第2話 出会い
チュンチュン
「んー、何だ?」
見覚えのない天井が目に写った。
体を起こして見渡してみると、部屋の隅に机と椅子、そして、カーテン付き窓がある真っ白な部屋の中にいた。
外からは、賑やかな人々の声が聞こえてくる。
「ここはどこなんだろう?」
ぼんやりとした頭で考える。
とにかく、ここが何処なのかを取り敢えず分からないといけない。
部屋の扉を開くと、ホテルのように長い廊下の両側に同じような扉が並んでいた。
そして、いかにも出口らしき扉を発見した。
この扉の向こう側には何があるのだろう?
何が俺を待ち受けているのだろう?
不安と緊張が入り混じる。
取手に手を掛ける。
扉の向こうで俺の視界が捉えたのは近代的かつ、平和な世界そのものだった。
風景や街並みは自分がいた町に似てはいたが、見慣れないものばかりだった。
俺はこの世界に違和感を感じずにはいられなかった。
風景や街並みだけじゃない。
これは何だろう?
その場に立ち止まっても仕方が無いので、その街を一回りする事にした。
この街は、かなり栄えているらしく、大通りを歩いていると、子供連れの家族やカップルをよく見掛ける事が出来た。
人々を観察していると気付いたことがあった。
道行く人々の中に十人に一人くらいの割合で刀や剣、斧、盾、鎧など武装している人がいるのだ。
これがあそこから出たときの違和感なのだと理解した。
何故、武装している人がいるのだろう?
ここは一体何処なのだろう?
取り敢えず誰かに聞かなくてはいけない。
でも、一体誰に聞けば良いんだ?
「これから面白いものを見せるよ~。さーさー、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。私は、大道芸人です。何でも出来ますよ!まずは、ドカンと火を吹いて見せましょう」
ピエロの格好をした人が道の真ん中で芸をしていた。
大きく、良く透き通る声だ。
少し見ていこうかな。今、この街の事も教えてくれるだろうし。
ピエロは小さな液体の入った瓶を取り出した。
「ささ、この瓶に入っているのは只の水です」
そう言ってピエロは液体の入った瓶を高々上げて観客に見せびらかす。
その時、それを見ていた子供が
「嘘だい!それは水じゃないやい!嘘つきやがって!アルコールかなんかだ」
「ほほう」
ピエロは、それを待っていましたと言わんばかりに、ニヤリと口角を広げさせた。
「それじゃ、この液体を嗅いでみたまえ。ただの水だ」
ピエロは少年に瓶を渡した。
少年は瓶の蓋を開け、鼻を近づけてみる。
微かに少年の鼻が動く。
「何も臭わないよ」
ピエロはうんうんと頷いて
「そうだろう。これは只の水だからね」
ピエロはそう言って、少年から瓶を取って、中にある水をぐいっと飲んだ。
そして、風船のように頬を膨らまして顔を上に向ける。
一呼吸置いてふうと強く息を吹きかける。
すると、火炎放射器のように大きな火の玉がゴオオオという音を立てながら口から出て来た。
炎は龍のように空に向かって立ち上っていく。
炎の、赤く、光り輝く龍。
そうして、炎は段々と勢いを失っていき、最後には消えてしまった。
ピエロは目をこちらに向けてにやりと笑う。
どうだ、見たか。これが俺の力だというように。
俺も観客もその一瞬の出来事に目を奪われた。
一瞬、時が止まったかのように思われた。
「す、凄い!」
それを観ていた一人の観客の一声で観客達は夢から目覚めた。
「ブラボー!ブラボー!」
「あんたは最高だよ!」
人々はそう言ってピエロの近くに置いてある箱にお金を置いていく。
拍手喝采を浴びながらピエロは丁寧にお辞儀をした。
「どうも。皆さん。有り難うございます。明日もこの場所でこの時間にまたショーをしようと思うので是非、見学をしに来て下さい」
ショーを観ていた人々は、自分達の本来の用事を思い出してバラバラに行動し始めた。
ピエロはショーの片付けをしていた。
「あの、良いですか?」
「ん?君は?」
ピエロは相変わらずニマニマと笑っている。
「あの、さっきあなたのショーを観ました」
ピエロは、目を細めて
「有り難う。それで、何かな?」
聞きづらい。けど・・・
「あの、このショーとは一切関係無いんですけど。俺、いや、僕、目覚めたらこの街にいたんです。ここは何処なのか分かりますか」
「君、最後の記憶は?」
ピエロの顔から笑顔が無くなる。
薄気味悪い。笑った顔は只の笑わせ屋、道化師だと思ったのに、真顔になると何やら狂気じみたものを感じる。
考えろ。
中々思い出せない。
ああ、たしか・・・・・・
「電子自動車に乗っていて、ゲームの広告を見ようとして車から顔を出したんです。そしたら頭に強い衝撃があって気付いたら身に覚えの無いベットの中で寝ていて、外に出たらこの街だと分かって」
ピエロはもう良いよと言って
覗き込むかのように俺の目を見る。
そして、衝撃的な一言を俺に放った。
「率直に言うと、君は死んだんだ」
「死んだ?」
「そう。君は死んだんだ。そして、この世界に来た」
「ということは、ここは天国なんですか?」
ピエロはフルフルと頭を振って
「いいや、違うよ。少し似ているけどね。僕もこの世界に来てから日が浅いから分からない事が多いからあまり教えてあげることが少ないんだけど。取り敢えず、君に一言言うなら、ここはただの異世界では無いと言うことだ」
「只の異世界では無いってどういう事ですか?」
「それは、自分の目で見るのが一番だな。見たところ君は一文無しだな」
「はい。そうですけど」
「それじゃ、コレを持って行け」
ピエロはそう言って、俺に今日得た収入の僕に渡してきた。
「そんなの悪いですよ!」
それでもピエロはお金を渡してくる。
「暫くはこれでなんとかしろ。後は自分次第だ。あと、ここに行けば何か教えてくれるかもしれん」
ピエロはそう言って一枚の地図を俺に渡してきた。
「これは?」
「これは、情報屋の店だ。ここに行けば何か分かるかもしれん」
「あっ、有り難うございます!」
ということで、取り敢えず、ピエロに言われたとおりにその情報屋の所まで行こうとした。が、道が複雑過ぎて分からない。
道に迷っていると、怪しげな街頭に出た。
昼間の筈なのに、まるで夜のように暗い。
でも、ピエロが教えてくれた道は、この道で合っている筈だ。
「おい、そこの姉ちゃん。そんな所で何してんだ?」
「俺らと遊ばねぇ?なぁ、折角ここで会ったんだしよ」
黒いローブを纏った女の子が二人の男にナンパをされていた。
「なあ、姉ちゃんよぉ」
右側にいる背の高い男がその女の子の腕を掴もうとする。
すると、女の子は、その腕を振り払って冷たくその男達を罵倒する。
「私に触らないでくれる?あんた達?けがわらしいわ」
男達はカチンと頭にきたのかその女の子に掴みかかろうとする。
危ない。助けなくちゃ。
「おい」
俺は、左側にいる男に手を掛ける。
そして、次の瞬間その男の顔を思いっきり殴りつける。
もう一人の背の高い男は、いきなりの襲撃に動揺する。
その隙を突いて背の高い男の顔も殴りつける。
「ぶへぇ」
背の高い男は、ゆっくりと地面に倒れる。
「今だ!逃げるぞ!」
「え?ちょっと、あなた・・・」
俺は、黒いローブを羽織った女の子の手を握ってその場から逃げ出す。
走る。とにかく走り続ける。
女の子の手は小さくて猫の肉球のような柔らかい感触だった。
いつの間にか、広場のような場所に着いた。広場の中央には噴水があり、落ち着いた雰囲気のある場所だった。
「ここまで来たらもう大丈夫だろう」
思いっきり走ったから足の太股の筋肉が痛い。
「あの、手・・・」
女の子の凜と良く透き通る鈴のような声が耳に触れる。
「ご、ごめん」
直ぐに手を離して、隣にいる女の子を見る。
天使だ。
俺は、彼女を一目見てそう思った。
小さく、細い陶器のような白い肌に、背中まである流れるような金色の長い髪。
そして、青空のように澄み切った青い瞳は、彼女の出す妖精のようなオーラを一層引き立たせていた。
女の子は、ぷいと顔を横にして
「ほんと、いきなりレディの手を掴むなんて最低!」
「ごめん」
女の子は、ちらりと俺の方を見て、
「別に良いわよ。もう終わった事なんだし。あと・・・」
女の子は、顔を真っ赤にして
「助けてくれてありがと」
女の子の金髪の髪が風でゆらりと棚引く。
彼女はにっこりと微笑んで、
「私の名前は、ミリル。宜しく」
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