第2話走馬灯
走馬灯で見る風景は、暖かい暗闇で誰かの寝息と男たちの話し声が聞こえた。
「して、実験結果はどうなっている?」
「申し上げにくいことなのですが、献体Dの実験は失敗だと言わざるおえません」
俺は前世の記憶をもっていた。だから羊水の海の中でも、意識をもつことが出来たのだろう。
「詳細を述べよ」
「はい。献体Dは、予想された失敗した場合に表れるもっとも可能性の高い結果、忌み子です」
「ふん、鬼の子として生まれるというのか。もとは人だ。本人ではあるまい」
「そのように推定されます」
「では、献体Dは計画通り、破棄の方向で進めよ」
吐き気すらもよおすほどの冷徹なやり取りだ。連中はただ者ではないだろう。
「一つの問題と提案がございます。ここまで育つと、現時点での破棄は母体に悪影響がでます。そして、実際の出産までの経過を観察したく存じ上げます」
「わかった。出産後、献体Dは破棄とする。その際、母体が忌み子を破棄するよう提案した場合は、引き続き母体として利用する。もし、忌み子を産み私に判断を任せるような愚鈍なら、もう必要ない。母体も破棄とする」
場面は変わって、俺が産まれたときに移る。
「残念ながら、忌み子にございます」
俺の目の前にいる母体は、涙を流し絶望しているようだ。付き添いの女、俺を捨てに行った女もいる。
「わかりました。この子は死産であったと致します。後は、良しなに」
走馬灯が終わると、俺は海へと堕ちていった。その瞬間、黒い影に覆われたのを覚えている。
次に目覚めたのは、森が迫る海岸沿いだ。
人の気配がしたから目覚めたのだろう。俺が泣き叫ぶと、そいつはこの脆弱な体を抱き上げた。
金髪金眼の長い耳が見えた。胸には金翼の飾りがある。
その美しい顔は、酷く森厳で少女に神秘的な雰囲気を与えていた。
が、まぬけに歪む。
「どうしましたか、僕ちゃん? 独りで寂しかったですか? あっぷっぷ」
さっきまでとは酷い落差だ。なんて、能天気な声を出す女だ。
流石の俺でも、この急展開にはついていけず、赤子ながら、唖然としてしまった。
赤子を唖然とさせるとは、スゲー女に捕まったものだ。俺のシリアスなはずの人生の、先行きがスゲー不安になった瞬間でもある。
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