硬いはずなんだけどなー。
「オマエ・・・モシカシテ・・・・・・ツヨイ?」
「おいおい。お仲間から聞いてねえのかよ。俺はアイクレルト王国魔法師序列第五位、『魔法剣師』ベルキューア・カストルスだぞ? 弱い訳ねーよ」
脳みそは鈍そうだな。だが反応は速い。図体には似合わない速さだな。それに単純火力なら俺の体じゃワンパンだ。
それに硬いから剣での直接攻撃は相性が悪い。
「
「次とその次で終わらせるか」
思いっきり踏み込み、敵への距離を一気に詰める。
「ガァ!」
近寄った俺にバディンが拳を叩き付ける。俺は簡単に回避したがその衝撃で足場が崩れてしまう。
「崩れる前に一撃を入れてやるぜ」
足場が崩れて浮遊するまであと0.056秒だな。こっからは時間分配に気をつけなきゃな!
まず、0.01秒で背後に回る。
「グググガァ」
バディンが埋まった腕を引き抜き、強引に振り抜く。
それは簡単に避けられる。
「よっ」
まあその動きは予測出来たからな。
そのまま空中に作った一枚目の足場を蹴り、先程と同じ様に首を裂き、二枚目の足場を踏み込む。これで0.032秒か。そして先程切り込んだ箇所と反対側を斬る。
「グガッ」
そのまま三枚目を踏み、肩を狙う。この図体だから小回りが効かない。それを上手く利用させて貰うぜ!
そして俺の剣が肩に当たった瞬間・・・・・・
ドバァン!
「ぐっ!?」
急に俺の剣とバディンの腕が接触した所が爆発した。そのまま吹っ飛ばされる。俺は倒壊する家の上で即座に作戦を立て直す。
「あー。どうすっかな〜」
俺の氷属性を付与した剣と、高熱の剛腕。なるほど軽い水蒸気爆発か。首を斬った時はならなかったから首は熱を帯びてないと考えるか。
「氷属性は無理か? ・・・・・・いや」
水蒸気爆発か。面白い。使ってやるぜ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現在、俺とアディルは時計塔に向かって走っている。
今活躍しているのはアディルの
「1、4、5番機、
複数の玉から多数の方向へ光線が発せられる。それだけで粗方の悪魔は消え失せる。
悪魔からの攻撃だって。
「3番機、
こうやって軽くガード出来る。
いいな。俺もああいうの欲しい・・・。
しばらく戦っていると複数の冒険者がやってくる。全員しっかりとした鎧や動きやすい格好だが、
「俺だけTシャツとか中々浮いてんな」
もちろん前の世界なら浮いていたのは俺以外なのだが、こっちにはこっちの格好がある。
そこも考えないとなぁ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
所変わってエリス対カマエル。
やはり変わらず一方的な戦いだ。
「はいはーい。遊びますよー」
地上から放たれる数百もの極細の光。回避不可の速さでカマエルへと襲いかかる。
「 冗談じゃないわ!」
その光は肉体を簡単に貫通する。だが、それも一瞬で再生する。
痛みはあるが、死ねない。しかし攻撃の隙は無く反撃が出来ない。どう見たって・・・・・・
「ただの拷問ですねぇ。ですが」
エリスは珍しく黒い感情を発露する。
「貴女方がやってきた事を考えるとまだまだ温いですよ? 少し記憶を覗いてみました」
「・・・・・・え?」
カマエルが驚いている。いや、焦っているのだろうか。
「貴女はこの世界でアムネルの側近として散々虐殺を繰り返す前に、別の世界で人種差別を行っていたようですね。飢え死にまで強制労働なんて軽いもの。強制的に収容した施設での最悪の生活環境。毒ガスの実験に骨や筋肉、神経の移植実験。見ていて気分が悪くなりますよ」
もう最悪です。と、呟くエリス。
そんなエリスを見てカマエルが不敵な笑みを浮かべる。
「いいじゃない、それが強者の特権だもの」
それを見たエリスがやれやれと首を振る。
「では、立場が逆転した今、強者である私は貴女に何をしてもいいのですね。今、貴女が言ったことですよ?」
ぐう、とカマエルが唸る。
「ああ。おしゃべりする時間が勿体ないです」
パチン!
エリスが指を鳴らす。すると
「貴女の記憶からこんな物がありましたので少し真似してみました。
全ての砲台から魔力の帯びた球体が発射される。
「っ!
盾系の特殊魔法は数を増やすだけではなく、一つを生み出し、強度を上げる事が出来る。
カマエルはこれ以上の痛みは避けたいのか、盾を貼った。
「別に砲台を作らなくても良かったのですが、こっちの方が楽しいですし」
レゴブロックで遊ぶ子供の様な笑顔を浮べる。
「さて、追撃を・・・・・・」
そこでエリスは気づく。爆風が収まり、中にいたカマエルの表情が・・・・・・
「笑ってる?」
笑っているというよりもニヤついていると言うべきだろう。既に再生が終わっているが、笑みを浮かべる程余裕がある訳では無いはず。
そこで再び気が付く。ここから見える時計塔の屋上で何かが光った事に。
そして、
「っが!」
エリスの目が見開き、普段のエリスとは思えない苦痛の声を上げる。
痛みが来る腹部を見ると・・・・・・
エリスの腹には巨大な空洞が出来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます