三題噺シリーズ 人類 再生 鍵

西ノ京

第1話

「宮子はこの鍵って何か知ってる?」

 部室の椅子にだらしなく座り、鍵先を天井に向け開け閉めの動作を行っていた。

「ここの鍵じゃないの?」

 新作の探偵小説を読んでいた私は多少ぶっきらぼうな返答をした。

「そんなことなら聞かないし、そもそも部室の鍵当番あんたじゃない」

「そういえばそうね」

 ポケットの中から鍵を取り出し、存在を確認した。

「どこから出てきたの」

「机の上に置かれてた~」

 机を挟んで座っていた有紀は鍵を私の目の前に置いた。

「今日はまだ誰も来てないし、ロッカーの鍵でもなさそうなのよね」

 本を閉じ、鍵を手に取る。

「両面には何も書いてない、キーホルダーもついてないのね」

 小指の第二関節くらいまでしかない鍵は無個性だった。

「これじゃ持ち主なんてわからないわ」

「宮子探偵はなんの鍵だと思う?」

 肘をつきながらニヤニヤ笑っている、私を探偵と呼ぶ時はからかう時と相場が決まっている。

「そうね、私が思うにその鍵は日記帳の鍵ね」

 有紀に鍵を返し、小説の続きに目をやった。

「造りも難しいものではないし、子供の宝箱とかの可能性もあるわね、どこにでもある普通の鍵よ」

「宮子探偵、もう少し面白い返答とか出来ないのぉ?」

 期待していた答えが返って来なくてどうやら不満を持ったようだ。

「どんな答えが欲しかったの」

 小説の中の探偵は超能力を持っているらしい、私にも力があればいいのにと思う。

「そうね、例えばパンドラの匣とかはどうかしら」

「パンドラの匣ねえ」

 そんな人類を左右するような匣の鍵がこんな所にあってもいいものだろうか。

「仮にその鍵がパンドラの匣だったらどうするの、有紀助手」

「あたしなら探しに行くかな、世界をこの手に掴むのよ」

「どこの悪役なのよ」

 ため息をつきながら本を閉じた。

「あっそんな憐れみを含んだ目であたしを見ないで!」

 そんな目で見たつもりはないのだけど。

「あたし達の知らない不思議がこの世にはまだいっぱいあるのよ。あなたにはこのロマンがわからないの?」

「不思議…不思議ねえ…」

 確かに不思議なことや知らないことは沢山ある。

 心霊現象やUMAや呪いや宗教。

 解明されているものもあれば、未だ胡散臭いテレビや雑誌に取り上げられる現象もある。

「じゃあ有紀はこれがオカルト的なものであるといいたいのね」

「別にそんなつもりはないわ、ただ刺激が欲しいのよ、あたしは!」

「人に指を向けないの」

 指を曲がらない方向に動かしてやろうかと思ったけども可哀想だから握り拳の形にしてあげた。

「刺激が欲しいなら、ホラーのDVD貸してあげるよ、私はミステリも好きだけどホラーも好物よ」

「死んでも再生しないわ、あたしがホラー苦手なの知ってるくせに」

「ごめんごめん」

 アニメでよく見るイーっだ顔になる有紀は素直に可愛いと思う。

「でも有紀の口からパンドラの匣って単語が出てくるとは思わなかったわ、どういう風の吹き回し?」

「ん? いや別に昨日の夜に都市伝説の番組がやってたからだよ、ところでパンドラの匣ってなに?」

「有紀の所に匣がなくてよかったわ」

「結局この限ってなんだったのかしら」

「さあ? この世には不思議でいっぱいだからね、都市伝説系のネットの掲示板に書き込んだら?」

「人類を救う鍵だったらなあ」

 人の話を聞いていない同級生はまた鍵先を天井に向けて開け閉めをしている。

「さっきまで世界をこの手にみたいなことを言ってたのは誰だったかな」

「過去は忘れるものよ、いい女はね」

 再び開いた小説は探偵が高笑いをしながら事件を解説していた。

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三題噺シリーズ 人類 再生 鍵 西ノ京 @nishinokyou

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