第8話



「あたしの名前を忘れるなんてひどいわね。五年も潜伏して、仲間のふりをしてたってのに!」

 言うが早いが、麗美は私から離れ、ナイフを構えてユウに襲いかかる。

 ユウは相変わらず他人事のように、首を傾げていた。

「は? いや全く知らんわ。結社にいる時はずっとユウでいたから、あんたとは会ってないのかも。でもま、いいよ」

 ユウは俊敏な猫のように、さっとソファから立ち上がった。

「どうせあんたも殺すんだし」

 うわあああ! と絶叫しながら麗美がユウの頬をナイフで切りつける。ユウはそれをかわすと、ガラ空きになった麗美の腹に一発パンチを見舞った。

「がっ」

「う、いってー! やっぱ久々に殴ると痛いねー」

 不敵な笑みを浮かべると、ユウは麗美の手からナイフをはたき落とし、部屋の隅へと蹴飛ばした。不意を突かれ戸惑う麗美に構わず、ユウは彼女の頬を力一杯殴った。

「がはっ……」

 倒れこんだ麗美に馬乗りになると、ユウは続けた。

「こいつは殺人にナイフしか使えないって思って、油断した? ユウだけが、私の中の攻撃的なキャラだとでも思った? そんなわけないでしょ。臆病者のユウなんかと比べないでよ。私の方が、もっとずっと強いんだから」

「な……がっ……」

「私の名前はアヤセ。あんたがどれだけ同族を嫌悪してるか知らないけど、あんたみたいな卑怯者と、勝手に一緒にしないでよね」

 最後に軽く手刀で伸すと、麗美は完全に動かなくなった。

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