代償

nobuotto

第1話

 魔女に作られた男と女の人形は、人間に化けて子供を拐っては、その生命を吸い取って魔女に捧げていた。

 子供の命を奪う時間以外は二人は自由であった。その上、二人は永遠の命を魔女から保証されていた。永遠の命があるだけで十分と思っていた二人だったが、長い時間が経つうちにその心は少しずつ変わっていった。

 子供の命を奪うことの罪の意識がだんだんと深くなり、それに合わせるかのように、二人の間に愛が育っていった。そして、二人は人間界に逃げ出した。

 二人は人間界の片隅で静かで幸せな日々を送っていた。寄り添うように生きていくうちに二人は子供が欲しくなった。しかし、子供を作ることはできない。それができるのは魔女だけである。魔女の元に戻れば、またあの仕事をやらされる。いや、魂を奪われ地上から消されてしまうかもしれない。それでも二人は勇気を出して魔女に会いに行った。

「お前達の子供を作ってくれって言うのかい。馬鹿を言うでないよ。今直ぐお前達を消してやる」

 二人はその言葉を恐れていたが、魔女から出た言葉は違った。

「お前達の気持ちはよくわかったよ。それで、もし、子供を作ってあげたら私に何をくれるのかい」

 二人を消し去っても、結局魔女は損をするだけである。報復の代わりに、損をしない方法を思いついたのだった。

「まあ、いい。子供を作ってあげるよ。けどね、二つの条件がある。まず、その子供の身体は、お前達の身体を使わせてもらうよ」

 これで二人の命は永遠ではなくなった。

「二つ目だけど、お前達の子供が大きくなったら私のために働いてもらうよ」

 どうしても子供が欲しかった二人は、魔女の条件を受け入れた。

 そして男の子と女の子の双子を授けてもらった。

 双子はすくすくと育っていった。まるでお互いの心が読めるような仲のいい兄妹だった。兄は父に似て、妹とは母に似ていた。家族四人の静かで幸せな日々が続いた。双子の成長は二人の生きがいであった。そして、双子が成長していくにつれて、二人は小さくなり、双子が立派な大人になった時に、二人は消え去っていた。

 魔女は大人になった双子を自分の元に連れ戻し、両親と交わした約束について話した。

「どうしてお前達が私の前にいるか分かっただろ。これからは私のために生きてもらうからね」

 二人とも、魔女には勝てないことがよく分かっていた。二人は魔女に従って子供達の命を奪っていった。

 しかし、二人は魔女に従順に従うふりをしてチャンスを待っていたのであった。

 その時が来た。 

 魔女が寝入ったのを見計らい、決して入ることが許されない部屋に忍び込んだ。そこには人間の木枠が二組あった。男女の大人、男女の子供の木枠である。横には土の塊がうず高く積まれていた。魔女は子供達の命、若いエネルギーを土に替え、この型に埋め込んで人形を作ったのだった。

 双子が大人の木型に土を埋め込むと両親が生き返った。両親は土に戻ってからずっとこの部屋で魔女を見ていた。魔女はこの部屋に来ると、泥を身体中に塗りつける。すると、見る見るうちに若さを取り戻していった。魔女は子供の命で生き永らえていたのであった。

 四人は泥の部屋に火をつけた。部屋の異変に気づいて魔女が駆けつけた時には、部屋に入れないほど火は燃え上がっていた。

 それでも「私の命、私の命」と魔女は叫び続け、その火の中に飛び込んでいった。

 魔女から逃げた四人は高台から城を見下ろしていた。

 部屋から出た火は燃え広がり、城全体を炎が包み込んでいた。

 もう少しすれば、城も魔女も、そして命の土も燃え尽きるであろう。

「これで私達も自由になる。けれどもう二度と生き返ることはできないね」

 父が言うと、双子は声を揃えて答えた。

「いいです。私達もこれで人間と同じになれます」

 母は静かに頷いた。

 城は燃え落ちようとしていた。

 すると、城から光の玉が飛び出した。元気よく飛んでいく玉、フラフラしながらもしっかりと上っていく玉、無数の玉が次々と夜空を目指して飛んでいく。

「子供達の命が、もう一度生まれようとしている」

 母の声が夜空に響き渡った。

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