第5話 初めてのおつかい 高校生編

 俺は、冒険者ギルドの重厚な扉を開けて、表に出た。


 視線に入ってきた景色は、目を疑うほど俺が知る世界とかけ離れている。


 ヨーロッパによくある街並みに近いのだが少し違う。


 レンガ風の建物が整然と並び、地面はレンガブロックが敷かれている。


 ヨーロッパの中世風という言葉がしっくりとくる。


 通りすぎる人は、丈夫そうな衣服を着ており露出は少ない。


 俺がよく知っているファッション性を重視した物とは違う機能性重視の物。


 大通りを闊歩する馬車には、豪華な客車を引いている。


 豪華な客車の中には、豪華な衣服を身に着けた人が乗っている。


 映画をテレビで見ているような感覚になる。


 魅力的な街の光景に目を奪われていると、後ろからドンッと押されてしまった。


 振り返ると俺の背後に列が出来ている。


 俺は景色に気を取られて、入口に立ち尽くしている事を忘れていた。


 ペコペコと謝りながら、前の道に移動してアンナさんからもらった地図を開いた。


 地図を目で追いながら北に目を向けると、街の中央くらいに大きなお城がみえた。


 あれが王城なのだろう、さすが首都だ。


 王城を実際に見た事で、地図に書かれた場所を把握しやすくなった。


 再度、地図に目を落とす。


 中央に王城があり、そこを中心に東西南北に大通りが通っている。


 街の外側には城壁があり、中央の道の終端には城門ある。


 北には森しかないので、北西と北東のエリアは鍛冶や木工といった職人系ギルドが軒を連ねる。


 シュタットの南は街道に繋がっている。


 その為、人の往来が多いので南西と南東のエリアには冒険者ギルドや宿などがある。


 俺はアンナさん謹製の地図を見ながら、最初の目的地である紳士服を扱う店に向かう。


 手持ちが全くなく、しかもお腹はペコペコだ。


 だが冒険者ギルドに居たときから考えていたことがある。


 俺には、他の人と決定的に違っているものがあった。


 現在の服装だ。


 この街には無い、激レアアイテムを俺は持っている。


 これを売ることで、大金が手に入るという期待があった。


 俺はアンナさんに念を入れて確認していた紳士服屋にたどり着いた。


 

 テオバルト紳士服店は大通りの角地に店を構えていた。


 大きなショーウィンドを前面に張りだし、社交場で着るような正装を多く展示している。


 ドアを開けて店に入ると、ピシっとした貴族然の店員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 紳士服屋の店員に相応しい丁寧な対応だ。


 俺は早速商談を開始する。


「俺の着ている服を買い取って欲しいのですが……」


「衣服の買い取りですね、少々お待ちくださいませ。仕入れ担当を呼んでまいります」


 そう言って店員は手元の鐘を鳴らした。


 すると直ぐに奥から返事がして、少し太った違う男性がでてくる。


 そして最初の店員が事情を説明すると、納得して俺に近づいてきた。


「着ていらっしゃる衣服の買い取りですね。それでは上着を脱いで頂けますか?」

 

 俺は頷いて、スーツの上着を脱いで手渡す。


 それを受けとった店員は査定を始めた。


 俺は査定中、店内を見て回っていたのだが、時々、査定している店員の表情も確認していた。


 店員は全く表情を変えることもなく、淡々と査定している。


 それを見た俺はしくじったと背筋に冷や汗をかいていた。


 つまり激レア査定にならないパターンである。


 そこで俺は気付いてしまった、フラグを立てていたことに! 後悔先に立たずである。


 5分ほどで査定は終わり、金額が提示される。


 上下のスーツ合わせて50000マルクということだ。


 貨幣価値がわからないので、了承した旨を伝えて書類にサインをして商談は成立した。


 上に着る物とパンツが無くなるので、代わりに綿で出来た頑丈な上下の衣服を購入する。


 合計6000マルクの支払いだ。


 店員が買い取り金の受け取り方法を確認して来る。


 不思議に思って確認すると、ギルドカードを媒体とした決済が可能という事を聞いて驚いた。


 電子マネーのシステムが構築されているのである。


 現金で渡すことも可能らしいのだが、それにメリットはないので、ギルドカードに振り込んでもらう。


 ギルドカードを渡すと、店舗に設置されている金属の台に乗せる。


 店員が俺のギルドカードに触れて店舗からの金額移動を思うとそれが実行される。


 店員から返してもらったギルドカードを表示させると、所持金の項目が44000マルクになっていた。


 俺は買い取ってもらった礼を言って、店舗を出た。


 ドアから出ようとしたとき、チョロイと、聞こえたけど多分気のせいだろう。


 俺は次の目的地である宿屋を目指した。


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