第13話 桂木


  夕暮れの前に小山を降りて家にたどり着いた桜子は、秋津彦にさんざん叱られた。夏芽にもこっそり嫌味を言われたほどだ。天気が天気だけに、秋津彦も心配したのだろう。


 桜子の様子に覇気がなく、どこか悄然としているのを反省している色ととったのか、謹慎させられることだけはまぬがれた。


 祖父に詳しい事情——『月読』という組織や薫のこと——を聞きたかったが、稽古場に行ってもあいにく不在だった。そこでは連日、師範代の桂木かつらぎが瑞彦の代わりに取り仕切っていた。



***



 いつまでも祖父が帰ってこないことに焦れた桜子は、稽古を終えたある日、桂木の方に歩み寄って言った。


「おじいちゃんがどこに行ったかを、桂木さんは詳しく聞いているの」


 桂木は里のなかでも、人の良い壮年の田堵たとうで、昔から稽古場に通う一人だった。彼は桜子を見ると、大きく首を振った。


「それが突然のことで、私もよく知らないんですよ」


 その言葉が本当かどうか、桜子は分からなかった。でもそう言われた以上、さらに追及することはできなかった。

 桜子は話題を変えた。


「薫は——おじいちゃんの内弟子の、和人かずひとさんのところに今もいるの」


 和人とは、身寄りのない薫の世話をしてくれた里の名主みょうしゅだった。

 桂木はいきなり薫のことを聞かれ、やや困惑した様子だった。


「たぶんそうでしょう。今もそうだと断言はできませんが」


 含んだような物言いに、桜子は口をつぐんだ。桂木も一連の出来事について、何か知っているのだ。そしてそれを桜子に言う気はないのだ。

 そう思うとやりきれなくて、桜子は何も言わずに表に出た。


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