第22話 述懐
簡単に承諾できる話ではなかったが、桜子は薫を信じることにした。
誰も彼もが桜子を遠ざけようと暗躍するなかで、薫だけは本音を語ってくれた。守り手がどう、という話よりも、桜子にとって大切なのはそのことだった。真偽のほどは眉唾ものだ、と思ってはいたが。
薫は今の現状を、かなり正確に把握しているようだった。この頃は年に数回顔を合わせるだけの間柄だっただけに、どうしてここまで薫が介入するのか、桜子自身にもよく分からなかった。
——うまく話にのせられただけかもしれない。
ちらっとそんな考えが頭をかすめたが、不思議と薫自体に嘘はない気がした。まだ教えていないことがあることは察したが、出し抜くつもりがあるとは思えなかった。薫は桜子を守ると言ったのだ。
それを思いだし、桜子は胸の底がわずかに熱くなるような心地がしたが、瞬時にその甘言を振り払った。
——薫はそれが自分の務めだと言った。お母さんの
それがどういうことなのか、もっと詳しい話を聞きたかったが、それ以上のことは聞けなかった。
薫は、最後に合図の目印を桜子に教えてくれた。その日がやって来たら、桜の木の枝に布を結んでおくと。それは注意して見ないと分からない場所だった。
桜子がうなずくと、薫は一度かすかにほほ笑んだ。もうすべてを承知している顔で。
もし本当に、桜子が「水神の剣」の守り手なのだとしたら——桜子はその可能性について思いをめぐらせた——もっと早くに知らされるべきだった、と考えて思い直す。自分は今まで、自ら踏み込んで思考することなどしなかった。
本当は母について、周囲に聞きだして知ろうとする姿勢があってもよかったはずだ。桜子がそれをしなかったのは、自分のなかに負い目があるからだった。
誰にも期待されない自分、母のような器量のない自分を、自分で認めるのが嫌だった。
せめて強くなろうと稽古に励んでいたのに、その目的も見失ってしまった。目の前のことに集中するふりをして、煩わしいことには触れようとしてこなかった。
——今からでも、遅くないはずだ。
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