ドラマみたいに始まった恋の話。

ふるだて

プロローグ 3月

 これは、私――斉藤桜の、まるでドラマみたいに始まった、はじめての恋の話。


 まぁ、プロローグだから、まだ恋は始まらないけれど。


 4月、私は晴れて――とは言いがたいのだが――大学生になった。正直嫌々だった。

 高校三年間目指し続けた某旧帝大に、AO試験で落ちた。もうやばいなぁ、って思いながら、先生に良い顔したくて、自分ができない子だって思いたくなくて、「センターまでまた突っ走ってやりますよ!」って言った。当然AO入試にかけた時間の分、みんなからも圧倒的に勉強が遅れていた。だからセンターだってひどいもんで、7割強しかとれなかった。あー、もうほんとうにだめじゃん。案の定、前期も落ちた。

 中期はそこそこのところに受かった。けど、試験は地方会場で受けたもんだから、学校の雰囲気も研究内容もピンとこなくて、行きたくなかった。

 絶対行く気ないですから。って宣言して出願した後期試験。めんどくさいことに、現地まで赴いて受験しなきゃいけないやつだった。先生に「受けた方がいい」と念を押されて、渋々と、海を越えました。――海を越えたっていっても、海外ではないよ。


 雪をかき分け、見知らぬ道を歩いて、その大学についた。なんじゃこりゃ。古いな。私が目指してた大学の設備とは雲泥の差だ。はぁ、どうせここも行きたくないんだろうな。

 だけど、面接官の先生がなんともいい先生だった。私は言語学に興味があったから、面接で読んだ本について適当に語った。そしたらね。

「君、高校生でそれ読んだの? すごいね。私の専門もそっちなんだよ。君、いいね!」

めっちゃ、褒められた。

久しぶりのことだった。人に、誰かに褒められるのは。ほんとうに久しぶりのことだった。

 受験勉強はじめてから、「がんばれ」「きみならできるよ」っていう根拠のない応援、失敗してからは、「よく頑張ったね」っていう同情。それしかもらってなかったから。

 失敗続きで疲れてたのかもしれない。あっという間に私の心はこの大学に傾いてしまった。


 そこからはもうあっという間だった。中旬に合格発表。その数日後にまた北海道へ飛んで、部屋探し。一人暮らしにむけて母と一緒に家具を選んで、新天地に送る算段をして。一週間で、約10年暮らした実家とさよならをした。


 すごく不安だったけど、なんだかんだわくわく。我ながら単純だなぁ。これからの新生活に胸を踊らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドラマみたいに始まった恋の話。 ふるだて @sakama0901

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る