魔術世界の鬼姫戦記

@natume11

第1話 プロローグ

鏡を見るのが毎日の日課であり、楽しみでもある。部屋で存在感を発揮している大きく豪奢な全身鏡。それに私は自分の全身を写す。

 パッチリとした大きな瞳。艶やかな唇。肌は白磁のように白く、遠目から見ているだけでもその滑らかさが伝わってくるようだ。腰まであるブラウンの長い髪は指通りがよく、枝毛一つない。スタイルも抜群で、出るところは出て、引っ込むべき部分はきゅっと引き締まっている。

「あ……あぁ……」

 恍惚の吐息。

 私は鏡にゆっくりと指を這わせた。

「なんて綺麗なの……」

 蕩けきった表情で、絶対的な真実を私は口にした。綺麗でないはずがない。だって、『私』なのだから。

「世界で一番私が綺麗……」

 男女問わず、私の姿を見れば、それだけで失禁しながら同意するに違いない。

「ねぇ、ミリーもそう思うでしょう?」

「仰るとおりでございます。アーシア姫様は世界で一番お美しくおられます」

 そうだろう。そうだろう。

 ちなみに当たり前の事実を返事したのは、私付きのメイドであるミリーだ。ミリー・ミシガン。この子もそれなりに可愛いのだが、常に私の側にいるため、私と比較されてしまう可哀想な子であった。

「ミリー、着替え」

「はい。アーシア姫様こちらへ」

 小柄な体軀を忙しなく動かし、私――――リヴァリア王国第三皇女アーシア・ミーナ・リヴァリアのドレスをミリーは用意する。

「はいはい」

 朝は余裕を持ってが、私の流儀。日の出とともに起き、夜更かしは厳禁。玉のお肌をを維持するのも楽ではない。しかし、その代わりと言ってはなんだが、体調はすこぶるいい。ここ何年も病気という病気をした経験はなかった。

「…………少し腕をお上げください」

「ええ」

 専用のビスチェを身につけ、その上からドレスを着る。今日は華柄のAラインドレスである。着替えの最中は、私は特に何もしなくてもいい。ミリーに言われた通りに少し動いていれば、細々としたことはすべてミリーがやってくれた。五年前――――私が十歳、ミリーが七歳の頃からずっと私達は共に生活してきているのだ。必然、仲が良い。

「今日は一緒にお散歩にでも行きましょうか?」

「…………ご冗談を。私は他に仕事がありますので」

 吐き捨てるように却下されたのは気のせいだろう。ミリーは私付きとはいえ、他にも仕事がある。きっとサボると他のメイド仲間に文句を言われるのだ。

「はい。……姫様できました」

「そう、ありがとう」

 改めて、私は鏡の前に立つ。

「わぁ、可愛いっ!」

 ヒラッとドレスの裾を翻してみる。チラチラ見える太ももが眩しい。男がこの場にいたならば、聖人であろうと息を荒らげてすぐに襲いかかってくるだろう。まったく私は罪作りな存在だ。

 私は振り返ってミリーを見る。小柄で巨乳。メイド服の胸元だけが不自然に大きく膨らんでいる。黒髪のショートカットに人形のような顔立ち。

 うん! 何度見ても――――

「ミリーも可愛いっ! 私の次に!」

「………………ありがとうございます」

「もう朝から暗いって! 元気だそうよっ!」

「………………はい」

 ミリーは聞いているだけで気の沈むような声で返事した後、一礼して退出した。

 あの子もそれなりに可愛いのだが、あの暗い性格だけはどうかした方がいいと思う。だが少し考えて、あぁそうかと私は思い直した。私のような完璧な女性の見本のような存在がいれば、ミリーが自分に自信をもてないのも当然の事である。私はミリーの不憫さを思い、少し涙を流した。

 泣いてる私も素敵……っ!

「さてっ! 今日も頑張ろうっ!」

 こうして今日も、私の輝かしい一日が始まるのである。

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