第11話 集団転移者救出


朝5時起床。


うーん、今日も忙しくなりそうだ。


執務室に行くと召喚された人たちの受け入れ準備が終了した旨の報告がなされた。


パスロシステム君からのレポートを見てこれまでの召喚された人たちの状況を把握した。


そこには驚くべきことが書かれていた。


召喚された者の中に友人ケンタの妹のサオリさんいることが判明した。


非常勤講師をしていたのは知っていたけど宿泊合宿に同行しているとは思わなかった。


医師免許を持っているので使われたようだね。


魔法が使える彼女のことだ、こっそりといろいろやっているのだろう。


皇妃の魅了も無効化しているということだね。


はい、よくできましたと言っておこう。


この皇妃はおそらく。。。


まあパスロシステム君に確認を取る方法もあるけど直接確かめてみるか。



校長の名前も知っていた。


あの人が鶯学園女子高等部の校長だとは思わなかった。



さて、現状だが帝国は兵を動かし始めたようだ。


召喚された人たちをこちらに渡す気はないようだね。


宿舎に張られている結界のお陰で兵は近づけないようだが・・・・・。


やったのはサオリさんか。


大丈夫だろうけど迎えに行く時間を少し早めるか。


パスロシステム君を通じて現地にいる大神官様に迎えに行く時間の変更を伝えた。



パスロ標準時 午前8時30分。


転移者の救出の実行部隊は出撃のために車両の車庫に集合した。


ここから転移でアクレア帝国帝都に行く。


アクレア帝国もパスロ標準時を使っている。


そしてこの鶯シティーもパスロ標準時を利用している。


アクレア帝国の帝都は鶯シティーの北約3200kmの地点にある。


このうち1100kmはパスロ大森林の領域だ。


すでに偵察用のオートマタ3体が帝都の入り口の南800mの地点に待機している。


門にはいつもより多くの兵が待機しているらしい。


帝都の中にも昨日の内に10体の密偵オートマタが潜入している。



転移者の救出の実行部隊は


オートマタ24体とゴーレム12体。


装甲車2台と大型バス2台だ。


隊列の先頭にオートマタ4体、装甲車にもオートマタ4体。


続く2台のバスにもオートマタ4体ずつ。


バスの後ろの装甲車にオートマタ4体。


装甲車の後ろにオートマタ4体を配置した。


オートマタは救出対象に女性が多いということで9割を女性型にした。



私は先頭の装甲車に乗る。


バスの外見は日本で見られる大型観光バスだがエンジンやサスペンション等の性能は荒れ地でも走破できる特別製だ。


車内にはそれぞれ6つの転移門が設置してある。


念のために装甲車内にも転移門を設置しておいた。



8時35分。


転移先の安全の確認を受けて転移を行う。


帝都の門からは急に出現した我々に驚くだろう。


神殿などで転移門は使われているが転移門なしで転移するのを見ることはないだろう。


神の使徒の凄さを目のあたりにしてもらおう。


こういう時には力を誇示することも必要だ。


15分ぐらいかけて門の前に到着した。


こちらの様子を見てすでに門は閉ざされていた。


門の前では門番と兵がいる。


兵の隊長らしき人物と神官が口論してしている。


私は隊長のところに歩み寄った。



「よろしいかな。私は神の代理人として異世界から召喚された者を収容しに来た。事前に連絡あったはずだ。門を開けて通してもらいたい」


「帝国が召喚した者たちの所有権は帝国にある。渡さないことに決まった。これは決定事項だ」


「異世界人を勝手に連れてくるのは拉致という犯罪だ。神から召喚の禁止が神託で伝えられているはずだ」


「帝国は異世界人を渡さない。やれ」



隊長が離れて手を挙げたのを合図に外壁の上から矢が射られてきた。


しかし射られた矢が神官や私のところに来ることはなかった。


全て空中で消滅した。


私が張った結界に入った瞬間に分解したのだ。


外壁の上にいた魔術師が雷を撃ってきた。


私たち周囲に張った結界によって反射された雷は攻撃を仕掛けた魔術師と外壁上にいた弓兵を含めた兵にあたった。


雷を反射する時に死なない程度に弱めておいたよ。


隊長はいきなりロングソードで切り付けてきた。


しかしロングソードは私の手刀によって折られた。


さらに指を鳴らすとロングソードは霧散した。


さらにもう一度指を鳴らすと隊長の鎧はが霧散した。


そして再び指を鳴らすと隊長の姿が消えた。


隊長自身は牢獄収納になっているポーチに入れてある。


一応は拘束魔法で拘束しておいた。


空間支配を発動し魔法で門を開ける。


念動力だ。



私は装甲車に戻り、召喚された人たちの宿舎に向かう。


途中で邪魔をする騎士や兵士は先頭の4体のオートマタによって拘束され牢獄収納に入れられていく。


道に置かれた障害物も4体のオートマタが排除されていく。


これも収納の中だよ。


後で返却はしますよ。


手出しをしない者には何もしない。


破壊もできる限り行わない。


破壊するのは敵対する者の武器だけだ。


兵や騎士や衛兵であっても殺すようなことはしない。


圧倒的な力で粛々と神の使徒としての任務を果たすために進む。


内壁の門でも妨害が入ったが容易に排除して先に進む事ができた。



9時50分、召喚された者が収容されている宿舎の前に着いた。


私たちは宿舎の前に張られている結界を壊すことなく結界内に入った。


入り口の前で装甲車から降りると二人の女性が駆けてきた。



「サオリさん、無事でしたか。サユリ先生もここの校長先生なのですね」


「はい、タカシさんが神の代理人とはびっくりしました」


「そうだね、タカシ君ありがとう」


「兎に角、まずはここから脱出しましょう。こちらの用意した街にまずは移動してもらいます」


「でも500人以上いるのよ。バス2台では無理よ」


「サユリ先生。ここはここは魔法がある世界ですよ」


「タカシさん。転移ですか?」


「ええ、バスの中に転移門を用意してあります。点呼を取りながら転移してもらいます。この集団に悪魔に憑依されたり状態異常を起こしている者はいませんね。これは不幸中の幸いですね。サオリさんご苦労様でした。いい仕事ですよ」



サオリさんが結界で皇妃からの魅了から皆さんを守ったのはすぐわかった。


結界の外ではこちらの様子を何とか結界の中に入ろうと騒いでいる。


皇妃の魅了によって城の中のほとんどの者は操られているようだ。



まず教員と施設の職員の代表に転移門を使って鶯シティーの方を見てもらった。


帰ってきた彼らの報告を聞き、生徒と教員と職員は点呼を取りながら整然と鶯シティーへと転移していく。


警戒をしながら後始末のための行動を起こそう。


まずは皇都全体を空間支配の範囲にする。


その中には悪魔はいるのだろうか。


空間把握で調べて解析していく。


並列並行思考をかなりの負荷がかかる。


15km四方に約32万人の住民がいるのだから。


結果としては下級悪魔が2体いるだけだった。


それも王城内に。


上級悪魔の残滓はあったが30時間前に皇都から出て行ったよう。


密偵オートマタに追いかけるように指示を出したけどどこまで追えるかわからない。


さて、まずは下級悪魔の退治か。


下級悪魔は皇妃と宰相に憑依している。


二人の周りに結界を張って出られないようにした。


皇妃の魅了を解除するか。


結界で拘束されたことに周囲の役人や衛兵が騒ぎ出したが皇妃の魅了の能力を奪ったら全員が戸惑いの表情を見せている。


魅了のスキルを無効化できた。


良かった。


支配空間の中では私の好き放題だ。


何でもありだね。


帝都内の人々が魅了から解放されたようだ。


魅了されていない者の多くは地下牢に閉じ込められている。


神殿関係者は大神官の働きで魅了を防いでいたようだ。


宮廷魔法師長は魅了されていないのを隠蔽していたようだ。


宮廷魔法師長は直ちに地下牢に閉じ込められている皇太子と皇女2人を助け出すように指示をしている。


私がこれからどうするかわかったようだ。


皇帝も戸惑っている。


皇妃が私によって捕らえられているが、同時に今まで皇妃に操られていたのもわかったからだろう。


そうこうしている間にサオリさんとサユリ先生と神殿関係者だけがここには残った。


他の召喚された者は転移していった。


助け出された皇太子と皇女たちもやって来た。


地下牢に捕らえられていた中には前騎士団長と前宰相がいた。



私は結界から出て、皇帝の前に立った。


「使徒様、どうなっているのでしょうか。皇妃が魅了を使っていたようですがいつまでも拘束するのは」


「いや、すぐに解放できるでしょう。ただその前に」



皇妃と宰相に聖魔法の浄化を弱くかけた。



「皇妃を殺すのか!」


「いいえ、このような浄化で人類は苦しみません。弱い浄化で苦しむのはアンデットと悪魔です」


「え」


「皇妃と宰相は悪魔に憑りつかれています」


「皇妃は助かるのか?」


「ええ、大丈夫です」



空間支配で皇妃から悪魔を分離した。


黒い靄のようなものが出て来てそれが羽の生えた悪魔の形となっていく。


すぐ結界で隔離して分析をした。


悪魔を取り除かれた皇妃は安らかな顔でをして寝ている。


あえて詠唱を行い悪魔を滅することにした。



「邪悪なるものに安らかな永久の眠りを」



悪魔は白い光に飲み込まれて消えていった。


宰相に憑りついた悪魔も分離して分析し滅した。



   *    *    *



悪魔を滅した後、皇帝から謝罪と感謝が伝えられた。


今日は時間がないのでこのまま帰れることにする。


神の使徒がここで消えるのも何なので車列を整えて帝都の外に移動する。


皇帝とその家族、兵や騎士、神殿関係者が見送りについてきた。


出発前に拘束して牢獄収納に入れてあった兵や衛士や騎士や武器や障害物などは返しておいた。


まあ中には分解してしまったものもあるけど。。。


街道から街の車庫に転移をして戻った。


こちらの損失はゼロ。


車両・ゴーレム・オートマタにも被害がなかった。




   *     *     *



帝国はその後どうなったか。


皇妃が悪魔に憑りつかれたのは子育てと側室たちとの人間関係が原因だったらしい。


些細な行き違いから像をが蓄積しそこを悪魔に付け入れられたようだ。


悪魔はそのような心の隙間を突くのを得意にしているからね。


宰相も似たようなもののようだ。


他の優秀な貴族に嫉妬してそれが原因になったようだ。


二人は禁止されていた処刑も行ったようだ。


悪魔に憑依されていたと言え、許されないことだ。


二人は病気療養ということで一生幽閉されることとなる。



今回の事件には皇妃を支えられなかった自分自身にも責任があると皇帝は退位した。


皇妃の幽閉されている地方の別宅で生涯過ごすことになる。


皇太子も母親の様子を見てショックを受け、神殿に入って神官として修業をしている。


その結果、皇太子の推薦もあり次の皇帝には母親を皇妃に処刑された第2皇女が就くことになった。


第1皇女と前宰相と宮廷魔法師長が彼女を支えている。


第1皇女は表に出るのを嫌がったので皇帝にはならなかったようだ。


彼女は時々、冒険者としてお忍びで活動をしている。




   *    *    *




皇妃や宰相に憑りついた下級悪魔は何故、上級悪魔を倒す軍隊を作るために異世界召喚を行ったか?


それも勇者とかでなく一般人を。


異世界から召喚すればこの世界の住民より高い能力を持つ。


でもなぜ数で勝負しようとしたか?



悪魔を滅する時に解析でそれを知ることができた。


1つは強い力を持った異世界人を召喚すればいくら魅了をしても自分の正体を見破られてしまうことが分かっていたようだ。


そして数で恨みのある上級悪魔を倒して吸収し、自分が上級悪魔になろうと考えたようだ。


この2体の下級悪魔は上級悪魔の僕だったようだ。


上級悪魔に使われ、苛められ、恨みが積もったようだ。


そこだ異世界人の軍隊で上級悪魔を滅ぼそうと考えたということだ。


悪魔の世界にも苛めがあるんだ!


恨みも怖い!


その話を後でサオリさんとサユリ先生にしたところすごく嫌な顔をしていた。



さて、鶯シティーで街の説明をしますか。

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