エルフとの会談
第45話 エルフ領"アースレーン"
「エルフ領ってどんなところ何ですか?」
学院に通い、この世界のことについて多少なりは理解したコータ。だが、細かい所を突っ込まれるとやはり知らない。
「そうだな。とりあえず緑の多い国だと聞いている」
「緑の多い、ということは森とかがいっぱいあるって感じかな」
「どうだろうな。それから食文化が大きく異なるらしい」
「へぇー、そうなんですか」
* * * *
サーニャ、ルーストと共に馬車に揺られることはや5日。何度か弱い魔物に遭遇はしたが、これといった大きなトラブルもなくエルフ領に辿り着いた。
アースレーンは、大陸の南西に位置し、大森林の中心に存在している。距離は王都より馬車で5日。コータは道中でエルフのことや、人族との関係性について詳しく聞いた。護衛と言えど、人族の代表として行くのだ。失礼のないようにしなければならない。
学院で離れていたことから、意識は薄くなっていた。だが、やはり共に過ごす時間が長くなれば意識をしてしまう。何をどう隠しても、コータの恋心に変化が生じていないから。
「へぇー、すごい。ここがエルフ領……」
エルフ領"アースレーン"に到着したコータは、馬車を降り、そう洩らした。
眼前に広がるのは、まるで森。その中に街が発展しているのだ。
元の世界では見たことのない植物が絡み合い、見事の空間を作り上げている。
また、行き交う人々はどの人も容姿端麗。思わず見蕩れてしまうほどだ。
「ほう。これがアースレーン」
アースレーンに降り立ったサーニャが、人族では決して見ることのできない景色を視界に収めながら言葉を洩らす。
「お待ちしておりました、サーニャ様」
そんなサーニャに、嗄れた声が放たれる。声の主は、若い時期が長いと言われているエルフとは思えない程の老人だった。
顔にはシワがあり、腰も曲がっている。
「あなたは?」
「申し遅れました。私、エルフ領アースレーンの族長のファムソーです」
長く伸びた黄緑よりもまだ黄色よりの髪をバサッと揺らしながら、頭を下げる。
馬車の中で、エルフは500歳でもまだ若者と言われると聞いたコータ。そのため、お爺さんの姿になったファムソーの年齢が少し気になるが、それは聞けるはずもなく黙る。
「あぁ、これは。私は人の国"ファニストン"の代表として来ました。第2王女のファニストン=アラクシス=サーニャです」
コータの疑問など微塵も感じていない様子で、サーニャはファムソーに手を差し出した。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
サーニャの言葉につられるかのように、ファムソーはそう言い、手を取った。
「それで、そちらの方々は?」
サーニャとの握手を終えたファムソーは、コータたちに視線を向ける。
「私はサーニャ様の傍付きルーストです」
「俺はコータです」
コータたちが軽く自己紹介をすると、ファムソーは会釈程度に頭を下げた。
「それでは少し街の方を案内させて頂きたいと思いますので、着いてきてください」
そしてそう言うと、ファムソーはコータたちに背を向けて街の方へと歩き出した。建物は木と木の間や、大きな木の上に建ててある。木の上の建物に関しては、背にある羽を展開させて向かっているようだ。
どの木も背が高く、幹は深緑色。
鑑定すると、その木は"ソレイユ"と表示される。
――太陽、か。まぁ、先が見えない程だもんな。
コータはそんなことを思いながら、ファムソー、サーニャ、ルーストの後ろを歩く。
「ここの辺りは住民区となっておりますので、皆様にはあまり関係がないかと思います」
濃い緑色を基調とした、民族衣装のような衣服を纏っている耳のとがった種族が闊歩している。それらを一瞥しながら、ファムソーは告げた。
「俺らで言うところの平民ってところか?」
「そうだと思いますよ」
コータの独り言のような呟きに、ルーストが静かに答える。
「我々は貴族や平民などという区別はないですよ」
「そうなのですか。では、政治的なものはどうなされているのですか?」
ファムソーの言葉に、サーニャは驚きを見せながら訊く。
「族長、それからその家族。そして、大臣が
「では、族長や大臣はどのような方がなっているのですか?」
「民が選んでいます」
「民主主義国家ってことか」
ファムソーとサーニャの会話を聞いたコータは、日本のことを思い返し、口をつく。
「民主主義国家?」
コータの呟きに反応をしたのはサーニャだ。聞き覚えのない言葉に首を傾げている。
「貴族や王族といったものは存在せず、そこに住まう人たちが意志を示して、政治的な部分でも参加できるというものです」
一息置き、コータはさらに続ける。
「人の国の、王を絶対的とした政治とは真反対と考えるべきだと思います」
「そんなものか」
コータの言葉に返事はするも、その言葉に納得の雰囲気は感じ取れない。
トップを立て、それに従うのを常としてきた者にとって、トップがいない状態は想像がつかないだろう。
今まで何か問題が起きたとき、全ての責任を擦り付けられる人物がいた。責任を逃れられる術があった。だが、それが完全に無くなるのだ。その状態でどのように、国を、人をまとめられるのか、分からないのだろう。
そんな会話をしているうちに、大きな木々が並ぶエリアを抜けた。同時に、耳にせせらぎが、目に川が映る。
流れは急ではない。走り幅跳びをして、ギリギリ飛び越えることができない程の幅の川。頭上より注がれる陽光により、水が黄色く見える。
川を繋げる橋は、ガラスとは違う、だが透明度の高い何かで出来ている。
「すごい光景ですね」
「そうですか?」
「えぇ。私共の国では決して見られない光景です」
「では、ゆっくりと堪能してください」
ファムソーはサーニャの褒め言葉に嬉しそうに答え、歩く速度を少し落とす。
橋は苔のような、緑色のものが覆っている。だが、それにも関わらず透明度が高く、下を流れる川がハッキリと見える。
あまりにもハッキリと下が見えることに恐怖を覚え、コータは頭をあげる。
そこにはキノコのような大きな傘を持つ樹木が立ち並んでいた。キノコのような部分には窓がついており、そこでようやく家であるということに気づく。
どれもが陽光で輝きを放っており、言葉で表す以上に幻想的な景色だった。
「あはは……、凄いな」
コータは息を飲むように言葉を洩らす。
「あれが族長たちが住む場所です。民に選ばれた者しか住むことが出来ない、エルフの民にとっては憧れの場所です」
ファムソーはコータの呟きに微笑みを浮かべて答える。そして、傘を持つ樹木の一つに近寄る。
「こちらが私の家です」
ファムソーは傘を持つ樹木の中でも、一際大きな樹木の前で言った。黄色のような緑色のような色を放つ樹木で、大きな窓ガラスが備え付けてある。
「あ、お父さん」
その瞬間、幹が開き、中から人が出てくる。
「こうなってるのか……」
あまりにも突然に樹木が開き、驚きを隠せないコータにファムソーは苦笑を浮かべる。
「ネーロスタ。いきなり出て来たら驚かせるだろう」
樹木の中から出て来た、容姿端麗であるエルフの少女にそう言いながら、ファムソーはサーニャに頭を下げる。
「こちら、私の一人娘ネーロスタです。ネーロスタ、挨拶を」
「は、はい! 私はネーロスタです! よろしくお願いします!」
「えぇ、こちらこそ。私は人の国の第2王女ファニストン=アラクシス=サーニャです」
ネーロスタの挨拶に笑顔で答え、サーニャはがっちりと握手を交わした。
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