京都アヤカシ物語

のび太

第1話 夜行バスは静かに揺れる

新宿のバスターミナルを出て数時間、バスは最初のパーキングエリアに停車した。

トイレ休憩は15分、時間厳守を促すアナウンスの後で車内の照明が点灯する。

満員のバスの中からゾロゾロと乗客が降りて行く。言葉を発する者は誰1人として居ない、同じ空間にいながらもあくまでも他人同士だという異様な雰囲気がそこには立ち込めていた。


言葉なくバスを降りて行く乗客たち。

いつか観た映画で描かれていた「強制収用労働者たちが現場に駆り出されるシーン」に似ているなあと思った。僕もその1人としてバスを出る。

深夜24時のパーキングエリア、停車されているのはトラックばかりだった。

トイレには行かずに自動販売機で水を買った。近くのベンチに腰掛けてペットボトルのキャップを開ける。ここはまだ神奈川県らしい。目的地の京都はまだまだずっと先だ。


日付が変わって本日は8月20日。

夏休み終盤。受験生が必死になっている頃だ。

ちなみにパーキングエリアでこうして水を飲んでいる僕も、受験生だ。

高校三年生にとっての夏休み、それは勉強の夏である。


担任の木村先生はこう言っていた。

「この夏は勝負の夏だ」

まさしくその通りだと僕も思う。


そんな勝負の夏に僕は1人で京都を目指している。受験生としてあるまじき状況だ。しかしこれには致し方ない理由がある。

現実逃避をするために京都へ旅行しているわけじゃない。

合格祈願なんて神頼みのためにわざわざ茨城から出てきたわけでもない。


僕は、許嫁の女の子に会うために京都を目指している。


事の発端はお盆参り。

縁台でガリガリ君を食べていた僕に向かって、祖母が言い放った一言が原因だった。









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