第79話 蛍火
桜子たちが茂みから見守っていると、牛車の
四つ脚のある漆塗りの
——と、
——女の人。
その姿を見て、桜子は息を呑む。
てっきり
その人は
「そこにいることは、もう分かっている。姿を見せなさい。何のためのひと払いなのだ」
女君には人を使うのに慣れた威厳があり、声には糾弾する響きさえある。本来なら、このように人目に触れることのない立場なのだろう。
長く
桜子は目配せし、視線で私が話してみると伝えた。薫がかすかに首肯したときには、桜子はもう立ちあがっていた。
いつのまにか、いくつもの光が川のまわりを取り囲み踊っている。その
従者が、桜子に
女君は値踏みするように、ひととき厳しい目で見つめていたが、桜子が見つめ返すとほんの一瞬唇を持ちあげた。
「そなたが桜子か。ずいぶん身軽そうな。そんな格好をわらわもしてみたいものじゃ」
目の前の女君は袿に唐衣を重ねていると見え、裾は長く動きにくそうだった。以前、伊織に着せてもらった
「
桜子の物怖じしない態度は、
これほど
「むろん。そうでなければ、ここでそなたと話すゆえがなかろう。そなたが
「名は、何と申されるのですか」
桜子は重ねて聞いた。
ここまで
「そなたはよほど礼儀をわきまえぬと見える。わらわの本当の名を、そなたは知らずともよい。名が必要なら『
「では、桔梗の方」
桜子は正面から『月読』のあるじを見据えた。
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