今日もボクらは転生する

柳人人人(やなぎ・ひとみ)

第四世界 - 五転生目

「この人生にも飽きてきたな」


 言葉とともにロトアの手からペンが転げ落ちた。


 ここは芸術に傾倒した異世界。個性と技術が物をいう世界だ。

 そこで、俺は『ロトア』という人物に転生した。

 芸術のなかでも特に『絵』のジャンルが盛んで、ロトアも本格的に絵を描くようになった。前の世界ではちょっとだけ絵心があったのが功を奏したのもあり、まったく周りの目に留まらないようなことはなかった。元々、評価しあう土壌ができていたのが救いだった。

 しかし、まじめに絵の研鑽を重ねてみたものの、いつしか画力も人気も伸び悩むようになっていた。そこで一度知見を広めようと流行りの人気作を取り入れるように試みた。さすがは流行物というだけはあって、目に見えて注目度が上がった。


 歓喜、称賛、拍手喝采。

 ロトアは良い気分になっていた。我ながら単純なヤツだ。しかし、人気を追うことにいつしか取り憑かれた自分に気付かず、いつのまにかに顧客もそれを求めるようになってしまった。オリジナルを作ったり変に創作性を出したりすると批判アンチが生まれるほどに。


『過去の絵かと思ったけど新作だったんですね。似たり寄ったりの構図で気づかなかったです』

『よくこんな個性のない絵を描けるな』

『さっさといつもの流行り物でも描けば?』


 十の言葉のなかに必ず三つはある侮蔑。

 いつものやりとり。変わらない日常風景。興味のない目障りな言葉の羅列。まぁ、因果応報、収まるところに収まったという感じだ。異世界といっても慣れてしまえばこんなものだ。それに以前の世界と比べればこんなもの……称賛も侮蔑も、もう空虚でしかなかった。


「まっいいか。もう次に行けば」


 ロトアの人生ではこの印象を拭うのはもう難しいだろう。

 もちろんできないことはないが、そんなことに時間をかけるのは労力の無駄だ。そんなことしなくても生まれ変わればいいのだ。この人生ロトアに飽きたら次の人生へ。世界に飽きたなら目新しい異世界へ。まったく、良い時代になったものだ。


「転生する前にやり残したことないかな」


 欠伸をひとつ交えながら、そんなことを考える。おさらばするのだから今更この世界になにかを残してもしかたないかもしれない。しかし、未練がないかといえば名残惜しさはあった。まぁ遺書くらいは残しておいてもいいかな、と思うくらいには。だって、ここは思ったより長いことだったし。


「この世界でやり残したことを次の人生でやりたいよなぁ。そうだ、次の転生先では異性にでも転生しようかな」


 俺は転生に必要な次の『人生』の項目を設定していく。五分もかからない。もう三回目ということもあり、我ながら手慣れたものだ。


「これで良し、と。じゃあ気兼ねなく次の世界へ……あっ、そういえば遺書を残すの忘れてたや」


 次の人生を設定してたら、もう遺書という気分じゃなかった。正直、すでに遺書ロトアのことなんてどうでもいい。頭の中は次の世界のことでいっぱいだ。はやく転生したい。ただそれだけだった。


 次の世界は今回以上に楽しめられるといいな♪


 次の人生に胸を躍らせながら、ロトアは転生した。





  ――――プツッ

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