第4話 ぐだぐだめんばー
国連本部のオフィスの一室に連れてこられて時には、もう深夜だった。
身も心もズタボロボンボンである。
もう床で寝たいくらい疲れきっていたが、床には行き倒れ――もとい先客がいた。
名はシドニー。男。名前から、例のごとくオーストラリア出身。借金大王。チンピラ。
シドニーの英語は、オーストラリアの訛りが酷くて、ほとんど関西弁の様相を呈している。
「シドニー、あんたも呼ばれたのか?」
「……チーズパイ」
「また借金で食ってないのか。アダムスキー型UFO」
「ロブスターグラタン」
「作戦にはアンタも参加するのか。フライングヒューマノイド」
「フィッシュアンドチップス」
「……ルー、駄目だ。コイツ腹減りすぎて、食い物の名前しか言わない! 俺もUFOの名前で対抗してるけど、コイツを正気に返らせるのって無理かもしれない!」
大和が振り返った先では、点滴スタンドを抱えた少女が椅子に座っていた。輸血パックから流れこむ血に陶然とした表情を浮かべている。さっきの竜と同一存在と思えないほど華奢な女の子だ。
ちなみに輸血パックの中身はモケーレ・ムベンベの血である。
「何のコメディよそれ。いいからほっときなさい。食事ったって、ここには何も……あ、この血はあげないからね!」
「それを食事にできるのはお前ぐらいだと思う……ラミエルタイプ」
「……ステーキサンドイッチ。……もう血でもええ、それよこせや」
「気を確かに持て! 宇宙人だって生じゃ食わないぞ!」
「今の俺なら、宇宙人すら食えるで……」
「ファッ?!」
ダラダラの空間にガチャリと、ドアが開く音がした。
□ □ □
「ようこそ国連本部へ~。作戦に参加してくれて嬉しいわ~」
青い髪。間延びした声。……アメリアだ。
アメリカ出身の国連付き超常現象対策の専門家。
二条流しの黒い弔旗に気を送って硬化させ、鎌の様に振るう様から、《死神》と呼ばれている。
だが、今の彼女の手には旗ではなく、立派な青い箱が抱えられていた。
「無理やり連れてこられたんですが、それは……」
「それじゃあ、作戦を説明するわね~」
「俺の話を聞いて~」
アメリアはうふふと笑いながら、テーブルに地図を広げた。
ついでに、床に転がるシドニーの口にカロリーメイトをぶちこんで耳元でささやいた。
「起きないと、……うふふ?」
「あああああ、オハヨウゴザイマス! いやー姐御、今日もお綺麗ですなぁ!」
恐怖のうふふ。慈悲はない。シドニーは跳ね起きて必死にゴマをするが、アメリアの笑顔で沈黙した。こわい。
「うふふ。元気になって何よりだけど~、これを聞いてもそう言えるかしら~」
「えっ?」
心の準備がまだなのに、容赦なくアメリアは口にした。
「人質事件犯人のアトランティス人たちから要求よ~。アトランティス大陸と五大陸の魔法使いたちで魔法のオリンピック開催しようって~」
「「「は?!」」」
「それで、魔法オリンピック――略して魔リンピックに負けた大陸を、一つ沈めるって~」
困ったわね~と、頬に手を当てて嘆息したアメリア。だが、目が本気だ。本気と書いてマジと読む。
三人は顔を見合わせた。
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