魔女の小間使い
「アビゲイル様」
ジャスティーナを見送り、彼女のおかしなくらいの気丈さに、モリーは嫌な予感を覚えていた。昨晩ニコラスにも伝えたが、彼は基本的に人に干渉するような性格ではない。なので、ここは自分が動かなければと思い、彼女はホッパー男爵夫人の部屋に入った。
アビゲイルは病などに臥せっておらず、ただ昨日娘に長年隠していた真実を吐露したこと、それに対する娘の反応にショックを受けていただけであった。
「誰?勝手には部屋に入るとは、なんて無作法は使用人なのかしら」
ベッドで横になっていたアビゲイルは、名を呼びかけられ、苛立ちを隠さず体を起こした。
「見たことがない顔ね。使用人長に伝えなければ」
ベッドのすぐ側のテーブルに置かれたベルを鳴らそうとするが、モリーがすばやく動き、阻止する。
「な、」
驚きと恐怖の感情がその顔に浮かぶのがわかり、モリーは彼女の口を手で塞いだ。
「アビゲイル様。私は、魔女の小間使いのモリーと申します。私も多少魔法が使えます。静かにしていただけますか?ジャスティーナ様のことで、あなたに聞きたい事があるのです」
魔女、魔法という単語を入れ、モリーはアビゲイルに脅しをかける。彼女は頷き、モリーはその手を離す。
「あなたは昨日、ジャスティーナ様に長年の秘密を明かしましたね?」
屋敷の者なら誰でも想像できることなのだが、アビゲイルはなぜ知っているとばかり、驚いた表情をした。モリーは魔女の小間使いという役をこなそうと、気味が悪い笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「あなたは、ジャスティーナ様に、その顔を見ればアヴィリン様を思い出し、嫌な気分になるとおっしゃっていましたね」
「そ、そんなことは言ってないわ。ただ、」
「細かい台詞は私にとってはどうでもいいことなのです。ジャスティーナ様はまた呪いを受けるつもりです。あなたのために。あなたの苦痛を取り除くために」
「そんなこと、」
アビゲイルは口を押さえ、泣き始める。
「私は、本当はあの子が可愛いのよ。ただ、あの顔を見ると、姉のことを思い出してどうしようもない気分になるの。だけど呪いを再び受けるなんて、なんてこと」
「アビゲイル様。ジャスティーナ様を止められるのはあなたしかいません。どうか、私と共に、ルーベル家へ赴いていただけませんか?」
「ルーベル家に?」
「ええ。本来なら夫婦揃って訪問するのが当然です。あなたが遅れて行ったところで、何もおかしなところはありません。ホッパー男爵もお怒りになることはないでしょう。しかもあなたはホッパー男爵が最も嫌がることを止めようとしているのです」
「旦那様が……」
モリーは自身が本当に魔女になったような不思議な思いに駆られながら、アビゲイルの説得を続けた。
「あなたに従いましょう。私は、娘を救い、旦那様のお手伝いをするの」
暗示をかけている気分になってしまい、多少の罪悪感を覚える。けれどもモリーは目的を達するのが先だと、アビゲイルの出立の準備を始めた。
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