私と彼女の映画鑑賞
@zeon_no_hito
有名恐竜映画2作目に捧ぐ。
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この文章は百合SS Advent Calendar 7日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/2944
来年はがんばります
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「さっきから乳首痛いんだけど」
私の膝と炬燵の布団に挟まれている彼女は不満そうな声を上げた。
肘で軽く横腹を突いてくるが、意識はまだ目の前のテレビにあるようだ。テレビ画面には先日レンタルした某有名恐竜映画の2作目が流れている。始まって1時間は経っただろうか。ふと顔をうつむけたとき、彼女のうなじ越しに豊かな双丘が見えることに気がついてしまった私はその欲求を抑えられず、彼女のスウェットの背中から手を回して丘の頭頂を開拓していたのだ。
「無限プチプチって一時話題になったじゃない?」
「私の乳首は手遊びの道具じゃねぇ」
そう言って彼女は否定するが、2つの突起は手持ち無沙汰を解消するためにあると言っても過言ではない。しっかり摘めるが決して長すぎず、表面の適度なザラザラ具合と湿り気、そして癖になる弾力はいつまでも触っていたくなる魔性の力が宿っている。まして退屈な時には尚更だ。
「さて、ここで一つ推理ゲームをしようかしら」
私は唐突に口を開いた。
「私は貴方の乳首をこねくり回す、しかし貴方は悪態をついてもそれを決して拒まない」
そして私に映画を真剣に観ている彼女を邪魔する趣味はない。
「つまり……」
そこから導き出される答えは1つ。
「君は私と同じくこの映画を観るのに飽きてしまったということなのよ!」
テレビを見続けているので後頭部しか見えない彼女の耳元で私の名推理を披露するも反応が薄い。はて、名探偵も廃業だろうかと思っていたら彼女が呆れた表情で振り返った。
「ツッコミどころは多いけど、飽きたというのには同意する」
「あ、やっぱり?私の感覚がおかしいのかと不安だったけどこれで安心ね」
互いに同じことを考えていたのか、堰を切ったように感想を言い合う。
「一作目は面白かったんだけどなー」
「あれはメイキング映像まで揃って完成された作品だったわね」
「そこまでは観てないけど。全体的に雑な感じがするんだよな、今作」
「一言で言うとただのパニック映画ね」
「そう、それ!迫力があるだけですごく薄っぺらいんだよ」
合点がいったのか彼女がバシバシと炬燵の中の私の足を叩く。
「ほら、今もティラノサウルスから人々が逃げ惑うだけでの単調な展開が続いているわ」
彼女がテレビへと視線を戻す。画面では脱走した肉食恐竜が街で人々を襲っているシーンが流れている。逃げ惑う市民、踏み潰される警官、爆発する車。
「恐竜から逃げる展開は1作目と変わらないのに、どうして印象がこんなにも違うんだ?」
「その答えは前作のメイキングにあったと思うの。監督はインタビューで『恐竜を生き物として描きたい』と言っていたわ。確かにパニック映画の側面はあったかもしれないけれど、主役の恐竜学者が遭遇した恐竜の生態を解説することで、生き物としてうまく立体感がでていたわ。でも2作目にはそれがない。恐竜を理解しようともせず捕獲して持ち帰って大騒ぎするだけ。そんなのスケールの小さいゴジラでしかないわ」
長々とした私見を語り終えて得意顔をする。ついでにこれが私の答えだと言わんばかりに指の間で挟んでいた突起を弾いた。
「確かに生き物としての生々しさはなかったかも」
「人を襲って捕食してを繰り返す生き物としての自然さを捨てた何か。全く度し難いわね」
私はため息を付きながらややオーバーに首を横に振った。
「でも、建前上は奪われた子供を探してるって話だろ。母性本能があって動物っぽいじゃん。これで駄目ならアタシらも余程不自然じゃないか?」
そういって彼女はテレビの方を向いたまま私にもたれかかり背を預けてきた。彼女の背中と触れた部分が体温で温かくなるが、それとは対象的に私の心には隙間風のように不安が入り込んできた。映画の批評で終わるはずだったのに思わぬところで彼女が食い付いてきたからだ。
「不自然、というと?」
私はなるべく不安を悟られないように自然に聞き返す。彼女の表情から意図を知りたかったが、彼女を背中から抱いているような姿勢のため後頭部しか見ることができない。
「女同士ってこと。つがいになって子孫を残しているこの恐竜に比べると不自然でしょ」
「最近はそういうことをいうとLGBTさんが群がって――」
「それは他人から見られたときにとやかく言われたくないって話だろ。アタシはその当事者の
お茶を濁そうとするも遮られてしまった。彼女がまくしたててまでこの話にこだわる理由がわからない。普段はそのぶっきら棒な口調よろしくガサツな振る舞いをしているのに、私達の関係について考えていたのだろうか。私は彼女の心の内を読もうと考えを巡らせていたが、これ以上の沈黙は柄でもないので無難に相槌を打つ。
「なるほど、そういう考えもあるかもね」
「だろ? 極端な話、全人類がアタシらみたいな生活を送ってたら次の代がいなくなって人はいなくなるわけだよ。そういう意味で生き物らしくはないんじゃないか?」
そう言って彼女が振り返ると表情を伺おうとしていた私とバッチリ目が合う。黒い瞳の奥に強い意思を感じて私は思わず目を逸しまう。しまったと思い反射的に口を開く。
「だ、だとすると私達は生命の環から外れた新人類、滅びゆく世界で愛を興じる詩人ね!」
「……言ってることが狂人だ」
少しの間はあったが、彼女はやれやれと呆れたように笑った。露骨な動揺を見逃された私は調子を戻すために言葉を続ける。
「戯言と思うかもしれないけれど、今がとても心地いいの。貴女は違うの?」
「まぁ、もう少し若かったら周りとの違いをもう少し深刻に捉えたかもしれないけど、いまさら繊細な少女にはなれないな。今が良ければそれでいいさ」
「それはよかった」
彼女の言葉がどこまで私のために言ったのかはわからなかったが、彼女の意識が再びテレビに戻ったことでこの話は終わりとなった。
私も彼女につられて見てみると、壮大な音楽と共にキャストの名前が流れていた。
「あら、喋ってる間にエンドロールになっちゃった」
「今作の違和感のある恐竜もまぁ悪くはなかったかな」
「――いや、駄作よ」
私は指先で弾いた。
私と彼女の映画鑑賞 @zeon_no_hito
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