ハンスの妖精  - フィン -

五嶋 雷斗

ハンスの妖精  - フィン -

「おい、ここに、林蔵之助(はやし くらのすけ)はいるか」

 受付嬢に向かって、つたない日本語で話しかける外国人がいた。

「少々お待ちを」

 こういう場合、普通なら「いません」と答えるのが受付嬢の常識だが、身なりがキチンとしており、紳士然とした感じから、林社長の秘書に確認の電話を入れた。


「林がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」

 どうも、社長の賓客らしい。

 受付嬢が専用エレベータまで案内すると秘書が迎えに来ており、その外国人はエレベータに乗ってった。


「お~、来てくれたか」

 林は、両手を広げ、ハンスを迎えた。

「林さんは、大層なお金持ちなんですね」

 秘書の通訳を通して、ハンスは言った。

「このビルは、会社のものであって、私は大した金持ちじゃない。世の中には、私くらいの給料をもらうサラリーマンでさえいる」

「そうですか」

 ハンスは、林が身に着けている時計や指輪をチラッとみた。


「ハンスには、教えてもらいたいものがあって来てもらった」

 ハンスには心当たりがあったもののあえて言わず

「私は、林さんほど裕福でないし、教えるようなものなんてないですよ」

「そうかな。実はな、この前古本屋でたまたま手に入れた本があって、その中で、ハンスの祖先が錬金術を身につけていたことがわかってな。今でも、その錬金術が使えると聞いている」

「錬金術にご興味があるのですか」

「もちろんだ」


 実は、林は、英国留学中にハンスと出会い、お互い下手くそながら、クリケット仲間であった。その縁でハンスはスコットランド、林は日本でお互い商社を経営していた。ハンスは、お国事情から、商売は順調であるものの、林ほど大きな商いを営んでいなかった。


 林が負けず嫌いなのは、一緒にクリケットの試合をしていた時から知っていたが、まさか、錬金術のようなものに目を付けるとは思ってもみなかった。

「ハンス、私に錬金術を教えてはくれないかね」

「林さんの頼みなら、教えてもいいですが、時間がかかるので、私が付きっ切りでは教えられませんがどうしますか」

「そこを何とかならんかね」

「そうですね。方法はないわけではないですが・・・」

「頼む」

 土下座する林。

「では、秘書の方に出てもらってください。この方法は、ちょっと外部に漏らしたくないので」


 林は、秘書に外に出るように指示した。

 秘書が外に出たのを確認し、ハンスは、

「妖精を呼びだしますので」

「Come To Me My Friend」と英語で唱え、妖精を呼んだ。

「驚いた。インターネットでものが買えるようなこの時代に、妖精がいるとは」

「錬金術は、血族にしか扱えないが、1つのものを等価で1つのものに変えることを教えることはできる。この子は、それを教えるための先生のようなものだ」

「おお、素晴らしい」

「根気と時間が必要だが、本当にいいのか」ハンスが確認した。

 林は、頭を前後に3回ほど振り、妖精を預かった。


「くれぐれも、妖精をほかの人に見せてはならない。妖精がほかの人に見られたら、私のもとに帰ってくるからね」

「ハンス、ありがとう」


 ハンスは、スコットランドに帰って行った。


 林は、妖精をカバンに隠して、家の書斎に鍵をかけ、妖精を部屋に放った。

「妖精さんよ。私は、何をすればいい」

「私の名前は、フィンよ。また、変なことやらせるんだから」

「フィンよ。私は、何をすればいいんだい」

「錬金でしょ。何を作りたいのよ」

「金がいい」

「あんたには無理。対価がないでしょ。でも。あなたの命なら金の延べ棒1つくらいできるかもね」

 クスクスと笑うフィン

「からかわないでくれよ」

「わかったわ。そうね。この部屋を見ると、木とか鉄あたりかな」

「ほかの場所なら、もっといいものが作れるのかい」

「もっといいものって何よ。木が作れるんだからすごいじゃないのよ」

 価値観の違いに戸惑う林。だが、ひらめいた。

「紙を同じ紙に変えるというのはどうだい」

「なにそれ、意味あるの」

 頷く林。

「できるわよ。けど、そんなの自分たちでやればいいじゃない」

 林は、偽札ならぬ本物のお札を作ることを考えたのだ。しかも、番号を変えて。

「じゃあ、まず、作りたいものイメージして、等価となるものの上に手をかざして、息を吸い込む」

 苦しくなって、息を吐き出した林に向かって

「ダメダメダメ。もっと長くよ」

 再度挑戦した。苦しい林は、気が遠くなり、倒れた。


「起きた?まだやるつもり」

 林は、コクリと頷く。


 何度も何度も倒れては起き上がり、息を吸い込む。


 やがて、書斎にある本の一部が、新札に変化し始めた。

「できるようになったね」

「これじゃ、まだ、不完全だ」

 林は、また、修行し始めた。


 何度も試して、自分のお財布にある1万円と違わないほどのものができるようになった。

「できるようになったじゃない。エライ、エライ」

 フィンが褒めてくれるようになった。



 書斎にある本をほとんど1万円札に変え、林は満足した。

「フィン。ありがとう。お蔭で満足できるところまで来たようだ」

 部屋いっぱいに散らばった1万円札をかき集め、満足した林は、

「ハンスによろしく言っておいてくれ」と言ってフィンと別れを告げた。

 フィンは、扉の隙間から外に出た。


 林は、新札を整理し、百万ほどカバン入れ、部屋の外に出た。


 林は、さっそく、コンビニでお弁当を買うことにした。

 さすがに、本物であるとはいえ、自分が作ったお金を使うのは怖い。


 レジに並んで、お弁当を出すと、

「230ギルです」

 カバンの中に入れた手が止まった。

「ギルってなんだ」

「お客さん、冗談きついっすよ」

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