第11話 薫( 2 )


 剣について祖母から聞いたばかりの桜子は、話が年下の薫にまで行き渡っていることに驚きを隠せなかった。薫よりも桜子の方がお宮から近い場所に住んでいるというのに。


「おじいちゃんに、そう頼まれたの」


 桜子が聞くと、薫は気まずそうに言った。


「本当は桜子さんには知られたくなかったんだ。今は忙しいって聞いていたし」


 桜子は憤慨して気色ばんだ。


「何を言ってるのよ。忙しくなんかないわ。薫が見張るなら、私もここを見張る。一人でも人目が多い方がいいでしょ」


 薫は少し渋い顔をした。


「絶対そう言うと思った。でも桜子さんは帰った方がいい」


「おじいちゃんが承知しないって言うんでしょう」


 薫は、ほんのわずか微笑んだようだった。

 そうしていると、年下には思えない大人びた陰影が口の端にのぼった。


「桜子さんを守るのは、僕の任務の一部でもあるからね」


 ——何、言ってるの。


 桜子がそう言葉を返そうとした時、ドッと背中に軽い衝撃が走った。視界が不意にかすむ。雨の音が一段遠くなる。


 それが薫の手刀だと気づいた時には、目の前の風景はすでに暗転し、にじむように何も分からなくなった。

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