未園空数学事務所

鯵坂もっちょ

第1話 室外機

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー……ン


 今夏も暑い見込みらしかった。知りたくない情報だった。


 ガガガガガガガガガガガガガガガ


「激しい暑さに警戒を」テレビが伝える。テレビなんか点けてないほうが少しは涼しくなるのだが。


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー……ン


 とは言え、六月の下旬である今にあっては「まだマシ」と言えるに違いなかった。ようやく30度を越える日がぽつぽつと出てきたくらいで、まだエアコンを使わずに窓を開けておくだけで凌げる日も多い。

 だが……。


 ガガガガガガガガガガガガガガガ


 一体何の仕打ちだろう、と思う。

 エアコンの室外機がうるさいのだ。隣の部屋の。

 こっちはエアコン無しで我慢しているのに、隣の部屋はもうガンガンに動かしている。窓を開けて外気で涼を得ようとするには、無視できない障害だった。

 いや、無視できないなんてレベルではない。生半可なうるささではないのだ。一部屋だけではない。右隣の101号室も、左隣の103号室もうるさい。両部屋の室外機が、二つとも自分の部屋である102号室に向けて設置してあるせいだ。どんな設計なんだ。

 さらに悪いことに、二つの室外機はそれぞれ一定の決まった間隔で運転したり停止したりを繰り返している。

 測ってみたところ、101号室のものは5分間騒いだ後、次の5分で静かになる。この繰り返し。103号室のものは7分間隔だった。

 ここから導かれる結論は、「自分の部屋はほぼ一日中うるさい」ということだ。両方うるさければうるさいし、片方うるさくてもうるさい。偶然にも両方とも運転を停止したときにのみ、自分の部屋には平穏が訪れるというわけだ。

 頭がおかしくなりそうだった。暑さに加えてこのうるささである。運転と停止の間隔がもっと長ければ、あるいはもう少しくらいは耐えられたかもしれない。だが、「5分」と「7分」である。頻繁すぎる。ノイローゼにでもなったら管理会社に責任は問えるのだろうか。

 せめて、どれだけの割合でこの部屋に静寂が訪れるのか、その正確な値だけでもわかれば少しは気が紛れるのではないか、と思った。

 どれだけ続くとも知れない拷問よりは、どれだけ続くか知れている拷問のほうが、まだ希望が持てる。そう考えたのだ。



(続)

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