第20話
軽くなった足取りのおかげであなたは大幅に歩を進め、遠くに見えていた山がどんどん近づいてきた。
しかし、どうやら世の中旨い話ばかりではないらしく、山の入口へ差しかかかった所であなたの足がガクンと重くなる。いや、実際は平素のあなたに戻ったと言うのが正しいわけだが、とにもかくにもあなたの他力本願な快進撃は入口で終わりを告げることとなった。
とりあえず山へ来ることだけを目的に歩いてきたので、辿り着いた後の事を全く考えていなかったあなたは、とりあえず山を見上げてみる。
どこまでも続いているかの様に見える立ち並ぶ木々に、あなたの口から感嘆とも嘆息とも取れぬ息が小さく漏れた。
どこへ向かえば鬼達に会えるのかなど、もちろん皆目見当も付かないあなたは、とりあえず山の中へと一歩踏み出してみた。
人の通りがほとんどないのか道らしい道も見当たらず、あなたは本当に前へ向かえているのかも分からないまま進み続ける。
そうしてしばらくの間進み続けていたあなただったが、あまりにも景色が代わり映えしないので、同じところをグルグルと回っているのではないかと思って立ち止まった。恐らく入ってきたと思しき方向へ視線を送るが、もちろんそちらにも同じ景色が広がるばかり。
歩き続けていた時は感じなかった疲労を感じて切り株に腰を降ろした所で、あなたは歩を止めてしまったことを後悔した。
途中で大きな力添えがあったせいか、余計に疲れを感じやすくなってしまった気のする両足をパンパンと叩くと、大きく足を伸ばしながら天を仰ぐと、木々の間から漏れて降り注ぐ陽射しを受け、あなたは目を細めた。
帰りにまで力添えを期待にするのはあまりにも楽観的すぎるだろう。
となると、急いで鬼と話を付けて帰らねば、遅くなりすぎると家から出れぬめいに余計な無理をさせてしまいかねない。
こうなるぐらいならきちんと朝食を食べて、事情を説明してから家を出ればよかった、と空腹を訴える腹を押さえながらあなたは立ち上がった。
カッコを付けて出てきたのだから、迷って会えませんでしたとなってしまっては笑い話にもならない。
そんなことを考えながら再び代わり映えのしない森を進んでいたあなたの視界に、見たことのある緑色が横切った。
どうやらこちらに気付いていない様子なので、あなたは咄嗟に物陰に隠れると少し身を乗り出して様子を窺う。
ひょろながの所で見た時はパンツ一丁にされていたが、今はナナの着ていた物に似ている白装束のような服を着ている緑鬼は、面倒くさそうにあたりを見回しながらどこかへ向かっているようで、何かを探そうとしているようだがあまり身が入っているとは言えない様子だ。
集中力が散漫になってくれているならば好都合だ、とあなたはこっそりと緑鬼の後を付けることにした。
疲れた足で付いていけるか不安だったが、緑鬼はしきりに立ち止まり辺りを見回してくれたので、心配は杞憂で終わってくれた。
とはいえ、緑鬼に付いていけば事態が好転してくれるというわけでもなく、現に今も同じような景色が繰り返されるばかりだ。
そんな景色を二、三順して、そろそろあなたも行動を起こそうかと思っていた所で、緑鬼が再び立ち止まる。
また休憩かとあなたは思ったが、どうやら緑鬼は別の目的があるらしく、辺りを先程までと違った様子で見回すと、三つ並んだ大木の真ん中に手を当てた。
とあなたは思っていたのだが、その行動の結果はあなたの予想よりも少し上をいっており、大木に触れるはずだった手はそのまま貫通して向こう側へ抜けた。
そのまま緑鬼が大木があったはずの場所を通り抜けたのを確認してから、あなたもすぐに大木の前に立った。
目の前の大木は近くで見ても他の木々との差を見つけることが出来ず、あなたは恐る恐る緑鬼がしていたように手を伸ばしてみると、あなたの手も緑鬼の時と同じようにするりと通り抜けた。
半信半疑だったあなたはそのまま前のめりに二、三歩よろけるも、なんとか体勢を立て直す。あと少し体勢を立て直すのが遅れていたら倒れていたな、と思いながらあなたはすぐに緑鬼を探すべく視線を泳がせる。
右から左へ一通り見て回るも、あなたが一歩出遅れてしまったせいか既に緑鬼の姿はなくなっており、仕方がないのであなたは再び当てのない歩を進めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます