ユニコーンへ歌う
和泉瑠璃
プロローグ
それは、とある魔法の王国、ミティカスに伝わる、世界の始まりの物語。
神はまず、七日七夜で世界を創った。そして、七つの種族には特別な力をさずけた。
それこそが、魔法。
魔法という、神からの祝福を受け取った七つの種族。それはすなわち、エルフ、マーメイド、ピクシー、ドワーフ、ユニコーン、トロール、そして人間。
――魔法を発動させるための、条件は三つ。魔力と、呪文と、歌声。
魔力の持ち主が、呪文の言葉を歌ったときにはじめて、魔法は発動する。
この七つの種族の中でも、人間はひときわ魔力が強く、そしてその人間の中でもすば抜けて魔法が得意な青年がいた。
その青年は、燃え立つ炎のような赤金色の髪に、闇を切り払う朝日のような金色の瞳をして、なによりも人の心を震わせる歌声を持っていた。
そして、種族の垣根を超えて、すべての者から尊敬されていたという。
彼を知るものは、口々に言った。
彼こそは、王の中の王。真の王である、と。
窓辺のベッドで、少女は眠っている。真っ白なシーツとは対照的に、少女の髪は黒々とつややかで、夜の闇との境目がわからなくなりそうなほど。
少女の眠りは、夢も見ないくらいに深い。それなのに、眠る少女はとめどなく涙を流している。少女は、寝ている間でも忘れることができない、深い悲しみを胸に抱えていた。
窓の外からかすかに、歌が聞こえてくる。少年が誘いかけているかのような歌声に、誰も触れていないのに窓が開いていく。
風がやさしく吹き込んできて、レースのカーテンを揺らした。窓の向こうに気配を感じて、少女は目を開けると、眠たさが残る重い身体をゆっくりと起こす。
何度かまばたきをしたあとで顔をあげると、少女はそこで見つけたものが信じられず、息をのんだ。
そこには、ユニコーンが立っていた。少女が、ずっと焦がれ続けていた、唯一無二の存在。少女は、そのユニコーンがまぼろしではないことに、すぐ気が付いた。なぜなら、そのユニコーンは、少女の記憶の中にあるのとまったく同じ、やさしい眼差しで少女のことを見下ろしていたから。
少女は涙で頬を濡らしながら、笑みを浮かべて手を伸ばした。
「私のユニコーン。むかえに来てくれたのね……!」
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