第5話 集団転移事件1

それは突然のことだった。


大きな魔力の流れ。


私は鶯学園女子高等部の全校生徒とともに午前中から宿泊研修施設に来ている。


理科の非常勤講師である私がこの行事には参加する予定ではなかったのだか、昨日の夕方になって行事に参加予定だった養護教諭と看護士が体調を壊し、急遽私が参加することになった。


白羽の矢が立ったのは私自身が医師免許を持っているからだ。


体調不良者もなく昼食が終了し、携行用の医療器具と薬の入った鞄を持って研修施設の保健室に向かっている時だった。



「転移、いや召喚ね」



私だって代々除霊や呪術に携わってきた家系の娘だ。


私の得意にしている結界を敷地全体に構築した。


広範囲であるために転移するの防ぐことはできないが転移の時の安全は確保できるだろう。


転移が起きているときに近くにおぞましい悪霊のようなものがいた。


あれらも一緒に転移したようだ。


結界の外であったので私たちには干渉してこなかったのは助かった。


どさくさ紛れに生徒に憑依されてはたまったものではない。




景色が変わった。


転移先はグラウンドのような所だった。


周囲には西洋鎧のようなものを着けた人たちがいる。


彼らが驚きの声を上げている。


地球上の言葉ではないようだ。


他の惑星か次元の異なる異世界か?



魔術師の格好をしたような集団もいる。


簡易鑑定でも魔術師だね。


うーん、転移した直後、鑑定能力が強化されたようだ。


地面には魔法陣が描かれ、その魔法陣に魔力を注いでいたと思われる人たちが周囲で座り込んでいる。


魔力欠乏によって命に影響が出ている人はいないようだ。


私は防御魔法をホールドしながら自己鑑定を行う。


能力が向上している。


ゲームのようなステータス表示された。


地球上ではそんなものはなかったのに・・・・。


先程の周囲の騎士たちの声に反応して翻訳魔法が自動起動しているようだけどこの世界で通じるのだろうか。


まずは私が異能力を持っていることを理解してくれている校長先生のところに行こう。


この状況でに戸惑いながら生徒たちはクラスごとに集まり点呼を取っている。


教師は生徒を守るように周囲を警戒している。


この学校は生徒も教員も優秀だ。



「サオリ先生、彼らと会話をすることはできますか?」


「やってみないと何とも言えません」


「一緒に彼らの近くに行ってもらえますか?」


「はい」



偉そうな一団がいる方へと近づく。


真ん中にいるのはあれは王様?いや皇帝だね。


不敬罪でばっさりなんて嫌だからね。


あちらからも魔法使いの格好をした老人が近づいて来た。



「ようこそ、アクレア帝国へ」



日本語で語りかけてきた。



「日本語がわかるのですか?」



校長先生が訊き返した。



「今までにも勇者召喚を行ってきましたので。しかし今回は女性が多いですね」


「召喚ということですが無理やり私たちをこのような所に連れて来て、これは拉致ですよね。これは犯罪ではないですか。すぐに私たちを返してください」


「いや、それはできません。皆さんには上級悪魔を倒すために戦ってもらいたいのです。異世界の特に日本の皆さんは強い力をもっています」


「彼女らにはそういうことはできません」



その時、急に騒がしくなり神官の格好をした一団が訪れた。


簡易鑑定で大神官となっている男性が偉そうな一団の方へ向かった。


会話を聴いていると翻訳が自動で働いた。


その中で大神官が皇帝に召喚の禁止の神託を伝えたはずだといっている。


今回の召喚に対して神は怒っていられるだろうとも言っている。


両者の口論がしばらく続いた。


結局、神官の主張が通ったようだ。


大神官に叱られていた皇帝は取り巻きとともにどこかに行ってしまった。



その後、私たちは神官と騎士に案内されて用意されていた宿舎に入った。


転移してきたのは生徒476名と教師男性8名女性22名と施設管理関係者男性2名女性6名だった。


研修施設にいた全員が転移してきたようだ。


全体を見たところ、状態異常を起こしている者はいないようだ。


皇帝の横にいた女性が魅了を掛けようとしていたが用意しておいた防御魔法で無効化することができたのはよかった。



大神官様と話し合って宿舎の警備を教師と神殿関係者で行うことにした。


食事も毒などが混ぜられていないように神官が鑑定もしてくれることになった。



私と校長先生は大神官様に呼ばれて応接室のような部屋に通された。


そこには先程の魔術師もいた。


宮廷魔法師長だそうだ。



「先ほどは申し訳ありませんでした。しかしあなたの防御魔法もすごいですね。皇妃様の魅了を無効化するなんて。皇妃様は何故自分の魅了が効かなかったわからなったようですが」


「お分かりでしたか。このことを皇帝や皇妃に話されるのですか?」


「まさか、貴方や大神官様を敵に回したくありません。それでお話しなくてはならないことがありまして、実は私たちは皆さんの送還方法を持っていません」


「それでは帰れないのでしょうか」


「実は今まで各国で勇者や賢者を召喚してきたのですが、上級悪魔を倒せないために送還をしていません。皆さんは神様から禁止されていた召喚によってこちらに来られたので神様から神託をいただいて送還をしたいと思ってます。しばらく時間をください」


「わかりました。大神官様よろしくお願いします」


「明日には・・・・神託が得られると思います」


最後の方で大神官の話し方がぎこちないのが心配だ。

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