第5話 さあ光速を超えよう!

 昨夜の雪模様とは一転し、今夜は良く晴れていた。冬の夜空は透明感が高く、まるで星が落ちてくるかのような臨場感があった。

 土曜の夜8時、三谷の自宅前に集合する面々は、皆、赤いマッハの周りに集まっていた。

 元々のメンバーは、三谷朱人、トッシー・トリニティ、黒田星子、綾川知子の四人。例の怪しいメッセージに反応して集まったのは、星子と知子の担任教師である田中義一郎。そして、同じクラスの夕凪春彦ゆうなぎはるひこ政宗明継まさむねあきつぐ、星子と知子の親友である有原羽里ありはらはりの四人だった。


「おっぱい星人がこんなに来るとは思わなかったぞ」


 黒いライダージャケットを着ている知子が話し始める。ピンクのダウンジャケットを着た星子は、知子の傍で相変わらずボーっとしていた。


「一応説明しといてやる。今夜集まってもらったのは、このマッハを走らせようって計画を実行するためだ。ギー先生が大型二輪免許持ってる情報があったから誘ってみたんだが、何で外野がこんなにいるのかな?」

「あー、それは私が全員に一括送信しちゃったからじゃないかな。ああいうの苦手なんだよね。文章は知子ちゃんが書いたんだよ。もう恥ずかしいんだから」

「お前かよ。自分の恥をクラス中にさらしたな。この馬鹿者が」

 

 ケタケタ笑う知子に赤面している星子。こんな風に、普通にしゃべっている星子の姿は珍しかった。


「もう。私に内緒で何やってんの? 星子ちゃんの胸を堪能するのは私です!」


 波里が不満げに文句を言う。


「仕方がないだろ、波里。お前は昨日学校休んでたし」

「それは風邪ひいて熱があったからです。うつしちゃまずいし」


 まだ発熱が続いているのだろうか? 波里の頬は赤く染まっていた。


「俺が来たのは、星子ちゃんの胸が何かの事件に巻き込まれないか心配だったからだ」


 堂々と胸が気になると宣うのは政宗明継だった。正体が異世界人である事がバレているにもかかわらず、彼は堂々と星子の周りをうろついていた。春彦は、常に明継の傍に待機している従者のような存在だ。


「そうだった。忘れるところだった。皆に質問する。大型二輪免許を持っているのはギー先生だけ。他にはいないな」


 三谷の質問に皆が頷く。


「では説明しよう。ギー先生はこのマッハでこの先にある直線道路を全開で走り抜けてほしい。中間に1000メートルの計測点を設置してあるからその間を平均時速200キロ以上でだ。心配するな。こいつはゼロ−100キロの加速が4秒を切る化け物だ。アクセルを開け続ける度胸さえあれば問題はない。それで今夜の生贄……もとい、ヒロインは星子だ。彼女をリアシートに乗せて満喫しろ。何を満喫するかはギー先生に任せる。次元駆動系の魔術回路は計測開始点で自動的に発動し、計測終了点で停止するよう設定してある。ややこしい話は抜きにして全開で駆け抜けろ」

「わかりました。星子さんを乗せて全開で走り抜けるんですね」

「ああそうだ」


 三谷の言葉に頷く義一郎だった。義一郎はヘルメットを被り手袋をつける。キーを差し込みイグニッションをオンにする。

 その瞬間、赤いマッハは淡くオレンジ色の光を帯び発光し始めた。

 サイドスタンドを蹴り上げシートにまたがる義一郎。キック一発でエンジンは始動した。三本のマフラーからはパンパンという破裂音ともに猛烈に白煙を噴き上がった。義一郎がアクセルをあおるとそれにつれてエンジンの回転も上がる。レスポンスは最高に良い。

 フルフェイスのヘルメットを被った星子がマッハのリアシートにまたがる。珍しい星子のジーンズ姿が義一郎の胸を打つ。


「星子さん。しっかりとつかまって。両ひざで僕の腰をグリップしてください」

「こうかな」


 ぎこちなく、両膝で義一郎の腰を挟む星子だった。

 

「そんな感じ。両手で僕のベルトをしっかり掴んでください」

「はい」


 星子が義一郎のベルトを掴み、彼の背に上体を密着させる。義一郎の頬がほんのりと赤く染まった。


「じゃあ行きますよ」

「はい」


 星子の返事を確認した義一郎は、ギアをローに入れてクラッチをつなぐ。マッハはゆっくりと走り始めた。

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