黒鉄のアマテラス〜悪を断つ邪鬼〜

紅月イツカ

プロローグ

 時刻は午後10時を過ぎた闇夜の空。

 辺りは静寂に包まれ、点々と灯っている消えかけの街頭と、月明かりだけが闇夜の町を照らす。

 一昔前の活気に溢れた横浜の街は、今や見る影もないほどに荒廃し無残に朽ち果てていた。人が溢れかえり、寝ることを知らない活気のあった面影は、もはやどこにも残ってはいなかった。

 多くのビルは外装が剥がれ落ち、コンクリートがむき出しの廃墟となり、道路もアスファルトがれて、信号機などは根元から朽ちて倒れているものもある。その状況だけで、人が住んでいないことを一目でわかるほどに惨い状態だった。


 市街地から少し離れた住宅街に程近い大きめな公園。長年掃除や整備をされていなかったのか公園の中は酷く荒れ果てている。雑草は生え放題、ゴミも小さな物から廃棄処分された家具など、そこら中に放置されている。

 もはやここが公園といえるのかどうかも怪しい。

 そんな、人気のない場所に4つの人影が息を潜めて待ち構えている。4人はそれぞれ別の場所で待機をしているが目的は同じ様子だ。

 4人の見つめる先には、怪しくうごめく影が数体。それらの中には人間に似たものもいるが、それはどう見てもこの世の生物とは言い難い存在だった。

 人間と同じ四肢を持ちあわせているうごめく影は、その見た目は人間というにはあまりに似つかない。朽ち果てただれた黒い肌に、焦点が定まらずどこを向いているかも分からない虚ろな目。見た目はどことなく、映画やテレビゲームなどでよく見るそのもの。

 他にもサッカーボールほどの大きさをした赤い肉の塊が浮いていたり、奇怪な声をあげる1つ目の犬のようなのもいる。


「こちら天真てんまです。式神しきがみの準備、整いました」

 物陰に隠れ、小型のインカムで現状の報告をする天真という少年。見た目は10代半ばの幼い少年で、緊張しているのか口元が震えているようだが、その緊張を気合いで隠している様にみえる。

「こちら紗月さつき。周囲のはこいつらだけ。情報通り20体ってところ」

 公園から少し離れた位置で、タブレット端末に映るドローンの映像を見ながら作戦の状況を伝える紗月という少女。

「こちら左近さこん。いつでも奴らの頭ぶち抜ける準備はできてるぜ。20体ってことは一人ノルマは5体くらいか?これなら日が変わるまでに帰れるか?なぎ、終わったら一杯付きあえよ」

 左近と名乗る大柄な男が冗談まじりに現状を報告する。彼は高台の上で狙撃銃のスコープを覗きながら化物の頭を追う。

「作戦中になに無駄話してんのよ。それと、明日は早いんだからさっさと寝なさいよ!」

 左近の冗談で、緊張感の伝わる会話が急に無駄話に変わった。

 恐ろしい見た目の相手に緊張することは愚か、冗談を言いあうほどに楽観的な余裕もあった。

「はぁ…左近、今は作戦中だ。その話は終わってからにしてくれ」

 薙という若い青年は、左近のくだらない話にため息をつく。インカムからは「はいはい」と左近の軽い返事が聞こえた。

「たしかに難しい相手でもないし作戦通りやればすぐに終わるさ」

 この集団のリーダーらしい薙という青年が、他の3人に号令をかける。

「よし、はじめよう!第4小隊、作戦開始だ!」

「「了解!」」


 アヤカシ。それは日本に突如現れ、人々を絶望の淵に追いやった災厄の化身にして人類の天敵。

 それを討ち取るはアマテラス。アヤカシを葬り、闇夜を照らす者なり。

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